2019年10月にテレビ東京系アニメ「ゾイドワイルド ZERO」のヒロイン、サリー・ランド役で声優デビューし、11月に同アニメのエンディングテーマ「ヒカリ」で歌手デビューを果たした千田葉月。ピュアな表現力で注目を浴びている彼女が自身の誕生日にあたる8月11日に2ndシングル「名もなき旅」を配信リリースした。
アニメ「ゾイドワイルド ZERO」の新エンディングテーマとして制作されたこの曲は、「ヒカリ」と同様に島崎貴光が音楽プロデュースを担当。エッジの効いたギターサウンド、葛藤と希望をストレートに描き出す歌詞が1つになったロックチューンに仕上がっている。デビューから約9カ月、さまざまな不安や悩みを乗り越えながら声優アーティストとして着実な成長を遂げる千田に、「名もなき旅」の制作や今後のビジョンについて語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 堀内彩香
2カ月空いて、また緊張
──2019年10月に「ゾイドワイルド ZERO」の放送がスタートし、11月にデビュー曲「ヒカリ」がリリースされました。デビューから9カ月ほど経ちましたが、この間を振り返ってどんなことを感じますか?
デビューの頃は右も左もわからない状態だったんですけど、今はちょっとだけ現場にも慣れてきました。キャストの皆さん、スタッフの方々とごはんに行かせてもらって、いろんな話を聞かせてもらったり。そのおかげで少しずつ緊張も解けてきて、少しはリラックスしてマイクの前に立てるようになりました。ただ、コロナで収録が2カ月空いてしまったので、再開直後はやっぱり緊張しちゃいましたね。台本を持つ手が震えて「ヤバい!」って(笑)。
──せっかく慣れてきたのに、リセットされてしまった(笑)。
そうなんですよ。アフレコの現場は(感染予防のために)カーテンで仕切られているから、誰に見られているわけでもないのに。もともと緊張しがちなタイプなんですよ、私。人と話すだけで体が強張っちゃうし、今もちょっと緊張してます。アフレコに関しては、もう一度新鮮な気持ちで収録に臨めたのはよかったと思いますけどね。
──千田さんが声を担当しているサリー・ランドに対する理解も深まってきたのでは?
収録がなかった2カ月間、これまでの台本を最初から読み直してみたんです。「ゾイドワイルド ZERO」はオリジナル作品だから、回を重ねるごとに要素が増えていて。もう一度最初のほうを読み返すことで「こういう一面もあったんだな」と気付くことができたし、「レオ(・コンラッド)と出会う前のサリーちゃんって、どうだったかな」とキャラクターの気持ちを何度も想像してみたり。この作業を繰り返すことによって、自分なりにサリーちゃんを構築したいと思いました。
──ジョー・アイセル役の日笠陽子さんと一緒にパーソナリティをされているインターネットラジオ(「千田と日笠のゾイドワイルド ZEROラジオ」)も好評ですね。先輩声優の皆さんから得られるものも大きいのでは?
すごく大きいです。日笠さんもフランクに話してくださるし、ほかのキャストの皆さんからもたくさんアドバイスをいただきました。デビューして間もないですし、本当に学ぶことばかりで、試行錯誤しながら少しずつ進んでいるところですね。心に残ってるのは、「台本は“これでいい”と思ったところから“倍”読み込んで」という言葉です。すべてのト書きやセリフに意図があるはずだから、それに気付けるまで読み込んでいきました。
──深いですね……。
「今まで全然読み込めてなかったな」と思ったし、そのアドバイスをいただいてから、さらに時間をかけてじっくり読むようになりました。何度も読み返していると、「なるほど、このセリフがこの場面につながるのか」と気付いたり、「だからサリーちゃんはこういう反応をしたんだな」と思ったり。あと、「まず作品自体に触れて、そのときに感じた気持ちを乗せたほうがいい」という言葉ももらったんです。どうしても「がんばらなきゃ!」と思いすぎてしまっていたし、それが周りの皆さんにも伝わっていたみたいで。根を詰めすぎないで、もっと感情を動かしたほうがいいというか……。「やらなきゃ」という気持ちも大事だけど、最近は「どう楽しむか」ということを意識してます。
──本当にストイックなんですね。ステイホーム期間中、ゆっくりできる時間もありました?
はい! 部屋の中でハンモックに座って(笑)、紅茶を飲んだり、作業したり。ゲームもけっこうやってましたよ。
──よかったです(笑)。デビュー曲「ヒカリ」の反響についてはどうでしたか?
まず、友達が喜んでくれましたね。役者や歌手を目指している友達も多くて、「うれしくて泣いちゃった」「私も、もっとがんばらないと!」みたいに連絡をくれたんです。ずっと「一緒にがんばろうね」と言ってた仲間だから、みんなの背中を押せたらいいなって。事務所に送っていただいたファンレターもすごく励みになりました。デビューが決まったときと同じくらいうれしかったし、スキップしながら帰りましたね。
──自分で「ヒカリ」を聴き返すこともありますか?
あります! 好きな曲をシャッフルで聴いてるときにイントロが流れてきて「自分の曲だ!」って。「懐かしいな」と思っちゃうんですよね、なぜか。まだ8カ月くらいしか経ってないのに。
初心を思い出すロックチューン
──新曲「名もなき旅」について聞かせてください。「ヒカリ」に比べると、ロックテイストが強いですよね。
疾走感がすごくあって、かなりロックですよね。最初に聴いたときは「カッケーな!」と思いました。こういう感じの曲が好きだし、歌いたいと思っていたので、すごくうれしかったです。普段もロック系を聴くことが多いんですよ。Mrs. GREEN APPLEとかLiSAさんが好きなので、「名もなき旅」みたいなタイプの曲は願ったり叶ったりですね。音楽プロデューサーの島崎さんと「こういう感じの曲を歌いたいです」という話をすることもあるので、もしかしたら私の気持ちを汲んでくださったのかも。歌詞も素晴らしいんですよ。
──作詞は「ヒカリ」に続き、柊木七音さんです。
「ヒカリ」も素敵な曲だったんですけど、今回の歌詞もお気に入りです。最初に歌詞を読ませてもらったときに浮かんできたイメージは、砂漠の中を1人で進んでいる場面だったんです。でも、振り返ると仲間が手を振っていて。強い気持ちを持って進んでるんだけど、大切な仲間のことは忘れてないし、感謝してるよって……特に「大切な絆 離さないから」という歌詞はすごく好きですね。あと、「懐かしい声に 背中を押されて」「諦めないのは 君と私 どっちでしょう?」という歌詞もあって。解釈はいろいろあると思うんですけど、“君”は自分自身のことかもしれないなと思ったんです。声優、歌手を目指し始めたときの気持ち、初心を忘れちゃいけないなって。
──なるほど。「名もなき旅」の歌詞は、夢に向かって歩み始めたときの自分と、壁にぶつかっている自分が対話しているようにも聞こえますね。
私もそうだったんですよね。アフレコの現場でどうしていいかわからないことも多くて、「しっかりやらなくちゃ」と根を詰めてしまって。そういうときにこの曲の歌詞を読んで、「私、どうしてお芝居したかったんだっけ?」と思い返したり。アニメや声優さんが大好きで、「私もそういう仕事に携わりたい」と思っていた、その頃の気持ちを再確認できたんです。「名もなき旅」のおかげで。すごく葛藤していたぶん、「めっちゃわかる!」と思いました。
──一生懸命になりすぎると、最初のモチベーションを見失ってしまいがちですからね。
そうそう。壁にぶつかると気持ちがズーンとなりがちだし、楽しめなくなってしまうので。夢に向かって進み始めたときはキラキラしてたと思うし、それを思い出しつつ、上を見て進みたいですね。
──「名もなき旅」を通して、リスナーの皆さんにもポジティブな感情になってほしいという気持ちも?
それはすごくあります。「この手 掴め」という歌詞にはめちゃくちゃ力を込めたし、「独りなんかじゃない」もそうだし。曲を通して、「大丈夫、みんなで一緒に進んでいこう」「初心を思い出して、自分を信じていこう」という気持ちを伝えられたらいいですね。歌詞は文字数が少ないぶん、そこに込められたものをどれだけ掘り下げられるかが大事で。台本を読むときと同じように「この歌詞はもしかしたらこういう意味なのかも?」とずっと考えていました。正解がないからこそ、いろんな捉え方、楽しみ方ができると思います。
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眠ったり料理したり……恥ずかしい