SCOOBIE DOのニューアルバム「Have A Nice Day!」が、バンドの主宰するCHAMP RECORDSと古巣ビクターエンタテインメントとの“ダブルネーム”で7月31日にリリースされた。
今をさかのぼること13年。それまで所属していたビクターを離れ、ライブのブッキングから作品の宣伝用資料の制作まで、メンバーがすべての業務を行うという文字通りインディペンデントな体制で2006年にCHAMP RECORDSをスタートさせたSCOOBIE DO。心機一転、ミニアルバム「トラウマティック・ガール」の制作に取りかかった彼らが、バンドのテーマであるロックとファンクの最高沸点“Funk-a-lismo!(ファンカリズモ)”を追求すべく、レコーディングエンジニアとして声をかけたのが誰あろう向井秀徳だった。鋭利なギターサウンドや空間的な音響処理など、向井の手によるポストパンク的な音作りは、SCOOBIE DOのサウンドに、さらなる広がりと奥行きを加えることとなった。
今回の特集では、SCOOBIE DOの転機に立ち会った重要人物である向井を招き、「トラウマティック・ガール」の制作背景や新作「Have A Nice Day!」について語り合ってもらった。
取材・文 / 久保田泰平 撮影 / 吉場正和
手書き題字 / マツキタイジロウ(SCOOBIE DO)
「なんかやろう」って向井さんが歌い出した
──SCOOBIE DOのメンバー全員と向井さんがこうやって顔をそろえるのもひさしぶりになりますか?
マツキタイジロウ(G) そうですね。うれしいですよ、ひさびさなんで。
向井秀徳 うれしいね。ただ、今回のアルバムに私はまったくタッチしてないですけどね(笑)。ひさびさにMATSURI STUDIOで録りました、みたいなのではないので「あれ?」って思ってる人もいるんじゃないかな。
コヤマシュウ(Vo) そうですね(笑)。
──もしかしたら、2組が並々ならぬ関係であることを知らない方がいるかも知れないですよね。SCOOBIE DOがCHAMP RECORDSを立ち上げて最初に発表した作品「トラウマティック・ガール」(2007年4月発表)には、向井さんがレコーディングエンジニアとして参加しています。そもそもあれはどういうきっかけだったんでしょう?
マツキ あの頃はちょうどSCOOBIE DOの転換期で、前の年に事務所の契約が切れ、その直後にビクターとの契約も切れてしまって。別のレーベルを探す道もあったんですけど、当時、自力で進んでる先輩たちが何人かいらしたんですね。その中に向井さんもいたので、まずは向井さんに話を聞いてみようと。MATSURI STUDIOという自身のスタジオがあって、レーベルも持っていたから、あわよくばMATSURI STUDIOから出してくれないかなという気持ちも持ちつつ(笑)、「どんな感じでやったらいいですかね?」みたいな相談をさせてもらって。
オカモト“MOBY”タクヤ(Dr) (当時のスケジュール表を見ながら)それが2006年の8月22日ですね。幡ヶ谷の居酒屋で、メンバー全員と向井さんとで飲んで。
向井 今はなき大黒屋ね。
MOBY で、酔っぱらったままMATSURI STUDIOに行って。
ナガイケジョー(B) そこで「なんかやろう」って向井さんが歌い出したんで、リーダーはスタジオにあったギターを弾いて、ベースは置いてなかったから、僕はアコギを持ってベースラインを弾いて、それを録ったんですよね。
向井 録った録った。
ナガイケ そこで思いました。「何かが生まれそうだなあ」って(笑)。
MOBY そのあと、結局僕らは自分たちでレーベルを立ち上げることになって。で、改めてMATSURI STUDIOでレコーディングできないか向井さんに相談してみようということになったのが12月頃……12月27日に「向井氏と打ち合わせ」って書いてますね。それでMATSURI寮(当時、MATSURI STUDIOのほど近くに向井が借りていた2LDKのマンションの通称)にお邪魔して、鍋をご馳走になったりしながらお話しさせてもらって。
向井 CHAMP RECORDSを立ち上げるにあたっての具体的な相談とかもあったかね? 例えば流通をどうするかみたいな。
MOBY そう、そこでいろいろ教えてもらったんですよ。で、レコーディングに入る前にも打ち合わせしたいってことで、笹塚の和民に行って。
ナガイケ そこでも鍋を食べて(笑)。
向井 珍しいな。私はあんまりチェーン店系の居酒屋には行かないから。
MOBY 正月だったからなんですよ。お店がやってなかった(笑)。
向井 ああ、正月やったね。あの頃は鍋に凝ってて、鍋ばっかよう食ってたなあ。
MOBY それで、1月7日にレコーディングを開始してる。
──その頃、ZAZEN BOYSの活動は?
向井 3枚目(「ZAZEN BOYS III」)を出したあとですね。
MOBY 向井さん、1月は丸々オフっていうことだったんですよね。
向井 ライブもやってなかったね。日向(秀和。現・ストレイテナー)が抜けたところだったから(脱退発表は2月)、それで空いてた。そういう意味では、私のバンドも転換期だったわけですよ。それで、スクービーのレコーディングに集中できたんじゃないかな。
マツキ レコーディング自体はわりと淡々とね、普通に進んで行きました。
MOBY で、「ROPPONGI」っていう曲だけ歌詞が未完成で……。
ナガイケ これは向井さんとの共作ですもんね。「夢であえたらどう?」って繰り返すところ、インパクトが強過ぎて、すごい衝撃でした(笑)。
スクービーの音には一聴してそれとわかる個性があった
──向井さんは、ご自身でやられてるバンド以外の音作りに参加するのはスクービーの作品が初めてだったんですよね?
向井 このあとに仲野茂さんのSDR(セドロ)というバンドをMATSURIで録ったことがありましたけど、自分たち以外の音源を制作したのはあれが初めてでしたね。
──そこでの面白さや発見はありました?
向井 あったね。というのは、それまで自分たちのしかやってなかったから、自分のフォーマットの音作りっていうのがあったんですけど、バンドって音の出方とかにも当然のように個性があるわけですよ。SCOOBIE DOには一聴してそれとわかる個性、芯や筋が通った強いサウンドというのがあって、ベース、ドラム、歌……特に歌は自分の歌しか録ってなかったわけだから、シュウくんの歌を録るときはね、声デケえなと思って(笑)。
コヤマ (笑)。
向井 歌にパワーがあるってことなんだけども、すごくこう、マイクとの相性がいいなと思ってね。私、向井のボーカル録りは、マイクの位置決めとかシビアだったりするんですけど、シュウくんはなんでもいいみたいな。全部乗っかる。そこは一番新鮮だったかな。それと、全員が優れたプレイヤーなので、それぞれ音はいいわけですよ。そういう意味ではいろいろ作り込む必要もなかったというか、バンドサウンドができあがっているから、あんまり音作りの面でいろいろ仕掛けをしなくてもいい。バンドのノリをそのまま録音できればいいっていうことでしたね。あくまでも“録音の手伝い”っていうイメージだったな。ケーブルをつないだりする人、あとは録音ボタンを押す係みたいなね。
マツキ いやいや。
ナガイケ 普段使ってなかったフェンダーのプレシジョンベースを使いたいなと思って持っていったんですけど、個体の問題なのかプツプツとノイズが入ることが多くて、それを向井さんが一所懸命直してくれた記憶があります。その節はすいません、楽器のメンテまでしていただいて(笑)。
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向井さんから一番影響を受けたのはD.I.Y.の姿勢