ナタリー PowerPush - SEBASTIAN X
ストレートでシンフォニックな傑作完成!2ndアルバム「POWER OF NOISE」
垣根を生むカルチャー的な視点はいらない
──真夏さんは表現のテーマとして生命に対する目配りは以前から積極的にしていたと思うんですけど、それがこの曲で根源的なところまでいったなと思って。
そうですね。もともと自分がもっていた自然に対する目線──生命力とか、パワーとか、宇宙とか──そういうものってどちらかというとコンプレックスに近かったんですね。「なんでみんなわかってくれないんだろう?」っていう。私はカルチャーの話がしたいんじゃなくて、人間の生活と音楽の結び付きについて話したいんだけど、結局カルチャーの話になっちゃうなと思って。
──カルチャーの話って例えば?
なんて言ったらいいのかな? 例えば音楽をカルチャーの側面だけで捉えていくと、首にタオルを巻いてるリスナーと、タイダイの服を着ているリスナーってなかなか交わらないですよね。
──ああ、ジャンル的に交差しづらいから。
そう、それがカルチャー的な視点だと思うんですよ。私はそれがヤで。でも、SEBASTIAN Xって、いろんなところでライブをやらせてもらうんですね。王道のロックが好きなお客さんたちの前に立つこともあれば、インディ系のバンドばかりが集まるイベントに出ることもあれば、山奥でやるスピリチュアル系のお客さんが集まるようなイベントに出ることもあって。
──SEBASTIAN Xはそうですよね。
そうなると、垣根を生むカルチャー的な視点はいらないって余計に思うんですよ。例えばそれがもっと生活範囲に密着してるカルチャーだったらわかるんです。極端な例えになりますけど、下北に住んでいて、いつも下北で遊んでるから、下北系と呼ばれる音楽ばかり聴くとか。だって、その人はそこで生きてるから。でも、なんでそれぞれが別個で固まっていっちゃうんだろうなと思って。
──もっと個の感覚を重んじて、自由にいろんな音楽に接したほうが楽しいんじゃないかと。
そう。でも、やる側も、売る側も、観る側も、楽だからどうしても固まることに寄りかかっちゃうんですよね。たまに自分でも寄りかかっていることがあるのも自覚してるし。でも、自分が音楽に感じてる根本的な魅力はそこじゃないので。だからこのアルバムは常にどの場でも、どんなステージ上でもありのままの自分でいられることを意識して作ったものなんですよね。
嘘をつかない、カッコつけない、奇をてらわない、斜に構えない
──このバンドは音楽的に内包している要素はホントに多面的ですよね。アルバムを聴いて、すべて引っくるめたシンフォニックなポップスを鳴らしてると改めて思ったんですけど。なんてたって「60兆の細胞のオーケストラ」(「DNA」)だし。
うれしいです。結局、こういう音楽性でいろんな場所にお呼ばれしてるんだから「この客層ならこういうふうに振る舞おう」とか小手先で勝負したくないなって強く思って。だから、嘘をつかない、カッコつけない、奇をてらわない、斜に構えないアルバムを作らなきゃいけないと思ったし。小手先を使えば、光と影や陰と陽のバランスとか、表層的な深みなんて一瞬で出せるんですけど。それは絶対使わないと決めて。
──だから全10曲というのがすごくリアルですよね。
リアルですね(笑)。13、4曲も作れなかったです。だって、リード曲が「DNA」ですよ? こんなに大風呂敷広げたタイトルを付けて小手先の歌詞を書くくらいひよってることはないなと思って。
──そうですね。で、真夏さんのストレートな表現性ってどこまでも女性的ですよね。
そう思います。自分でも女性的だなって。そういう女性的な感覚もずっとコンプレックスだったんですよ。男からはナメられ、女からは叩かれみたいなところもあったので(笑)。だから、「パワフルなバンドですね」って言われたりするのも、ナメられてるからそういう言い方をされてるんだと思ってたくらいで。
──一概にそうとは言い切れないと思うけど(笑)。
そうですね。でも、インスタントな感じで音楽をやってるふうに見られてるんだろうなって。でも、このアルバムは自分の表現にある明るいオーラとか、ポジティブさとか、パワフルさとか、生命力をとことん受け入れて作ったので。
──それを総称したのが「POWER OF NOISE」っていう。
そう、今このアルバムに「POWER OF NOISE」っていうタイトルを堂々と付けられるのは、デビューから5年間、自分の表現を変えずに作品を出し続けてきたからだと思うんですよ。それは枯れずに湧き出てくるものなんだっていうことも自覚して。それが自分のスタイルなんだって完全に認めることができた。そうすると、逆に今までだったら絶対に使ってなかった言葉も素直に書けるようにもなったんですよ。例えば「DNA」に出てくる「アナーキー」とかそうなんですけど、これって取り扱い注意にもほどがある言葉じゃないですか。
──なかなか手を出しづらいですよね。
だけど、一番「アナーキー」って言わなさそうな私みたいな人間が、「アナーキー」って言葉にまったく執着がない人に向けて言ったら、本来の言葉の意味を取り戻せるんじゃないかと思って。
──なるほど、カッコいい。ここまで振り切れたなら、もう誤解も生まれないですよね。真夏さんはこれまで誤解を受けやすいタイプのアーティストだったと思うんですけど。
そうですね(笑)。でも、誤解を生んでた自分が悪いんですよ。
──反省点もあるんだ。
ありますよ! やっぱり正直に生きるのってホントに難しいから。私はもともと見栄っ張りだし、負けん気も強いから、歪みを生みがちですよね。でも、嘘をつかずにやっていこうと思ったら見栄を張ることも、強がることもないんですね。すごく単純な話で。
──だから、このアルバムを聴いて判断してくれって感じですよね。SEBASTIAN Xというバンドのことも、永原真夏という人のことも。
そうですね。「今までいい印象がなかった人ももう1回だけ聴いてみて!」みたいな。どういう届き方をするのかすごくワクワクしてます。
収録曲
- POWER OF VITAL
- DNA
- ヒバリオペラ
- 三日月ピクニック
- サマー・ハネムーン・ビート
- MY GIRL(姫君へ捧ぐ)
- 光/男/カメラ
- サマタイム・キル
- つきぬけて
- MIC DISCOVERY
SEBASTIAN X(せばすちゃんえっくす)
永原真夏(Vo)、飯田裕(B)、工藤歩里(Key)、沖山良太(Dr)の4人からなるバンド。前身バンドを経て、2008年2月に結成される。同年6月に初ライブを開催し、その後定期的にライブを実施。2008年8月に自主制作盤「LIFE VS LIFE」を発表し、文学的な匂いを持つ詞世界やギターレスならではのユニークな音像が話題に。2009年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「ワンダフル・ワールド」を発表。その後も2010年8月に2ndミニアルバム「僕らのファンタジー」、2011年1月に配信限定シングル「光のたてがみ」とコンスタントにリリースを重ね、2011年10月に1stフルアルバム「FUTURES」を発表する。自主企画も積極的に行い、2012年4月には野外イベント「TOKYO春告ジャンボリー」を上野水上音楽堂で開催し好評を博す。同年7月に3枚目のミニアルバム「ひなぎくと怪獣」をリリースした。2013年4月に2000枚限定でシングル「ヒバリオペラ」を、8月に2ndアルバム「POWER OF NOISE」を発表。