ナタリー PowerPush - 石鹸屋

「自信もあるし批判も怖くない」同人シーン発バンドの快進撃

石鹸屋の本質にさらに突き詰めた「ヒュー」

──なぜ東方アレンジの人気者だった石鹸屋のオリジナル曲に多くの人が惹かれるのか。ご自身で分析できたりします?

hellnian(Dr)

秀三 実は僕らの音楽性のルーツって東方アレンジや同人音楽以前の音楽、90年代前後の邦楽・洋楽のメジャーシーンで流行っていた音楽にあるから、皆さん、その匂いを感じ取ってくれてるんじゃないかなっていう気はします。

──今回の「ヒュー」ってそのルーツに忠実なアルバムですよね。J-POP、J-ROCKなんてジャンルが生まれる前の日本のロックや、その当時の海外のハードロックを2013年版にバージョンアップしている印象がある。リズム隊はガチっと硬くてタフなリズムを刻んでいて、ギターはまさしくカッコいいリフやソロを弾きまくって、ボーカルは力強い上にヌケがいい。で、シンガロングパートもいっぱいある。本当に由緒正しき「ロックアルバム」です。

秀三 ウチのドラムとボーカルって直線的に「ドンッ」って音を出すパワーがものすごいんですよ。そこを生かして曲を作るならやっぱりこうなるよね、って感じで書いただけなんですけどね(笑)。

──ただ1stアルバムの「プリミティブ・コミュニケーション」ってもっと収録曲がバラエティに富んでいましたよね。「ヒュー」はエッセンシャルというか、さっき言っていた石鹸屋のルーツや本質により迫っている感じがします。

秀三 その感じは間違ってないと思います。1stの頃からやりたかったことをさらに突き詰めようと思って作り始めたのが2ndの曲なので。というのも1stの曲をライブをやっているうちに「この曲はこういう曲調だけど、アレンジを変えればもっと盛り上げることができるよな」とか「あっ、今の自分たちならもっと聴かせることができるよな」っていう手応えみたいなものも感じていて。そのもっと盛り上げたり、聴かせたりする方法っていうのが、ドラムとボーカルの直線的なパワーを生かすことだったり、ルーツにより忠実な音作りなんですよね。で、ちょうどアルバムの制作時期って前のベースのイノが抜けて、新しくBOSSが加入したタイミングでもあったから「じゃあ、改めてそこを目指してみようかな」ってことになったんです。

新ベーシストBOSSが見せたカラフルな世界

──ベーシストが代わったことによるケミストリーってありました?

秀三(G)

秀三 イノがいた頃に作った曲を弾かせても全然ノリが違うし、2ndの収録曲についても「フレージングはお任せで」「自由に作ってきて」って伝えたら、ホントに“ちゃんと自由”というか(笑)、いろんなアレンジを用意してきて。当然そのフレーズもイノのものとは全然違いましたね。

──そのBOSSさんの自由さが今回のアルバムタイトルの由来になっていたりもします? 実際「1stでやりたかったことを突き詰めたのが2ndだ」って言いながらも、収録曲をよく聴いてみると、アルバムタイトル通り「ヒュー」=色相豊かになっている。「いろんなジャンルに挑戦した」っていうほど大げさではないんだけど、それこそベースのフレージングのようなちょっとした味付けを変えることで曲ごとにいろんな表情を見せているのかな、っていう気がするんです。

秀三 まさにそんな感じですね。BOSSと一緒にアレンジを考えていたら、けっこういろんなタイプの曲ができあがりまして。で、せっかく新しいベーシストと作ったのにそれを強制的に1つの方向にまとめちゃうのはあんまり面白くない。むしろバラバラのまま、カラフルなまま聴かせちゃえ、っていう判断がありましたから。しかも先行シングルが「青い空」だったり、テレ玉の浦和“レッズ”関連番組のテーマ曲になった「アウェイク」だったりと、何かと色にまつわるものになっていたので、もうこれはアルバムの内容もカラフルにして、タイトルも色関係のネーミングにしたほうがいいんじゃないかって感じになったんですよ。とはいえ、僕らはなんだかんだでライブでプレイすることを前提に曲を書いている。どの曲もライブでどう聴かせたいか、っていうことを大前提に作っているので、たとえ曲調がカラフルになっても一本筋は通るというか、軸はブレないだろうと思っていたので。

「ドン!」と「ワーッ!」に張り合えるギタープレイ

──お2人の中にある石鹸屋のライブ感って?

厚志(Vo)

厚志 お客さんの声も含めて石鹸屋の演奏なのかな、と。

秀三 そこは曲作りのときにもかなり意識してますね。掛け合いや掛け声的なコーラスは多めにしようって。一体感がほしいっていうのと、あと、ウチの場合、どうしても音数が少ないので(笑)。

──「ヒュー」を聴いていてその音数も気になったんですよ。秀三さんってあんまりギターの重ねをやりませんよね。ギターソロのときにコードバッキングを重ねたりはしているものの、ツインリードみたいなことってほとんどしていない。

秀三 同じフレーズを2本録って左チャンネルと右チャンネルに振るみたいなことはやってますけど、左右で別のフレーズを弾いて、みたいなことはやりませんね。昔はけっこうやってたんですけど、さっきから言っているとおり、ボーカルとドラムがパワフルだから、凝ったことをやっても結局バスドラの「ドン!」1発とか、ボーカルの「ワーッ!」のひと声に負けるんですよ(笑)。でもギターソロでもリフでもダブルで録って左右に割ると音が太くなる上に輪郭もハッキリして、しかもあでやかになるから「ドン!」や「ワーッ!」と張り合えるんですよね。

厚志 ライブを意識している部分もあるよね。

秀三 うん。レコーディングのときにいろんなフレーズを重ねたところで、ギタリストは僕しかいないからライブのときには結局どっちか選択して弾くことになるわけですから。だったらライブでも再現できる音をパワフルに、あでやかに録ったほうがいいのかな、と。

ニューアルバム「ヒュー」/ 2013年5月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
通常盤 [CD] 2500円 / VICL-63998
CD収録曲
  1. サンライト
  2. アウェイク
  3. タフネス?
  4. 秘密のチャーム・バッド・ガール
  5. ヒューマニズム ノイズ
  6. アメノチアメ
  7. ラストカウンター
  8. ひどくラブ
  9. 流星の音がきこえる
  10. 青い雲
  11. 涙が渇くまでの時間を
石鹸屋(せっけんや)

厚志(Vo)、秀三(G, Vo)、BOSS(B)、hellnian(Dr)の4人からなるロックバンド。2005年4月に同人サークルとして始動し、東方Projectの楽曲をアレンジした「東方アレンジ」や、オリジナル楽曲を次々と発表する。コミックマーケットなどでコンスタントに作品をリリースする一方で、ライブも精力的に実施。骨太かつエモーショナルなバンドサウンドで着実な人気を獲得していく。2010年10月にビクターエンタテインメントよりシングル「シャボン」を、2012年にメジャー1stアルバム「プリミティブ・コミュニケーション」をリリース。2013年5月22日に2ndアルバム「ヒュー」を発表した。