ナタリー PowerPush - 石鹸屋
「自信もあるし批判も怖くない」同人シーン発バンドの快進撃
ちゃんと怒って、ちゃんとエロい歌詞
──あと歌詞も気になって。アルバム収録曲の詞は厚志さんと秀三さんとhellnianさんで書いているわけですけど、基本的に3人とも怒ってますよね?(笑)
厚志 そうですね(笑)。僕の詞に関して言えば、ちょうど作詞をしなきゃいけない頃にホントにツイてなかったというか。「なんでオレだけこんな目に遭うんだ」みたいなことがけっこうあったので、その感情をそのまま書いてみました。特に「ラストカウンター」を書いていた時期は一番怒ってたかも(笑)。
──「ラストカウンター」はその怒りが歌詞カードにまでモロに出てて面白かったです(笑)。「愛癌豪抗暴魂」ってフレーズなんか意味はなしてないんだけど、字面からしておっかないし「この人、スゲー怒ってる」っていうことはバッチリ伝わりましたから。しかも曲は3分以上あるのに、詞はすごく短いという。
厚志 言葉の意味よりも伝えたいこと優先。心の中にあることをそのまま、しかもそれだけを言葉にしようと思ってましたから(笑)。でも兄貴も怒りみたいなものがベースにあるんじゃないの? 「タフネス?」の詞とか。
秀三 いや、怒ってはないかなあ。「タフネス?」にしても「いや、まだ今はそのときじゃない! 耐えろ!」って詞だし、ほかの詞も「立ち上がれ」って感じで書いてるつもりだし。
──ただ、耐えなきゃいけなかったり、立ち上がらなきゃいけないってことは、詞の中の主人公はそんなにハッピーじゃないですよね? 「タフネス?」で「殴りにいけるように」「備えるのだ」と歌っているということは、そこにはブン殴りたいヤツが確実にいるわけですし。
秀三 まあそうなりますね(笑)。ただ僕は厚志と違って、詞を書くときに実際に怒っているわけじゃないんですよね。特に「タフネス?」なんかは「こうやって我慢を強いられるシチュエーションって年に何度かあるよねえ」って感じというか。そういう誰にでも起こるだろうシチュエーションを想像しながら書いていて。どの曲についてもそうなんですけど、いろんな場面や状況をイメージしながら詞を書くほうが僕は楽しいんですよね。
──厚志さんが「ラストカウンター」のような詞を書いたから、それにテイストをあわせてみよう、みたいなことを考えたりは?
秀三 まったくないですね。
厚志 詞の世界観をあわせようみたいなことは昔からしたことないよね。
──にもかかわらず、アルバムを通して詞のテイストを揃えられるのはなぜなんでしょう? 「ラストカウンター」や「タフネス?」のように大多数に語りかける詞の場合は、どの曲もその対話相手にハッパをかけるようなものに仕上がっている。そしてその一方でラブソングとなると秀三さんの「ひどくラブ」にせよ、厚志さんの「秘密のチャーム・バッド・ガール」にせよ、セクシーというか、言葉を選ばずに言ってしまうなら、ちゃんとエロいですよね(笑)。
秀三 あはははは(笑)。ウチらの場合、アレンジができあがってから詞を書くからかもしれないですね。アレンジ作業を通じて全員の中で曲のイメージを共有した上で、おのおの作詞作業を進めることになるからバラバラになることはないんでしょうね。
東方アレンジ出身ゆえのアレンジ術とレコーディング術
──「作詞・作曲:厚志」「作詞・作曲:秀三」とクレジットされている曲であってもメロディと詞を一緒に持っていっているわけではない?
秀三 違いますね。曲を持っていくときに1フレーズ、例えば1曲目の「サンライト」なら「サンライト ああ サンライト」っていう部分くらいは考えておきますけど、詞そのものを書くのはアレンジが終わってからですね。
──どうしてそういうスタイルに?
秀三 同人時代の石鹸屋ってコミケや東方関連の即売会やイベントのたびにCDをリリースしたり、曲を発表したりしてたんですよ。で、そのペースで曲を作ってレコーディングするとなると、歌詞の完成を待ってられなくて。「詞ができない」って行き詰まられちゃうと、アレンジを練る時間や演奏を固める時間がなくなっちゃうし、レコーディングもドンドン後ろにズレてしまう。そうするとCDが出せなくなる。だからとりあえず作曲が終わったらすぐにアレンジを決めてっていう感じで作業を進めるようにしたんです。
──必要は発明の母(笑)。
秀三 「こうでもしないとスケジュール的に成り立たない!」っていうだけだったんですけど、いつの間にかスタイルとして確立されてました(笑)。今回もレコーディングをやって、ライブをやって、またレコーディングの準備をしてっていう感じで録っていたので、アレンジCDほどじゃないものの、スケジュール的にはけっこうタイトだった気はしますし。月に3回くらいしかスタジオに行けなかったり、ライブの2日後に平気でレコーディングをしたりしてましたから。
厚志 ただ間にライブを挟んだおかげで、メンバーおのおのが「この曲をライブでやるにはどうすればいいんだろう」みたいなことを考える時間ができたっていう面もあって。そのアイデアをレコーディングのときに持ち寄れたから、さっきのお話にあった、石鹸屋の本質というか、ライブを意識した音作りができたのかな、っていう気はしますね。
秀三 うん。ライブを挟むことで1回1回気持ちを切り替えながら曲作りやレコーディングに臨めたのは大きな収穫でしたね。
──繰り返しになるんですけど、その収穫のおかげもあってか、ホントにいいアルバムができましたよね。本人が言うのは口はばったい話なのかもしれないんですけど、ぶっちゃけ「自信作」ですよね?
秀三 確かにマスタリングした音源を聴いたとき「今回ひょっとしてスゲーのができたんじゃないか」とは思いました(笑)。
厚志 うん。自信もあるし、批判も怖くないというか。今はそういう声を気にする気持ちよりも、僕たち自身が演奏していて楽しい曲を作るっていうバンドの大前提をしっかり守ったアルバムができたな、っていう、うれしさのほうが大きいですね。だいたい、どんなビッグアーティストがどんな名盤を出しても批判する人は絶対にいるわけだし、そもそも僕たちネット社会出身のバンドですから。批判には慣れていますしね(笑)。
- ニューアルバム「ヒュー」/ 2013年5月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
- 通常盤 [CD] 2500円 / VICL-63998
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CD収録曲
- サンライト
- アウェイク
- タフネス?
- 秘密のチャーム・バッド・ガール
- ヒューマニズム ノイズ
- アメノチアメ
- ラストカウンター
- ひどくラブ
- 流星の音がきこえる
- 青い雲
- 涙が渇くまでの時間を
石鹸屋(せっけんや)
厚志(Vo)、秀三(G, Vo)、BOSS(B)、hellnian(Dr)の4人からなるロックバンド。2005年4月に同人サークルとして始動し、東方Projectの楽曲をアレンジした「東方アレンジ」や、オリジナル楽曲を次々と発表する。コミックマーケットなどでコンスタントに作品をリリースする一方で、ライブも精力的に実施。骨太かつエモーショナルなバンドサウンドで着実な人気を獲得していく。2010年10月にビクターエンタテインメントよりシングル「シャボン」を、2012年にメジャー1stアルバム「プリミティブ・コミュニケーション」をリリース。2013年5月22日に2ndアルバム「ヒュー」を発表した。