STEREO DIVE FOUNDATION|プロジェクト開始から7年を経て1stアルバム発表 R・O・Nの中での“SDF像”とは

幅の出し方の1つの形

──続いて、5曲目の「Don't let me down」はどうでしょう? 男女の駆け引きのようなものが想像できる雰囲気がありますね。

この曲はオシャレなポップスですね。クラブやライブハウスでナンパをしたい男の歌なのかもしれないし、それを本気にしたい女の子の歌にも取れるのかもしれない。この曲は四つ打ちではなくて、ポップロックのような、歌っていて気持ちいいものにしたいと思っていました。そして6曲目の「Blackout」は、アニメのタイアップ曲ではなかなか表現しづらい曲ができたかなと気に入っている曲です。例えば、「PULSE」はアニメのオープニングテーマとしても使えそうな雰囲気ですし、アルバムにはエンディングテーマとして使えそうな曲も入っていますよね。でもこの曲は、そういうものとはまた違う曲になりました。

──そういった要素を入れられるのは、アルバムならではかもしれません。

R・O・N

そうですね。この曲は「死に瀕した人を見たときにどう思うか」というアイデアから楽曲を形にしていきました。あと、作っていたとき、僕が昔に作曲した「hidemind」という曲を思い出したんですよ。そして「hidemind」はもとをたどっていくと、もっと昔に作った曲にアイデアのもとがあったので……。

──それはどんなアイデアだったんでしょうか??

あのときは確か、イントロの弦の雰囲気は、Fort Minorの「Remember The Name」を意識していたと思います。僕はLinkin Parkも好きですが、それよりもFort Minorのほうが好きだったりするんですね。曲から感じられる情緒的な雰囲気がすごく好きなんです。そう考えると、「Blackout」のイントロの弦の雰囲気は、もとをたどればそういうアイデアにつながっているのかもしれないです。あとは、この曲って少し和っぽい感じもありますよね? 制作中、「サビが少し和っぽい雰囲気だけど、これでいいかな?」とちょっと迷ったんですよ。激しいところで鳴っている、スクラッチっぽい雰囲気のボーカルチョップのオートメーションを書くのもとにかく大変でした。

──7曲目の「Spiral」はどのようにして作っていったんでしょう?

この曲は、イントロを「AXIS」(2014年2月発表の2ndシングル表題曲)と同じような雰囲気にしたいなと考えていたのと、BPM170~175くらいにしたいと思っていました。あとは、4-5-6度マイナーという多くの人々が使うコード進行を、やりまくってしまおうと(笑)。SDFには打ち込みとギターのイメージがあると思うんですけど、今回のアルバムはその中でも幅を出していきたくて、これもその幅の出し方の1つの形でした。この曲は怒った人の話かもしれないし、裏切られてしまった人の話でもあるかもしれません。いろんな解釈ができる歌詞になっていると思います。

──サビの最後に出てくる「君は僕だろ」という歌詞がとても印象的でした。

やっぱり、人ってみんな一緒だと思うんですよ。殴られれば痛いし、ひどいことを言われれば傷付くし、疲れていればネガティブになりますし。仮にこの曲が喧嘩している人の話だったとして、Aメロで傷付くことを言われたけれども、それを飲み込んでいたとしたら……例えば「見覚えのない夜」というのは、「自分がこんな思いになるはずなかった」という夜かもしれないし、同時に「あんたこの夜何してたの? どこの女と何やってたのよ」という夜にもなるのかもしれないし。いろいろと考えられますよね。

音楽背景にあるドイツでの経験

──続く8曲目「Linde」のタイトルの由来は?

このタイトルは、リンデンバウムというヨーロッパに自生する木からつけました。僕は小さい頃にドイツに住んでいたので、基本的にドイツびいきなんですよ(笑)。歌詞についても、誰にでも当てはまるものを書きたいと思っているものの、たまにものすごく固有名詞を入れたくなるときがあって、そんなときはドイツに存在しているものを選びがちです。街の名前であったり、場所の名前であったり、情景であったり……。

──R・O・Nさんの中で、ドイツでの思い出は大きなものになっているんですね。

そうですね。ドイツでの経験はすごく素敵なものとして記憶に残り続けていて、歌詞を書くときにもそれを思い返したりします。住んでいたのは子供の頃ですけど、大人になってからも何度も行っていて、最近だと1年半ぐらい前に2週間ほど滞在しました。もともと住んでいた家のお隣さんが今も相変わらず住んでいるので、そこに泊めてもらって、ごはんを食べさせてもらったりして。あとは、当時の先生に会ったりもしますね。1年前に向かったのも、恩師の方が亡くなったので、そのお墓参りが目的でした。

──今回のように、ドイツでの経験が音楽に影響を与えている部分も大きいんでしょうね。

僕が初めて音楽を作ったのは、ドイツでのことだったんですよ。それまでもピアノを習って弾いてはいましたけど、ドイツにいたときに初めて五線譜に自分で音符を乗せて、それを調律の合っていないピアノで弾いて、初めて親に「曲を作ったよ!」と言いました。もちろん、今考えると曲とも言えないようなものだったんですけど、それはなぜかよく覚えていますね。あと、この曲はギター以外の生楽器が突然出てきたら面白いんじゃないかなと思って、ところどころリズム隊を生にしています。

R・O・N

──ギター以外は打ち込みを主体にした楽曲が並んでいますが、あえてそこから少し外しているということですね。

そうです。それまでエレクトリックなものが主体になっているアルバムの中で、いきなり生楽器が主体になる瞬間が出てきたら面白いんじゃないかなと思って入れたパートです。

──11曲目の「ODSD」(“One Day, Some Day”の略)は、個人的にとても好きな曲なんです。

あっ、本当ですか? 実はこの曲、最初はリード曲にしたいと思っていたんですよ。最初にリード曲を考えていたときに、最近シングルとして出していた曲が激しめのものばかりだったので、ゆったりしたオシャレに楽しめる曲が作りたいなと思って仕上げていって。でも聴いてくれる人が求めているものとはちょっと違うのかなと思い直して、最終的にリード曲は「PULSE」にしました。この曲、気持ちいいですよね。

──制作する際、何かイメージのようなものはあったんでしょうか?

歌詞である程度韻を踏んでいるんですよ。そうすることで、歌っていて気持ちいいものにできたらと思っていましたね。あと、僕は曲を作るときに音域を広く設定しがちで、ライブのことも考えずにキーを高くしてしまうことが多いので、この曲ではレンジを狭くして、まったり歌えるような雰囲気のものにしていきました。

初めての“産みの苦しみ”

──今回STEREO DIVE FOUNDATIONとして初めてのアルバムを作るという経験は、R・O・Nさんにとってどのようなものになりましたか?

自分自身のプロジェクトの作品を作るという意味ではバンドでアルバムを作るときの感覚にも似ていたんですけど、STEREO DIVE FOUNDATIONの場合は、制作において1人で背負うものがすごく多かったので、そういう意味でも、より責任感を感じる作業だったと思います。バンドの場合はみんなでやり取りをして、音楽的な意味でも人と関わりを持ちながら作っていく感覚が強いですけど、このプロジェクトではもちろんサポートしてくれる人たちとのプロジェクトではあるものの、音楽面では演奏も含めて自分自身だけで作っていく感覚で、それは自分にとって初めてのことだったと思います。これまで音楽活動を続けてきた中で、初めての経験ができるというのはやはりうれしいことですし、今回は初めて“産みの苦しみ”を経験したかもしれません。僕の場合、今まで活動をしてきた中で、「作るのがすごく大変だった」という経験をしたことがあまりなかったんですよ。

──R・O・Nさんほど多くの楽曲を制作、提供していても初めてだったんですね。

R・O・N

今回は本当に大変でした。初めてのことってやっぱり刺激的で大変だなと実感しつつも、「とにかくいいものを作りたい」という一心で制作を進めていった感覚でした。

──そうした作業を通して、R・O・Nさんの中でSTEREO DIVE FOUNDATIONというプロジェクトと自分の間の距離感が変わってきた部分もあったんじゃないでしょうか?

もともとこのプロジェクトは、タイアップのオファーをいただいて始まったもので、これまでのシングル曲では、タイアップ曲としていい曲を作ることに専念して、「どうですか?」と楽曲を渡せばそれをジャッジしてくれる人がいたんですよね。つまりその結果喜んでもらえれば、「よかった! ぜひ使ってください!」という形で、1曲ごとに区切りが付けられていたんです。でも去年の10月に約3年9カ月ぶりにリリースしたシングル「Chronos」以降は、このプロジェクト自体に継続して何かに向かっていくような動きや、新しい出来事が生まれていて。今回のアルバムの発売に際しては、リリースイベントも企画してもらっていますし、活動の中で認識が変わってきているのを感じます。以前と比べて、次第にこのプロジェクトにおいて、より直接的な関わり方になってきているんじゃないかなと。

──なるほど。どんどん“自分自身のプロジェクト”という気持ちが増してきていると。

でも、自分ではかなり直接的になっていると思っていても、こうやってお話していると、まだまだ「どこか客観的に見ている部分がありますね」と言われることもあったりするという(笑)。とはいえ自分の中でそういう変化が訪れているのは間違いないと思います。やっぱりプロジェクトを続けていく中で、STEREO DIVE FOUNDATIONに関わってくれる人たちの顔が見えてきたことって、すごく大きいんですよ。以前は起こらなかったようなことが起きて、周りからこのプロジェクトにかけられているものが大きくなってきて、その結果、自分のやるべきことや、やりたいことが増えてきているのを感じているところです。

──R・O・Nさんのさまざまなお仕事の中でもSTEREO DIVE FOUNDATIONは、ほかではできないことができる場所になっているということなのかもしれません。

それは本当にそうですね。なので、これからもがんばっていきたいです。このプロジェクトが作家業にもいい影響を与えてくれそうな雰囲気も感じているところです。

R・O・N

ライブ情報

STEREO DIVE FOUNDATION 1st LIVE「STEREO DIVE」

2020年2月16日(日)東京都 WWW