「お金がない」って一番大事
YUMA SHIRAHANが言った通り、一緒に住んでた頃はお金がないなりに楽しんでましたね。上裸に革ジャンを着て、ハンバーガーを食べながら「今日はワイルドパーティだ!」とか言って。
RYO あったあった(笑)。YouTubeでの映像配信をやってなかった頃で、別にカメラが回ってないのに「今日はワイルドで!」とそれぞれがテーマに合わせた衣装を着て。
YUMA それで準備が整ったら、ただワイルドにハンバーガーを食べるっていう。
──僕はルームシェアの経験がないので、そういう毎日が文化祭みたいな感じはうらやましいです。なんか「ひとつ屋根の下」(※1993年にフジテレビ系で放送されたドラマ)みたいじゃないですか。
YUMA あんちゃん(※江口洋介が演じる主人公の柏木達也)が「うちは貧乏なんだよ!」と言いながらも、兄弟6人で楽しく暮らしてる感じですよね。
RYO 俺らもマジでお金がなかったから、ときには美容院に行けなくて、しょうがないからお互いに髪を切り合ってたよね(笑)。
YUMA 俺もずっとSHIRAHANに髪を切ってもらってたし。
RYO 逆に、俺がSHIRAHANの髪を切ったら失敗して坊主になった(笑)。
SHIRAHAN あれはショックでした!
──お風呂に入れないから、公園の水で体を洗ってた時代ですよね? あと、当時は食費がなくなったら公園で虫を捕まえてきて、天ぷらにして食べてたとか。
YUMA アハハハ(笑)、そうです。
──相当つらかったはずなのに、その生活を楽しめていたのはすごいですよね。
YUMA 振り返ると「お金がない」って一番大事なことでした。
SHIRAHAN 絶対にいいことでしたよ。お金がなければ知恵と工夫が必要になる。贅沢品どころか生活用品も買えないから、代わりになるものをアイデアで補うことがすごく大事で。その経験が今の活動にも生かされてると思いますね。
YUMA あの頃があったからこそ、なんでもできそうな気持ちが生まれたよね。
KARASU まさにSHIRAHANの歌う「金がなけりゃハンドメイド Do it yourself 俺らのMind 困った時は皆支え合ってぇ 切磋琢磨してた毎日」だよね。
──ちなみに「おかえり桜」と去年4月に発表したアルバム「FRONTIER」の収録曲「宝物」は、すごく親和性が高いと思ってまして。
KARASU ああ、なるほど。
──「宝物」は上京後、故郷へ戻ってきたときの心境を歌った曲ですよね。
KARASU そうです。今だと「宝物」の話をするほうが恥ずかしいよな。
──僕に限らず、おそらくファンの方も「おかえり桜」は「宝物」の続編のように受け取る方もいると思うんですよね。
SHIRAHAN その通りだと思います。そう感じてもらえたら、一番わかりやすいですね。「宝物」の頃はまだ幼くて、それから少し大人になって書いたのが「おかえり桜」です。
──「おかえり桜」はバラードですけど、ダンスパフォーマンスはどのように考えてますか?
YUMA この曲に関しては“歌うSHARE LOCK HOMES”をテーマにしているので踊らないんですよ。ダンサーではなくアーティストとして見てもらいたいってことですね。例えばほかのボーイズグループでもダンスせず、歌うことに集中する楽曲がいっぱいあるじゃないですか。そんなふうにダンスがなくても成立している事例を見ているので、俺らも勝負しようと。歌も本気でやっていることを皆さんに認めてもらいたいと思ってます。
──とはいえ世間の認識はSLH=ダンスですよね。
YUMA 俺らの根底に一番根強くあるのは“なんでも屋さん”なんで。なんでもできる人になりたいんですよ。
KARASU ダンスのおまけで歌があるんじゃなくて、どちらも同じくらい大事にしていることを伝えるのが「おかえり桜」の趣旨ですね。
火曜日と縁の深いSLH
──続いて2曲目「Tuesday night fever」は、FM Yokohamaで毎週火曜日に放送されている皆さんのレギュラー番組「それっちゃ!ホゲホゲ!」のことを歌った曲ですよね?
SHIRAHAN それもあるんですけど、番組だけじゃないんです。
RYO 俺らが大事にしてきた「WHAT SON HOUSE」というオールナイトイベントとも関係してます。それも火曜にやっていたので。
YUMA 何をやるにしても、俺らは火曜日が多いんですよね。2019年にTSUTAYA O-EASTで開催したワンマン(「DEPARTURE 〜船長命令!これクルー全員参加のやつだからよろしくパート1〜 東京ファイナル」)も火曜だったし。
スタッフ ……ぶっちゃけ、元々のモチーフは「それっちゃ!ホゲホゲ!」だけだったんだよね。最初に完成した歌詞に局名がそのまま入っていたので、「それはダメ!」と言ったんです(笑)。
KARASU ちょっと、それは内緒にしようと思ったのに!(笑) バレたので言いますけど、最初はSHIRAHANのヴァースで思いっきり「fm yokohama 84.7」と書いてたんですよ。だけど「これは限定的すぎるやろ」って。
YUMA それだとほかのラジオ局で流してもらえないから、もう少し解釈の幅を広げられる歌詞にしました(笑)。
KARASU その結果、かなり尖った曲になりました。
スタッフ 最初にSHIRAHANから「この曲はどうやったらカッコよくなりますかね?」と相談されて。「それならバンドサウンドにしたらいいんじゃない?」と提案しました。
YUMA バンドの生音を使ったんですよ。お金がかかってます(笑)。
SHIRAHAN そのおかげで、めちゃくちゃカッコよくなりました。ぶっちゃけインストだけでも成立するんですよ。俺らの歌とか歌詞はなくてもいいっす!
KARASU アハハハ(笑)。インスト版も収録したかったよね。
SHIRAHAN 俺たちはロックダンスをやってきたからファンクとかソウルが大好きで、長年よく聴いてきたんです。だから「Tuesday night fever」はSLHの原点を示すような曲なんですよ。さらに言えば「おかえり桜」の題材となった、上京したての頃からファンクやソウルを聴いていたので、どちらの曲にも同じ背景が詰まってる。ある意味で対になっているんですよね。
KARASU 近年ファンク色の強いアーティストだと、ブルーノ・マーズがすごい人気ですよね。ファンクという言葉を聞き慣れていない方も、実は街中でファンクサウンドを聴いてると思うので、最近の洋楽が好きな人は俺らの曲も気に入ってくれるんじゃないかなと。
YUMA あとは社会人の方は、歌詞の内容にすごく共感してもらえると思います。
KARASU 振りはまだ1%もできてませんけど、楽曲に負けないようなダンスでも魅せていけたら。
究極のダンスは曲がなくても人を魅了できる
──ダンスの話題が出たのでぜひ4人に聞いてみたいんですけど、「いいダンス」ってなんだと思います?
KARASU ああ……難しいな。見てくれる人が何を求めているか、ですよね。めちゃくちゃカッコいいダンスを求めているのか、それともマネしたくなるようなダンスを求めているのか。中には「キャッチーな振り付けを見てるだけで満足」という方もいるし。そんな中でSLHは、楽曲ごとで柔軟にダンスのスタイルを変えていけるのが強みやと思っているんです。例えば目を惹きやすいダンスをいくつかやって、みんなに注目され始めたらアヴァンギャルドなものも披露するとか。お客さんが徐々に慣れていけるようにしてますね。そこが「SLHのダンスがいい」と言われる所以なのかなと思います。「このダンスがいい」という思考回路を作っていく感じなんかなって。
──逆に見る側としては、どんな部分に注目していますか?
KARASU 僕の中でソロダンスとチームダンスは別物なんです。ソロダンスに関して言うと、例えば車ってエンジンとかギアとか、いろんな部品が集まって動きますよね。それと一緒で、体のパーツ1つひとつの動きを細かく見てますね。
──じゃあチームダンスの場合は、どこに注目されているんですか?
KARASU 構成力とシルエットですね。「広がったり集まったりしてる」「ここはあえて奥へ行ってんねや」「あ、でもこっちは手前に行ってる」とか、そういう目線で見ちゃいます。一般の方はなんとなく全体像で見ちゃうと思うんです。それは体の動かし方がわからないから、当然なんですよね。
──SHIRAHANさんはどうでしょう?
SHIRAHAN そもそも俺は基礎的な動きや振り付けをひたすら練習するところから始めたので、キレがあること、スキルがあることが正義だと思っていたんです。だけどニコニコ動画の「踊ってみた」動画を見たら、支持されている人は必ずしもスキルが高いわけではなくて。
──うまい=評価されるだけじゃなかった。
SHIRAHAN そうです。俺らが活動していたストリートはスキルありきの世界だったけど、「技術じゃない部分を武器にしている人たちは何がいいんだろう?」と解析してみたら、結局はいかに曲やダンスが好きな気持ちが表れているか、なんですよね。俺は今まで習ってきた基礎ありきで、表現の幅を広げていったんですけど、そういう道を通ってない人だからこそできる表現の仕方があって。それもダンスの魅力なんだと気付きました。加えて気持ちとスキルをうまくミックスしている人は、“ダンス”という表現に収まらないこともわかった。
──“ダンス”という表現に収まらない?
SHIRAHAN 曲って耳で聴きますよね? 音が耳から伝わって気持ちよさを感じる。逆に音がなくても、目だけで楽しさを表現するのもダンスの本質であって。つまり曲がなくても、ダンスだけで魅了できる人が俺的にはすごいと思いますね。
──ダンスって音ありきだと思っていたけど、そうじゃないんですね。
SHIRAHAN 三浦大知さんの「無音ダンス」ってあるじゃないですか。あれはスキルがないとできないパフォーマンスですけど、気持ちも伴ったうえでのスキルだから素晴らしいんです。「すげえ!」と心を惹かれますよね。ダンスだけで、観ている人に音楽を想起させることができる。それが究極の形だなと思いますし、簡単にできないからこそ、みんなの心にもグッとくるものがあるのかなと思いますね……三浦大知さんすげえっす!
KARASU そこに着地するんや(笑)。