音楽ナタリー Power Push - シナリオアート
試練を乗り越えて見えた世界
シナリオアートが初のシングル「エポックパレード」をリリースした。前作の3rdミニアルバム「dumping swimmer」でリアルな感情を吐き出したシナリオアートが新たに完成させたのは、眩しいほどポジティブなエナジーに満ちた作品。その背景にはバンドに訪れた試練を乗り越えたことがあり、これを経て彼らは大きく変貌を遂げたようだ。音楽ナタリーでは、メンバー全員にインタビューを実施。ここに至るまで、そして3人が今信じている価値観について、話を聞いた。
取材・文 / 田山雄士 撮影 / 塚原孝顕
自分たちの現在地を確認した楽曲
──シナリオアート、すごくいい感じに変わりましたね。1stフルアルバムの「Happy Umbrella」の「ブロークン」「モウモクカクメイ」あたりの楽しさも、同時に戻ってきた気がして。
ハヤシコウスケ(G, Vo, Programming) ありがとうございます。おかげさまでいいシングルができたかなと。
──今開催中のワンマンツアー「シナリオアート ワンマンツアー 2016 [Scene #2] -シンカイヘ-」の感触はどうですか?
コウスケ 去年のワンマンツアーとはぜんぜん違うよね?
ハットリクミコ(Dr, Vo) うん。去年は余裕ゼロの状態で始まって試練の嵐やったけど、今回は楽しみながらできてる。
コウスケ ライブハウスを潜水艇に見立てて、来てくれたお客さんと一緒に潜って旅をするコンセプトなんです。やりたかったことができてますね。
──以前はやりたいことができてなかった?
コウスケ 以前は夢に翻弄されてたというか……。「エポックパレード」って、一度立ち止まって自分たちの現在地を確認した楽曲だと思うんです。今この瞬間をしっかり受け入れられるようになったから、些細なことでも「充実してるな」と感じられて。
クミコ この1年でいろんな壁にぶつかって、楽しくて始めた音楽やのにそう感じられなくもなったりしたし。
ヤマシタタカヒサ(B, Cho) 「シナリオアートにとって、どうするのが合ってるのか」ということで、右往左往してて。でも、自分たちが「コレ!」って思うものを信じて見せるのがバンドとして一番大事やなと。この前、ツアー初日の仙台公演が終わってやっと確信できましたね。
自分を押し殺してしまった時期
──試練の時期について、もう少し聞かせてください。
クミコ 上京したことでバンドに関わってくれる人が増えて。もちろんありがたいんですけど、それぞれの人にとってのバンド像が存在してきて。客観的に見えるシナリオアートと、自分たちが思うシナリオアートにズレが出てきたんです。でも、私たちは強く言えなくて、「こっちのほうがええねんけどな」って思いながら押し殺してしまう、みたいな。
コウスケ 僕らのために言ってくださることだから、ある意味すべてが正論で、なんでも受け入れてしまいそうになったり。自分たちが正解にならなあかんのに。
クミコ 私は本来の自分を消して、別の自分を演じてたな。例えばファッションにこだわってると思われることが多かったんですけど、本当は服とか全然興味ないんですよ(笑)。
──え! むしろ、大好きなんだと思ってました。
クミコ そう見えていたなら、それはそれでうれしいですけどね。自分をよく見せなきゃってこともストレスになってたみたいで、「自分じゃないな」と思ってたときもあった。そういうのが積み重なって、いつの間にか手が付けられんくらいになっててね。ライブ中に声が出なくなったりとか。
ヤマシタ ライブ終わって、すぐ泣いてたりしたもんね。
クミコ ほかの出演者がいるのに、号泣しちゃったこともあったね。考えることは基本的にすべて悲しい感情で、とにかくバンドにいられないほど私がつらくなってしまって。メンバーとも話せへんかったり、何時間もトイレに籠ったり。でも別にわざとなわけじゃなくて、気付いたらそうしてて。ライブでちょっとうまくできなかっただけで、「嫌われる!」と思い込んだりもしてました。
コウスケ 電車にも乗れんかったんよな。
クミコ メンバーと打ち合わせに行くときに電車に乗ってたら、吐き気がしてきて。それが前回のツアーファイナルの翌日とかです。
──そうだったんですね……。
クミコ 去年のツアーはずっとそんな状況で。
コウスケ そうなる前、みんなでいろんな壁を必死に乗り越えていこうとがんばってて。そこで無理しすぎたんやな。
クミコ そやな。がんばれてるときは無理してる感覚がなかった。
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- ニューシングル「エポックパレード」 / 2016年7月6日発売 / Ki/oon Music
- 初回限定盤 [CD+DVD] / 1500円 / KSCL-2742~3
- 通常盤 [CD] / 1000円 / KSCL-2744
CD収録曲
- エポックパレード
- ジンギスカンフー
初回限定盤DVD収録内容
- Scenario Sessions(シニカルデトックス / ハロウシンパシー / トワノマチ)
シナリオアート ワンマンツアー 2016 [Scene #2] -シンカイヘ-
※終了分は割愛
- 2016年7月8日(金)
- 大阪府 BIGCAT
- 2016年7月14日(木)
- 東京都 EX THEATER ROPPONGI
シナリオアート
ハヤシコウスケ(G, Vo, Programming)、ハットリクミコ(Dr, Vo)、ヤマシタタカヒサ(B, Cho)による3人組バンド。2009年に地元滋賀で結成され、2011年より現在の編成に。2012年に行われた「キューン20イヤーズオーディション」で最終ライブ審査の11組に残り、同年12月には関西のコンテスト「eo Music Try 2012」でグランプリを受賞する。2014年1月にミニアルバム「night walking」でKi/oon Musicよりメジャーデビューを果たした。同年9月には2ndミニアルバム「Tokyomelancholy -トウキョウメランコリー-」をリリースし、発売翌日に初のワンマンライブを東京・UNITで開催。2015年6月には初のフルアルバム「Happy Umbrella」を発表し、初の全国ワンマンツアーを行った。同年11月、レーベルメイトのKANA-BOONとのスプリットシングル「talking / ナナヒツジ」をリリース。2016年7月に初のシングル「エポックパレード」を発表した。