ナタリー PowerPush - 石鹸屋
「自信もあるし批判も怖くない」同人シーン発バンドの快進撃
同人シーンにおける表現者とファンの距離
──ただ勢いそのままにオリジナル曲主体のバンドにはシフトしていませんよね。同人シーンでの2枚目のオリジナルアルバム「Deadman Walking」をリリースしたり、川崎CLUB CITTA'や渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブをやったり、SNAIL RAMPと2マンライブをやったりする一方で、ビクターエンタテインメントとのコラボシングル「シャボン」をリリースしたあとにも東方アレンジの同人CDをリリースしているし。そもそも秀三さんのユニフォームであるメイド服も東方Projectのキャラクターのコスプレなんですよね?
秀三 ええ、十六夜咲夜っていうキャラクターのコスプレで、東方アレンジのイベントに初めて出演するときに着て以来、気付けばずっと着たままになってるって感じですね(笑)。だから東方アレンジとオリジナルを並行してやっていることに特に違和感はないんですよね。「ハイブリッドバディ」を出した頃からずっと続けていることだし、オリジナルにせよアレンジにせよ、出している音が石鹸屋っぽくあればそれでいいのかな、って思ってます。
厚志 うん。ほかのバンドとは明らかにやり方が違うな、とは思うんですけど、別に同じでなきゃいけない理由もないんで、僕たちのペースでやればいいのかな、って思いながらやってますね。
秀三 あとhellnianが同人であることにすごくこだわっているんですよ。「やっぱり直接お客さんやファンとコミュニケーションを取りたいから」って。「コミックマーケットなんかで手渡しできるから同人CDを出したほうがいいよね」っていう感覚があるみたいで、僕らもそこに共感しているから、こういう活動形態になっているっていう面もあるんでしょうね。まあ、それ以前にhellnianは即売会での触れ合いが大好きな子なので(笑)。
厚志 普段はどっちかっていうと引っ込み思案なのに、コミケとか即売会とかになると一番弾けてるし、一番声がデカいんですよ(笑)。
秀三 すごいデシベルで騒いでる(笑)。
──そうやって「二次創作 / オリジナル」の分け隔てなく二刀流で活動しているバンドの場合、メジャーレーベルから声がかかったときって、どういう気分になるものなんですか?
厚志 石鹸屋は同人やネットから出てきたバンドではあるし、もちろんその文化をリスペクトしているんだけど、僕ら自身は同人やネットがきっかけで音楽を始めたわけではないじゃないですか。むしろ子供の頃からメジャーデビューっていうものに対してちゃんと憧れを抱いていたので素直にうれしかったですね。ほかのバンドがみんな、インディーズで下積みをした上でメジャーデビューしている中、自分たちみたいな活動をしているバンドがまさかメジャーデビューできるとは思ってもいませんでしたし。
秀三 あっ、そう? 僕はhellnianとBOSSと昔やってたバンドでもメジャーデビューを目指していたんですけど、それが頓挫をしたときに一旦自分の中で割り切れちゃっていた部分があって。さっきも言ったようにライブハウスに出てもお客さんは対バンのメンバーとその彼女しかいない。ほとんど“無”だったわけですから。そういう状態が続く中でテンションを上げろったってそれはどだいムリな話でございまして(笑)。石鹸屋を始めてからは「それに比べれば、いいものを作ればお客さんからの反応をきちんと受け取れる同人やネットでの活動って面白いな」って感じだったから「売れる」みたいなことに対してちょっと冷めてたのかもしれない。もちろん「形は違えど夢は叶ったのか」っていう感慨みたいなものはありましたけど。
初のワンマンライブは新潟と神戸
──ではメジャーデビュー後も特に生活のペースや心境に変化はなく?
秀三 そうですね。去年「プリミティブ・コミュニケーション」っていうアルバムを出したときがメジャーでの活動が本格化したタイミングになるんですけど、それから今までの1年間、曲作りとライブばっかりやってたな、って印象しかないですから(笑)。それは今までと同じことですし。
──金回りがよくなったとか、モテるようになった、みたいなことは?
厚志 皆無ですね(笑)。まあでもテレビやラジオに呼んでいただいたり、こうやってインタビューをしていただいたりするようになったのは、メジャーで活動しているからなんだろうな、とは思います。
秀三 同人やインディーズのままなら、LUNA SEAのJさんと一緒にライブなんてやれなかっただろうしね(石鹸屋は2011年5月のイベント「J 14th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE Set FIRE Get HIGHER -FIRE HIGHER 2011-」に出演)。
厚志 小学生の頃から知ってるビッグスターなので会えるだけでもうれしいのに、競演までできたという(笑)。だから活動の規模みたいなものも変わってはいると思います。同人やインディーズのまま、どこのレーベルにも所属していない状態だったら貸してくれないハコ(ライブハウス)もあるだろうし。
秀三 2008年に一回やったことはあるんですけどね。地方のライブハウスに片っ端から電話をかけて「ワンマンやらせてください!」って。hellnianの新潟の知り合いが「東京でのライブはなかなか観られない」って言ってたから、まずは新潟LOTSに電話をかけ。「ホントに? 大丈夫? 新潟LOTSだよ!?」なんて言われながらもどうにかハコを押さえて(笑)。あともう1軒、神戸のライブハウスも取れちゃったのでその2カ所でワンマンライブをやるという。
厚志 しかもそれが初ワンマン(笑)。基本的に首都圏で活動していたバンドなのに。
秀三 hellnianの友達とは逆パターンというか、関東のファンの人が新潟まで観に来てくれたり、関西の人が神戸に集まってくれたりしたおかげで満員になったからよかったようなものの、って感じでしたね(笑)。
──でもメジャーアーティストならそんな苦労はしなくていい、と(笑)。実際、今は全国の主要なライブハウスを回れているし、Zepp Tokyoのような大バコでもワンマンライブを打てているし。しかもそのライブに来るのは、もはや東方アレンジのお客さんだけではない。むしろ先にオリジナルの石鹸屋サウンドのファンになって、後追いでバンドのプロフィールを知って東方アレンジも聴き始めたお客さんも増えてきたわけですよね。
秀三 そうですね。
厚志 最近、明らかに女の子のお客さんが増えているのも、メジャーでやっているからこそなのかもしれませんしね。
- ニューアルバム「ヒュー」/ 2013年5月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
- 通常盤 [CD] 2500円 / VICL-63998
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CD収録曲
- サンライト
- アウェイク
- タフネス?
- 秘密のチャーム・バッド・ガール
- ヒューマニズム ノイズ
- アメノチアメ
- ラストカウンター
- ひどくラブ
- 流星の音がきこえる
- 青い雲
- 涙が渇くまでの時間を
石鹸屋(せっけんや)
厚志(Vo)、秀三(G, Vo)、BOSS(B)、hellnian(Dr)の4人からなるロックバンド。2005年4月に同人サークルとして始動し、東方Projectの楽曲をアレンジした「東方アレンジ」や、オリジナル楽曲を次々と発表する。コミックマーケットなどでコンスタントに作品をリリースする一方で、ライブも精力的に実施。骨太かつエモーショナルなバンドサウンドで着実な人気を獲得していく。2010年10月にビクターエンタテインメントよりシングル「シャボン」を、2012年にメジャー1stアルバム「プリミティブ・コミュニケーション」をリリース。2013年5月22日に2ndアルバム「ヒュー」を発表した。