婚姻届は判を押せばいい状態にしておきます

じん　そういえば暗黒の2年の間も囁一さんはいろんなデモを聴かせてくれたんですけど、それがいい曲なんですよ。「わっ、これカッコいいじゃないですか。リリースしないんですか？」って僕は言うんですけど、囁一さんは「いやいや違うんだ」って。停滞って言ってましたけど、ずっと強い武器を作ってたと思うんですよね。そこがアーティストだな、すごいなって思いました。俺も暗黒のほうがよかったかなって思ってますもん、最近。せわしなくバタバタとものを作ってもどうしようもないから。

田口　俺にはそれがまぶしく見える瞬間もあったよ。

じん　だから隣の芝生は青い同士ですよ、結局。囁一さんの真似をしたいんですけど、プロジェクトが終わってないんで。2年前と俺やってること変わんないですもん。

田口　「カゲプロ」って企画はマンガの連載を1本持ってるようなもんだからね。でも「カゲプロ」がひと段落ついたあとでじんくんが次、何を飛ばしてくるのか怖いな。暗黒期間的なところに入って磨くわけでしょ？

じん　でもリアルに俺、次があるかどうかわかってなくて（苦笑）。たまたまインターネットがあって、たまたま初音ミクがあって、たまたまなんかやってみようかなっていう気まぐれを起こしたっていうのが始まりなんで。それでここまで来たってだけなんですよ。だからプロジェクトが終わりつつある今、責任は全部果たしたつもりになっちゃってるんです。次回作を楽しみにしてくれてる人のために、何かを作りたいとかいうのも実はないんで。本当に面白いアイデアを思い付かない限りは、何もやんないじゃないかな（笑）。

田口　とか言いながら、いざ手ぶらになってみたら……。

じん　ヤバいヤバいヤバいって、必死になる？

田口　なるよ（笑）。

じん　まあ新しいものを作るって公言もしちゃってるので。なんだかんだでアイデアは多くて。次を作ることはできるんだろうなって思うんですけど、自分の中でOK、完璧、100点ってなった瞬間じゃないとみんなには見せないと思います。今ってすごい忙しいからっていう理由で、100点かどうか判断できない状態でモノを出しちゃってる節があって。それがすごいイヤで。今の音楽業界ってリリース決まっちゃったら作んなきゃみたいなところがあるじゃないですか。でも、それを次は破ろうと思って。その代わりにみんなに「うん」って頷いてもらえるものを作りたいなあと思うんですけど。新プロジェクトみたいなのを始動したはいいけど、永久にリリースがない可能性もある（笑）。

田口　そうなんだ……。俺は連載がスタートはしてみたものの、「シアロア」とも「僕は友達が少ない＋」とも違って、本当にどこに着くかわからない旅が始まってしまった感じですね。毎月チェックポイントというか、締め切りだけはある。じんくんは100点を自分で出せるまで発表しないって話をしてたけど、俺は暗黒の2年間を通して、自分で100点を決められないタイプの人間かもしれないって気付いて（笑）。そういう意味では締め切りがある状態はありがたいことだと受け入れて、粛々と描いていこうと（笑）。

じん　それ、俺もめっちゃ言われるんですよ。「締め切りがないと物作れないよ、君は」って言われてて、それを真に受けて2年間やってきたんですけど。どうも俺は他人を信用し過ぎなんじゃないかなって。あと俺、全部自分でやんないと満足しないのかもしれないと思って、最近絵の練習を始めました。

田口　俺は逆だな。今まではサイトのデザインから何から何まで、片っ端からこっちに1回投げてもらって、自分がOK出せるものにならないと納得いかなかったのが、やや緩んできて。だからお互い次のフェーズに入って、そこを通って帰ってきたら一緒になったりして。

じん　で、そのときに「結婚しよう」ってね。死亡フラグな気もするけど（笑）。

──まるで正反対を行ってるはずなのに、最後は「結婚しよう」で終わるんですね（笑）。

田口　最終的に。

じん　本当に好きな人なので。

田口　ははは（笑）。こちらこそよろしくお願いします。婚姻届は判を押せばいい状態にしておきます。