関取花が“主人公にならない人”に寄り添う新作リリース、TBSラジオがつないだパンサー向井慧との不思議な縁

関取花がメジャー2ndアルバム「また会いましたね」をリリースした。

2021年3月発表のメジャー1stフルアルバム「新しい花」に続くセルフプロデュース作品となる「また会いましたね」。本作にはTBSラジオ朝の帯番組「パンサー向井の#ふらっと」のオープニングとエンディングを飾る「ラジオはTBS」、交通情報テーマソング「やさしい予感」など全13曲が収録されている。

音楽ナタリーでは熱心なTBSラジオリスナーである関取と、「#ふらっと」のメインパーソナリティを務める向井慧(パンサー)に局内でインタビュー。感性が似ているという2人は互いが抱える劣等感を共有し合い、向井は独自の目線で「また会いましたね」について分析するなど、濃密なトークを展開した。

取材・文 / 張江浩司撮影 / 塚原孝顕

共通点は「健康的な劣等感」

──撮影中もとても盛り上がってましたし、お二人はとても仲がいいんですね。

向井慧 いやいやいや、仲がいいって言っちゃっていいのか……。でも本当にお世話になってます。

関取花 そんな、いやいや、こちらこそです。お世話になってます。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

──関取さんは「#ふらっと」に何度か出演されてきて、SNSでは「二人の息がピッタリ」「通じ合ってる」といったリスナーからのリアクションも見られました。

向井 ありがたいですね。失礼ながら、引っかかるというか、気になっちゃう場所が似てるのかなと。

──感性が合うんですかね?

関取 どうなんでしょう?

向井 なんていうか、“自分と仕事”についての考え方が似てるのかなと思います。健康的に劣等感を持っているというか。僕もそうなんですけど、「めちゃくちゃうまくいってるぞ!」と「これじゃだめだ……」が両方ある。

関取 「私なんて……」と「私のほうが(できるのに)」が常に戦っているというか。「私のほうが」を増やすためにいろんなことに挑戦してるんですよね。ミュージシャンがやらないようなお仕事もなるべくやって、経験値を得たいと思っていて。向井さんのお仕事を見てて、すごくわかるんです。型を決めないでやってらっしゃるというか。

向井 あー、なるほど。

関取 ともすると、最初は「なんか器用にやってんな」と見られたりすることもあると思うんですよ。私も「結局何がやりたいの?」とか言われたことありますし。「『タモリ倶楽部』に出られるなんて、大きいバックがついてるんじゃないの?」とも言われて(参照:タモリ、レキシ、関取花、川島明が日常風景を音楽に変える)。最初は普通にホームページのコンタクト欄からメールが来ただけなんですけど(笑)。

──「芸能界の力が働いてる!」みたいな(笑)。

関取 そんなものないんですよ(笑)。でも露出量と比べて、本業であるミュージシャンとしての結果を出せているかというと、そうではないことも自覚しているので。本当の自分を理解してもらうには、段階を踏まないといけないことはわかってるんですけど、心の中は渦巻いているというか。そういう劣等感はありますね。

──お二人の活動からは、そういったひと言で表せない多面性を感じます。

向井 お笑いと音楽で違うところはいっぱいあると思うんですけど、僕らでいうとお客さんが笑ってくれることと自分が面白いと思うことは、もちろん合致してるところもあるけど離れているところもあって。自分が言いたくて言うこともあるし、お客さんに合わせて「ウケるだろうな」と思いながら発言することもある。その全部をひっくるめて「自分だな」と思えるようになってきましたね。

左から関取花、向井慧。

左から関取花、向井慧。

“自分”の取り戻し方

──関取さんが配信番組(参照:「関取花の支度部屋」第1回 | YouTube)で「ミュージシャンとしての自分と、人間としての自分が離れていった時期があった」ということをおっしゃっていました。向井さんも、今の話もそうですし、「あちこちオードリー」(テレビ東京系のバラエティ番組)などでもそういったお話をされていて、お二人に共通する問題意識なのかなと。

関取 自分が「何を歌いたいか」よりも、「何を求められているのか」を考えちゃうようになってたんですね。「とりあえずやってみる」を信条に掲げていろいろやってるうちに、相手の希望に合わせて作業するようになってしまったというか。今まではマネージャーさんと二人三脚で、どれくらいの予算と人数が動いてるのか把握しながらやってきたんですけど、メジャーデビューしてからは自分に見合ってないようなスタジオを用意してもらったりすることもあって。それは「花ちゃんはこの規模でやろう!」と言ってくれる人がいるっていうことだから、全然甘えていいところなんですけど、「じゃあこのスタジオに見合う音楽を作らなくちゃ」とかいろいろ考えちゃって。

──今回のアルバムでは“ミュージシャン・関取花”と“人間・関取花”が一致したともおっしゃってましたが、きっかけはあったんですか?

関取 たぶん、今まで誰かの特別になりたくて制作してきたんですよ。「これはヒットするかもしれない」「これをきっかけに誰かと友達になれるかもしれない」って。でも、自分にとって特別な私であるためには、“自分らしくいること”しかないということにやっと気付いたし、気付かせてくれるバンドメンバーとスタッフに出会えたんです。何も考えないで手放しの状態でいる関取花に価値を見出してくれる人が増えたんですね。その人たちにとっての“特別”にはなれてるなっていう身近な実感があったんです。あとは、ずっと延期になってたツアー(「関取 花 2021 TOUR 激闘編」)ができて、来てくれてる皆さんが求めてるのは、私が私であることなんだろうなって。ステージ上から見ていてわかったんです。ライブでいろんな気付きをいただきました。

関取花

関取花

──向井さんはいかがですか?

向井 そもそも僕が思う向井慧のイメージと、周囲の人が思う自分にギャップを感じて生きてきたんで。「あ、そんなにさわやかな人間に見えてるんだ?」っていう。僕自身は人が思うより嫌なことを考えたり、ムカついたりしながら生きてるんで(笑)。僕に対する世間のイメージに違和感がありながら、又吉(直樹)さんとか周りの芸人だけが「裏の部分がまだバレてないから、それを出したらおもろくなるんちゃう?」と言ってくれてたんです。そうやって鬱屈してた時期に始まったのが、地元名古屋でのラジオ(「#むかいの喋り方」)なんですね。そこでしゃべり始めてから、ちょっとだけわかってくれる輪が広まったというか。お笑い好きな人にも「こういうこと考えてるやつなのか」と伝わって、だいぶ楽になりましたね。

──お二人とも、そういう積み重ねによって自分を取り戻したんですね。

向井 「わかってくれる人がいるんだな」っていう。関取さんのアルバムを聴かせていただいたんですけど、1曲目の「季節のように」がすごくよくて。自分のやりたいこととか情熱を持ちながらも、自然に身を任せるというか。いろいろあがいてきたうえで、なるようにしかならない。僕は36歳になってどんどん楽しくなってきてるので、「そういうことなのかもなあ」ってこの曲を聴いて思いましたね。

関取 あー、もう泣きそう……。

向井 いや、関取さんがどういう気持ちで作ったかはわからないですよ?

関取 そういう気持ちですよ! 向井さんは全部言い当ててくださるんで、私のインタビューは向井さんに答えてもらったほうがいいかもしれない。

向井 聴いてる側の勝手な感想だから(笑)。これ使いますか?(ティッシュを差し出す)

関取 あ、これがあるんで。(力士柄のタオルで涙を拭う)