音楽ナタリー Power Push - SECRET 7 LINE
“SHINJIの生きた証”が形になるまで
SECRET 7 LINEがニューアルバム「THE SOUND OF US」を3月9日にリリースした。
昨年8月にSHINJI(B, Vo)が移動中の事故により他界し、SECRET 7 LINEはバンド活動の休止を余儀なくされた。アルバムは彼らが「SHINJIが残した楽曲、声を生きた証として残したい」という思いから完成させたもので、新曲入りのオリジナルアルバムとベスト盤の2枚組。新作となるDISC 1には既発のシングル曲のほか、SHINJIが生前に残した制作途中の楽曲をゲストアーティストとともに完成させた計13曲が収められている。日本語詞を導入したり、マニピュレーターを起用したりと、彼らは今作の制作を通じて新たな挑戦をしている途中だったという。このアルバムはどのように完成したのだろうか。それを探るため、今回音楽ナタリーではバンドと親交の深い音楽ライター・荒金良介に、RYO(G, Vo)とTAKESHI(Dr, Cho)の発言をもとにした「THE SOUND OF US」の制作ドキュメントの執筆を依頼した。特集の最後にはDISC 1に参加したアーティストからのコメントも掲載しているのであわせてチェックしてほしい。
取材・文 / 荒金良介
新たな挑戦、そしてメンバーの死を乗り越えて
SECRET 7 LINEの新作「THE SOUND OF US」は、「LIVE HARDER」以来約2年ぶりのアルバムとなる。2015年8月31日にメンバーのSHINJI(B, Vo)は移動中の事故により、帰らぬ人となった。取材の現場ではもちろん、ほかのバンドのライブにもよく遊びに来ていた彼とはライブハウスで会うことも多かった。陽気で、いつも明るかった。そのSHINJIの歌声、演奏が作品という形で帰ってきた。
今作の内容について簡単に説明したい。DISC 1は新曲、未発表曲、シングル収録曲など、RYO(G, Vo)とTAKESHI(Dr, Vo)がSHINJIと一緒に作り上げた楽曲や制作途中だったものをまとめた、純然たるオリジナルアルバムだ。DISC 2は過去5枚のアルバムからメンバー自身が選曲し、全曲に新たにミックスとマスタリングを施したベスト盤である。まず今作について彼らはどんなビジョンを描いていたのか。バンドとしては前作「LIVE HARDER」でやり切った感があったという。だから、前作のリリース後、バンドとして新しいことに挑戦したかった。それで自然と日本詞をやりたいと思えるようになったのだとRYOは語る。
バンドは前作のレコ発ツアーを終えたあと、ニューアルバムに向けた新曲作りを行うことに。昨年3月に7曲のレコーディングを済ませ、9月に再び5~6曲を録る予定で制作を進めていた。その新作へ向かう中で彼らは3曲入りシングル「YOUR SONG」を8月にリリースする。表題曲では初めて日本語詞が取り入れられた。来たるニューアルバムではさらに日本語詞の割合を増やす予定で、彼らはリスナーに日本語詞を認知させたいというジャブ的な意味合いでシングルを発表したのだ。
最初にSHINJIが持ってきた「YOUR SONG」は、これまでの彼らにはないリズムを導入したかなり挑戦的な楽曲であった。さらに初めての日本語詞の導入もあり、曲が仕上がったあともRYO、TAKESHIともに半信半疑だった。しかし、音源リリース後に「日本語でも違和感がない」「声質的にも日本語が合う」「めちゃくちゃいい曲だね」と周囲から思わぬ称賛の声をもらい、自信を深めた。個人的には「ここで泣いてもいいよ」(「YOUR SONG」)という優しいタッチの歌詞が印象に残った。そのフレーズについて「SHINJIが『自分が一番しんどいときに言ってほしい言葉はそういうものだ。俺が一番言ってもらいたい言葉を歌詞にした』と言うんです」とTAKESHIは振り返る。
初めて日本語詞を取り入れた「YOUR SONG」を筆頭に、今作に収録された楽曲では日本語詞の割合が増えている。とりわけ「OUR SONG」はほぼ日本語詞で書かれたものだ。「YOUR SONG」に対するアンサーソングという気持ちで書かれた「OUR SONG」は、RYOの情熱ほとばしるボーカルが印象的なメロディアスな1曲となっている。この曲は昨年3月の段階で歌詞ができていたものの、制作の途中で2番のAメロの歌詞が差し替えられた。「諦めることをやめにしようって君の言葉がStaying in my heart」という歌詞がその部分にあたる。「諦めることをやめにしよう」というのは、SHINJIがインタビューやバンド内のミーティングで何度か口にしていた言葉だった。「OUR SONG」は困難があったうえで立ち上がろう、乗り越えようという曲で、それは今のバンドの気持ちと重なる部分があるという。「『OUR SONG』の“OUR”には聴いてくれる人だけじゃなくて、SECRET 7 LINEも含まれています」とRYOは言う。
SHINJIが残した曲の断片
そして、9月から再びレコーディングは始まった。バンドはSHINJIが残した曲や楽曲の断片を形にするべく作業に取りかかる。これまではRYOが作曲したものはRYOが作詞を、SHINJIが作曲したものはSHINJIが作詞を担当していた。完全なる分業制だ。9月以降の録音に関しては、SHINJIが作った曲にRYOが歌詞を乗せるアプローチへと切り替えられた。SHINJIが残したデモ音源には、彼が歌って気持ちいいであろう英単語が仮歌で入っており、メンバーは、それらの中から印象的な言葉をピックアップして歌詞のイメージを膨らませていった。例えば「NOT COMPLICATED」であれば、SHINJIがデモで歌っていた“COMPLICATED”という言葉を生かす、という具合に。また、「SHINJIが作る歌詞は前向きなものが多い」という理由から、RYOは歌詞の世界観が極力明るくポジティブなものになるよう心がけたという。
聴いた人にとって、その人の歌になってほしいという願いを込めて、限定的なイメージを聴き手に抱かせるような言葉使いも避けられた。普遍性のある歌詞の書き方を意識したのは、メンバー自身のある体験が大きかったようだ。先行シングルとしてリリースした「YOUR SONG」と「THE LAST NIGHT」の聴こえ方が、9月以降は変わったという。それらの楽曲にはSECRET 7 LINEからファンに向けてのメッセージが込められていた。けれど9月以降は「今の自分たちに対するメッセージのようにも感じられるようになった」とRYOは言う。
「THE LAST NIGHT」の最後の1行は「And my tears make a new song(そして、涙は新しい歌を作るんだ)」という言葉で締めくくられる。この曲自体はGOOD4NOTHINGと一緒にツアーを回ったときの思い出をつづったものだった。「ツアーが終わってしまうのは寂しいし、泣きそうだけど、明日から前を向こうという。その歌詞が、今の僕らにも響くんです」とTAKESHIは語る。
ゲストミュージシャンは盟友
今作には彼らの盟友がゲストミュージシャンとして多数参加している。「NOT COMPLICATED」にはGOOD4NOTHINGのU-TANとTANNYとMAKKIN、「OUR SONG」にはAIR SWELLのhamaken、「CRAZY」にはUZMKのJYUとAIR SWELLのhamaken、「THE SOUND OF YOU」にはLAST ALLIANCEのMATSUMURA、「PLESE TELL ME」にはHOTSQUALLのToshinori Akamaという豪華なラインナップだ。その中でも「CRAZY」はバンドにとって新境地とも言える楽曲に仕上がっている。SHINJIが打ち込みのアレンジをUZMKにお願いし、JYUがそれに応える形で新しい風を吹き込んでいる。
一方のDISC 2はベスト盤。過去5作品からまんべんなく選曲され、TAKESHIいわく「ワンマンのイメージ」で曲順にもこだわったライブ感のある流れになっている。今年1月4日に開催されたSHINJIの追悼イベント「THICK FESTIVAL 2016 “Shinji is still drinking!!”」においても盟友の力を借り、大トリを務めたSECRET 7 LINE。RYOとTAKESHIは元気な姿でファンの前に現れ、豪快なパフォーマンスを見せてくれた。あの日、観客全員が「YOUR SONG」を大声で歌い上げる光景はいまだに忘れられない。
メンバー2人はこの作品について「今までの作品の中で一番いい」と口にしていた。間違いなく、バンドにとって最高傑作と言える仕上がりである。楽曲、歌詞共にじっくりと耳を傾けてほしい素晴らしいニューアルバムだ。そして、今作の楽曲をライブで1曲でも多く聴きたい。
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- ニューアルバム+ベストアルバム「THE SOUND OF US」 / 2016年3月9日発売 / [CD2枚組] 3240円 / Kick Rock MUSIC / EKRM-1323
- ニューアルバム+ベストアルバム「THE SOUND OF US」
DISC 1
- NOT COMPLICATED(Ba MAKKIN / Vo U-TAN & TANNY from GOOD4NOTHING)
- OUR SONG(Vo hamaken from AIR SWELL)
- UNDER THE BLUE SKY
- CRAZY(Manipulator JYU from UZMK / Vo hamaken from AIR SWELL)
- THE SOUND OF YOU(Ba MATSUMURA from LAST ALLIANCE)
- YOUR SONG
- HUNG OVER
- EXISTENCE PROOF
- WANT YOU TO SHINE
- PLEASE TELL ME(Vo & Ba Toshinori Akama from HOTSQUALL)
- NOTHING GONNA CHANGE
- STORY
- THE LAST NIGHT
DISC 2
- IT’S ALLRIGHT
- 1993
- BURN TO THE GROUND
- LIKE A CRASH
- DOWN TO HELL
- PIECE OF CAKE
- BREAK IT
- SHINE IN THE LIGHT
- NEW WORLD
- DO IT AGAIN
- DAYLIGHT
- RADIO
- SK8 FOR LIFE
- WANNA GO
- MY HERO
- HIT OR MISS
- LIFE IS BEAUTIFUL
- THE ROAD TO INNOCENT
- REASON
- COMEBACK TO YOU
- DANCE LIKE NO TOMORROW
- BREAK OUT
- BLACK JACKET
- SUNSET BEACH
- STAND UP
- KEEP IT GOING
- GRATITUDE
- GOOD BYE DEAR DAYS
SECRET 7 LINE(シークレットセブンライン)
2007年6月に結成されたメロディックパンクバンド。メンバーチェンジを経てRYO(G, Vo)、SHINJI(B, Vo)、TAKESHI(Dr, Cho)という編成になる。2008年10月に1stアルバム「How many lines does she hide?」をリリース。その後約40本の全国ツアーを行い、新宿ACBで行われたツアーファイナルはソールドアウトを記録した。Valencia、Hit The Lights、Four Year Strong、Every Avenueなどの海外アーティストとも精力的に競演しており、2009年5月にはMxPxの中国ツアーおよびジャパンツアーにてサポートアクトを務めた。2010年4月には「PUNKSPRING 2010」に初出演。同年5月には約2万人の集客を誇る中国最大規模のロックフェス「MIDI FESTIVAL」にも参加した。2012年に自身が企画する屋内フェス「THICK FESTIVAL」をスタートさせ、2014年3月には5thアルバム「LIVE HARDER」をリリースした。同年9月に「THE LAST NIGHT」、2015年8月に「YOUR SONG」というシングル2枚をタワーレコードおよびindiesmusic.com限定で発売し、次回アルバムの制作に取り掛かるも2015年8月にSHINJIが交通事故により急逝。バンドはRYOとTAKESHIの2人で活動を続行している。2016年3月9日にニューアルバム「THE SOUND OF US」をリリース。