ナタリー PowerPush - 感傷ベクトル
注目メディアミックスユニットに迫る濃厚1万字インタビュー
感傷ベクトル アーティストインタビュー
感傷ベクトルの1stアルバム「シアロア」がリリースされた。感傷ベクトルはマンガ家・田口囁一と、脚本家・春川三咲からなるユニット。2011年から2012年まで10カ月にわたって、架空のバンド・シアロアとそれを巡る人々の姿を描く「シアロア」という名の短編連作マンガにイメージソングを添えてネットで発表するセルフメディアミックス企画を展開し、大きな話題を集めていた。
今回発売された「シアロア」はそのイメージソング10曲を1枚にまとめたアルバム。さらに彼らは同日、マンガ版を全て収録した単行本「シアロア」も刊行した。
異例のメディアミックスプロジェクトはいかにして立ち上がったのか。そして、そもそもマンガ家と脚本家という異色の音楽ユニットはいかにして誕生したのか。2人に話を訊いた。
取材・文 / 成松哲
「バンドをやりたい」が始まりだった
──音楽とマンガ、どちらを最初に始めたユニットなんですか?
春川三咲(B, 脚本) 音楽ですね。2人とも埼玉出身で、高校1年生のときに同じクラスになって。高校に入学すると、まずクラスで自己紹介をさせられるじゃないですか。そこで僕と田口ともう1人、「バンドをやりたい」って言ったヤツがいて。その3人で「お前、『バンドやりたい』って言ってたよな。文化祭でやろうぜ」って言い合って集まったって感じですね。
田口囁一(Vo, G, Piano, マンガ) ウチの学校は文化祭が6月だったので、入学して速攻で組んで、2カ月後には初舞台を踏む、と。
──そのステージではどんな曲を?
田口 THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのコピーですね。
──結成2カ月の高校生バンドがコピーするには、結構難易度の高いバンドですよね。
春川 もう1人のヤツがすごいTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTにハマってたんです。しかも、中学の頃からバンドをやってたみたいなんで、ソイツの推薦で。
田口 メチャメチャうまかったよね。
春川 うん。僕は子供の頃2~3年だけピアノを習ってたんですけど、あんまり好きじゃなくて。その頃は「ファイナルファンタジー」が好きで、ゲームミュージックをよく聴いてたし、中学の頃にはBUMP OF CHICKENなんかも好きだったけど、結局楽器の経験らしい経験がなかったから、ソイツに楽器のことやバンドのことを教えてもらってました。で、ウチの学校は軽音部がなくて、1年生のときに部を作るために走り回ったんだけど、先生には「毎年、君たちみたいな子がいるんだよねえ」って全く相手にされなかったので、そのバンドでは毎年文化祭のときだけTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを中心に、ACIDMANや椎名林檎をコピーしてたんです。
──田口さんは楽器の経験は?
田口 幼稚園か小学校の頃、家に5トラックだけ多重録音ができる電子ピアノがあって、僕も春川と一緒で「ファイナルファンタジー」が好きだったので、その音楽なんかを打ち込んでみたり、あとピアノを習ったりしてました。で、中学に入って僕もバンドにハマり、BUMPやASIAN KUNG-FU GENERATIONやACIDMANなんかを聴きだして。家にギターもあったから、高校に入るくらいの頃には、一応コードは押さえられる感じでした。
──その流れでギタリストに?
田口 そうですね。
春川 僕は、ほかのパートが埋まってたので「お前、ベースな」と言われるがままベースになり(笑)。
──あっ、もう1人はドラマーだったんですか。
春川 いや、これがギター&ボーカルなんですよ。
田口 ソイツとは別に、音楽ゲームの「DrumMania」が好きだったヤツを連れてきたんです。「コイツ、ドラム叩けるぞ!」って(笑)。
──いかにもな「文化祭バンド」「宴会バンド」ですねえ(笑)。
春川 しかも僕も僕で、ベースのことを鍵盤楽器だと思っていたという。
──へっ?
春川 小学校の音楽の授業で合奏をやることになったとき、ピアノを習ってたこともあってシンセベースをやらされたんですよ。
田口 「ベース担当」ということで(笑)。
春川 そのイメージがあったから、バンドを組むことになって楽器屋に行って「あれっ!?」と。「ホントに、このギターに似たヤツを買えばいいの?」って(笑)。
高校時代の曲が感傷ベクトルの原型
──今、いくつなんでしたっけ?
田口 2人とも23歳です。
春川 今年24歳になります。
──じゃあバンド歴8~9年ですよね。ただ、それだけキャリアがあっても、ベースの存在を知らなかった上に「DrumMania」上がりのドラマーと一緒に年に1回文化祭のときだけライブ活動をしていたようなベーシストは、さすがにメジャーデビューはできないと思うんですよ。
春川 そうかもしれない(笑)。ただ、学校では文化祭のときしかバンドができないってことで、僕と田口は高1の夏頃から3年間、それぞれ地元の友達をかき集めて学外でも別のバンドを組んでまして。田口がギター&ボーカルで、あとはギターとキーボードとドラムと、ベースの僕って編成だったんですけど、そっちは最初からオリジナル志向で、田口の書いてきた曲をコピーというか、アレンジするって感じで活動してたんですよ。
田口 今回の「シアロア」ってアルバムには当時の曲も入ってたりするので、そっちが感傷ベクトルの原型って感じですね。
──埼玉の15歳のインディーズバンドってどんなところで活動するんですか?
田口 大宮とか浦和とか川越とか、基本的に地元のライブハウスなんですけど、どこか決まったところに定着するんじゃなくて、新宿や渋谷や吉祥寺のハコにも出てましたね。あと「ティーンズロックインひたちなか」に出て、決勝まで残ったり。
春川 でも都内のハコに出たり、「ティーンズロック」に出たりしたのって、バンドを組んでだいぶ経ってからだよね。初ライブってどこだったっけ?
田口 川越のスタジオだよ。普通の貸しスタジオなんですけど、ステージがある部屋があって、そこを借り切っちゃえばライブができるっていう。チケットも全部自分たちで作って、PAなんていないからアンプから直で音を出して(笑)。
春川 「リハーサル? 何それ?」って状態で、ぶっつけ本番で。あんなライブにお客さんを呼んだ勇気だけは賞賛したい(笑)。
感傷ベクトル 特集インデックス
感傷ベクトル ニューアルバム「シアロア」 / 2012年8月3日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
感傷ベクトル(かんしょうべくとる)
ボーカル、ギター、ピアノ、作詞、作曲、作画を担当する田口囁一と、ベースと脚本を担当する春川三咲によるユニット。ネットや同人シーンを中心に活躍し、音楽とマンガの両方の分野で作品を発表している。2012年8月にネット上で発表していたメディアミックス作品「シアロア」を、アルバムとコミックで同時リリース。また2人は「ジャンプSQ.19」で連載されていたマンガ「僕は友達が少ない+」の作画および脚本を担当した。