千田葉月|「ゾイド」新ヒロインが歌手デビュー プラスのエネルギー伝える

100は出せるけど、50の出し方がよくわからない

──「ヒカリ」のレコーディングについても聞かせてください。初レコーディングになるわけですし、家でも練習されたと思いますが、そこで事前にボーカルプランを練ったりはしましたか?

「まずメロディを覚えなきゃ」って、とにかく仮歌を聴き込んだんですけれども、やっぱり凛さんと私では声質も違うし、そもそも凛さんは経験を積まれたプロの歌手なので「凛さんの歌は大好きだけど、私はこんなふうには歌えない」と思って、自分なりに「こう歌うんだ」みたいなイメージは描いていました。

──そのイメージって、言葉にできます?

千田葉月

簡単に言えば、自分の気持ちをできる限り正直に伝えようと。最初は「音程を外さないように」とか技術的なことにばかり意識が向いていたんですけど、歌詞を読んでいくうちに、さっきもちょっとお話ししたように私も共感できる部分が大きいので、とにかく歌詞に感情を込めることを優先させる感じで。ただ、実は本番のレコーディングの前に仮レコーディングをさせてもらったんですけど、そこでは力を入れすぎてしまったというか、すべてのパートを全力で歌ってしまったんですよ。

──「ヒカリ」は歌い上げるタイプのエモーショナルなミディアムバラードですから、全力で歌うこと自体は間違っていないと思いますけど……。

ずっと全力だと、自分が一番聞かせたい言葉もほかの歌詞に埋もれてしまうし、歌自体も一本調子になってしまうというのをそのとき学びました。実際、その仮レコーディングの音源を自分で聴いたらわんわん喚いてるだけのように聞こえて。そこでプロデューサーの島崎(貴光)さんから「ここは全力でもいいけど、歌詞の意味を引き立たせるためにもここは諭すように歌おう」といったアドバイスをいただいて、それを全部メモって本番に臨みました。

──本番ではそのディレクション通りに歌えました?

いや、やっぱり苦戦はしまして。本番でも島崎さんに細かくディレクションしていただいたんですけど、もともと私は演技にしても抑えることが苦手なんですよ。極端にいうと0か100かしかなくて、歌も同じように、100は出せるけど、50の出し方がよくわからないみたいな。実際、例えば最後のサビの「こんな私でも」は「60~70で」というディレクションをいただいたんですけど……。

──具体的な数値を設定されたんですね。

そうなんですよ。でも歌ってみたら「今の感じだと80だね」と言われ、「あとマイナス10ポイントか……どうやれば下がるんだろう?」と自分の中で悩みつつがんばって歌いました。あと、やっぱり「自由になれるんだ」のところとかは、気持ちが入りすぎて声が上ずっちゃうことが多々ありましたね(笑)。

自然と目線が上向く歌詞

──歌のレコーディングは、アニメのアフレコと比較してどんな違いがありました?

私はまだ「ゾイドワイルド ZERO」でしかアニメのアフレコ現場を経験していないんですけど、そこでは私以外は皆さん経験豊富な先輩方なので、引っ張っていただいている感じがあるし、やっぱりアフレコはチームプレーなんですよね。でもレコーディングは、ディレクションしていただいているとはいえブースに入るのも1人だし、自分の頭の中だけでぐるぐる考えを巡らせている時間が多かったですね。あと、レコーディングブースって、カーテンを閉じれば外からは何も見えないと思ってたんですよ。でも、監視カメラが付いていたらしく。

──監視をするためのカメラではないと思いますよ(笑)。

そうですよね(笑)。とにかくブース内にいる私の状況は、音声でしか島崎さんたちに伝わっていないと思い込んでたんですよ。レコーディングが終わるまで。だから「私は今、お水を飲んでいます」とか「メモを取っています」というアピールをするために、わざと大きな音を立ててたんです。メモを取り終わったら鉛筆も必要以上に勢いをつけて置いたりして。

──それって傍から見ると……。

ただのがさつな女になっていたという、恥ずかしい思い出が残りました(笑)。

──では、声優としてのスキルが歌に生きたと感じられたりは?

ちょうど本番のレコーディングの前に、アフレコの現場で音響監督さんから「このセリフは噛み締めるように言ってください」というディレクションをいただいて、そこで初めて“噛み締める”という表現を手に入れたんですね。それをさっそくこの「ヒカリ」でも取り入れたというか、例えばサビの「答えなどないから」などは噛み締めるような歌い方を意識しました。

──なるほど。

あと、私はどちらかと言うと、悲しみのようなマイナスの感情よりも、喜びや誰かへのエールみたいなプラスの感情を表現する演技が好きだし、得意だと思っているんですね。なので、1番Bメロの「希望へ繋ごう」はプラスのエネルギーをどうにかして伝えたくて、私も笑顔で歌いましたね。それぐらいしか工夫ができなかったんですけど(笑)。

──2番サビの最後「道しるべに 歩こう」も、気持ちが入っていますよね。

千田葉月

うれしいです。まさにそこは、「ここから踏み出すぞ!」という意思をどうやって伝えようかめちゃくちゃ考えて……私自身も上を向いて歌いました。なんか、最終的に体で表現する感じになってるんですけど、やっぱりこの曲の歌詞を声に出して歌うと、自然と目線が上向くんですよ。そうだ、歌詞に関して1つお話ししておきたいことがありまして。

──どうぞどうぞ。

「ヒカリ」の作詞をしてくださった柊木七音さんも、この曲で作詞家としてデビューされたんですよ。その柊木さんからレコーディングの直前にお手紙をいただいて。「デビューが重なってとてもうれしいです。一緒にがんばりましょう」といったことを書いてくださり、「こちらこそ!」という気持ちでいっぱいになりました。

──作詞に関して柊木さんとのやりとりは?

なかったんですよ。そのお手紙をいただいてから、昨日初めてお会いしたんです。

──ということは、千田さんの高校時代のエピソードなどを聞くことなしに、千田さんの心情とも重なる歌詞を書かれたと。

そうなんですよ。サリーちゃんとも重なるし、私とも重なるし、おまけにデビューまで重なるという奇跡的な歌詞なんです。それプラス、柊木さんが「ヒカリ」で作詞家デビューなさること自体はお手紙をいただく以前に島崎さんからお聞きしていたので、この曲の制作中は柊木さんが私の心の支えでもありました。やっぱり私は右も左もわからない新人だし、何をするにも不安だったんですよ。でも「柊木さんもこの曲でデビューするんだ」と勝手に仲間意識を抱いて。ここで2人同時にデビューしたのも何かご縁だと思っているので、またいつかご一緒したいです。

ポジティブでロックな曲を歌いたい

──先ほど「ヒカリ」を歌っていると自然と目線が上向くというお話をされましたが、これから「ヒカリ」を聴いてもらう人も、そういうふうに上を向いてもらいたいですか?

はい。私もオーディションの前などはいつも不安で、現場に向かうときはつい伏し目がちになっちゃうんですけど、あるときイヤフォンで音楽を聴きながら丸ノ内線の新宿駅を歩いていたら、たまたまLiSAさんの「だってアタシのヒーロー。」(アニメ「僕のヒーローアカデミア」第2期エンディングテーマ)がかかったんです。

──応援歌的なロックナンバーですね。

そうなんですよ。歌詞にも「フレーって フレーって」というフレーズが繰り返し出てくるし、それを聴いて「私、なんで下向いてるんだ!? がんばらなきゃ!」って、めちゃくちゃ勇気付けられたんですよ。そんなふうに「ヒカリ」も、夢に向かってがんばる誰かの背中を押せる曲になってほしいですね。

──では今後、シンガーとしてどんな歌を歌っていきたいですか?

最初のほうでお話したように、私はロックが、特にさわやか系のロックが大好きで、最近はMrs. GREEN APPLEさんにハマってるんです。なので、やっぱりロックを歌いたいというのはありますね。なおかつ、これも今言ったことと被るんですけど、聴いてくれる人の目線を上向かせるような、ポジティブなメッセージを持った曲を歌っていきたいです。

千田葉月