SCANDALが通算10枚目となるニューアルバム「MIRROR」をリリースした。
昨年、結成15周年を迎えたSCANDALは、メンバーそれぞれが自分自身やバンドに対して深く向き合い、今の自分たちとして表現するべき音楽を模索してきた。その過程で生まれ、2021年にそれぞれシングルとして配信リリースされた「eternal」「アイボリー」「one more time」の3曲を導線としながら編まれた本作「MIRROR」は、しなやかで柔らかな今の4人のムードをリアルに映し出す革新的な仕上がりとなっている。メンバー全員が作詞・作曲に関わり、4人それぞれがメインボーカルを務める楽曲がひさしぶりに味わえるのも大きな聴きどころと言えるだろう。
SCANDALの持つ多様性を鮮やかに提示し、自ら「いい意味で今までで一番変なアルバム」と称する本作についてメンバー4人にたっぷりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき撮影 / YURIE PEPE
通算10回目の「ベスクリ」を終えて
──昨年12月24日に豊洲PITでクリスマスライブ「BEST★Xmas 2021」が開催されました。2年ぶり、通算10回目の「ベスクリ」はいかがでしたか?
HARUNA(Vo, G) 楽しかったー。ド頭から中盤までの流れが特にヤバかったですね(笑)。
TOMOMI(B, Vo) ファンのみんなは声が出せない状況なのに、出させようとするかのような激しいセトリで(笑)。「ベスクリ」は多様性のあるSCANDALの武器を最大限に生かせるライブだから、自分たちもやっていて本当に楽しかったです。
RINA(Dr, Vo) そうだね。歌って踊って演奏してたくさん話してっていう、自分たちができることを全部詰め込んだようなライブだった。今回で10回目でしたけど、今後も大事に育てていきたいライブのスタイルだなって改めて思いました。ハッピーな雰囲気で年末を締められて幸せな気分になりました。
MAMI(G, Vo) 「やっぱベスクリがないと1年が終われないっしょ!」みたいな感じがファンのみんなにもあるよね(笑)。1年間のいろんなことを発散しにきてくれたのが伝わってきたので、本当に開催できてよかったです。
HARUNA 今回はライブで盛り上がる曲における自分たちの見せ方の変化を感じたんですよ。今までは声で客席を煽ることが多かったけど、今回はコロナ禍でのライブだし、自分としてもあまりそういった気分じゃなかったので、激しい曲でもあえて声で煽ることをしなかった。にもかかわらず、ライブとしてちゃんと成立することに気付けたんです。今まで見てきた景色とは違う雰囲気になったけど、それが今のSCANDALとしての激しい曲のやり方だと思えました。いろんな変化をしながら、ちゃんと前に進んでいることを実感できてよかったです。
4人のアートが集結してできた“今までで一番変なアルバム”
──その日のライブで「新鮮で個性的なアルバムができました」と報告されていましたが、ついにSCANDALとして通算10枚目となるニューアルバム「MIRROR」がリリースされました。これまでの9枚のアルバムとは違った雰囲気ですけど、間違いなく最高傑作だと思います。大きな手応えを感じているんじゃないですか?
HARUNA そうですね。1年の始まりに新しい自分たちの姿を感じてもらえる喜びがすごくあります。コロナ禍の中で作ってきた作品なので、今までとはちょっと違った雰囲気を持っているけど、全員が30代になった自分たちらしさが存分に詰まった内容になっているので、そこをちゃんと感じてもらえたらうれしいです。
MAMI コロナ禍のこの約2年間は、曲をどこに、誰に向けて作ったらいいかわかんなくなっちゃった時期もあって、いろんな模索をしてきたんですよ。メンバーそれぞれが自分自身やバンドに対して、ものすごく向き合った時間でもあった。そんな中、自分たちのために曲を書くのもいいのかもしれないなと思えたし、それによって新たな発見もたくさんあったんです。その結果、いい意味で今までで一番変なアルバムができたような気がします(笑)。個人的には何度もくじけそうになったし、諦めそうな瞬間もあったけど、力を振り絞って完成させることができたので、今までにない達成感と安堵感がありますね。同時に改めて気持ちが引き締まりましたし。
──となると、これまで以上にファンの反応も気になりますよね。
MAMI そうですね。どう届くのか、どう感じてもらえるのか……これまでで一番未知かも(笑)。
──ただ、昨年リリースされた「eternal」「アイボリー」「one more time」の流れが今のSCANDALのモードをしっかり見せてくれていたので、アルバム全体のムードに心地よく浸っていける感覚はありますよね。
RINA うん、そうですね。私は儚くてあいまいで答えがない作品にすごく惹かれるんですよ。何も押しつけず、決めつけずに自由なとらえ方ができるものが好き。今回はそういったアートをSCANDALの音楽として完成させたいとすごく思ったんですよね。これまでのSCANDALのイメージでは、そういったものをやるのはちょっと難解すぎるし、あまりにもポップじゃなさすぎるのかなって思いももちろんあったけど、今それをやらないと次に進めないような気もして。だからどう受け取ってもらえるかはわからないですけど、自分たちとしては本当に好きなものが作れたし、MAMIが言う通り、そこへの達成感は過去イチだと思います。
TOMOMI 今の自分たちがどういうことを歌い、表現するべきかを迷ってきた結果、全体的に“結論づけていない曲”が集まった感じがあります。渦中であるコロナ禍における音楽のあり方の正解もまだ見えていないし、自分たちがどう音楽活動をしていくのかも含め、まだまだわからないことはいっぱいある。だからこそ今回は今まで隠していたような部分をさらけ出すこともできたし、そういう自分たちのことも「それでいいんだな」って肯定できたような気もしていて。そういう意味では、ちょっと大人になった今の自分たちの姿を鮮明に映し出した鏡のようなアルバムだと思います。そんな思いからタイトルを「MIRROR」にしたんです。
──結成15周年を迎えたSCANDALが10枚目という節目の作品として、こういったムードのアルバムを出すことはきっとバンドの未来のために必要なことだったんでしょうね。
RINA 本当にそう思います。これまでにも増して自分たちに向き合って制作に臨んだのは、16年目以降もできるだけ長く音楽を続けていきたいからなんです。メンバー全員が30代になって、どうすれば長くバンドを続けられるのかを真剣に考えた。そうすると自ずとBPMが落ち着いた曲も増えてきたし、言葉選びに関しても柔らかさやしなやかさみたいなものをより取り入れられるようにもなったんですよ。そうやって今の自分たちに正直な音楽を作れたことが気持ちよかったし、4人のアートがここで1つ完成したという思いもあるんですよね。
タイトル曲「MIRROR」で描いた儚さ、丸さ、柔らかさ
──アルバムはタイトル曲となる「MIRROR」で幕を開けます。この曲はRINAさんが作詞を、MAMIさんが作曲とアレンジを手がけられています。
MAMI 実はこれが一番苦労した曲なんですよ。
RINA 制作の最後にできた曲だよね。
MAMI うん。この曲以外の9曲ができた時点で、自分としてはすごくカッコいいアルバムになった手応えはあったんです。これまでの自分たちからすれば、いわゆるライブで盛り上がるような激しい曲は入っていないけど、でもこれが今の自分たちだし、ライブも絶対楽しくなるラインナップにはなっているなって。ただ、もうちょっとバンドサウンドがガツンと出た、自分たち自身も奮い立たせられるような曲も欲しいという意見もあって。そこでもう1曲作ることにしたんですけど、そのときの自分はそういうガツンとした曲を作るモードではなかったので、けっこう時間がかかった。でも結果としては普段過ごしている中で聴いている音楽や日々感じている気持ちみたいなものをギュッと凝縮して満足のいく楽曲に仕上げることができました。
RINA 最初にMAMIから「こういうリズムの曲を作りたいんだよね」って、膝を叩いてリズムを刻んだ音源が届いたんです。それを聴いたときに、このリズムだったら絶対スケール感のある、今の自分たちにマッチした激しい曲ができるなと思いました。歌詞は、アルバムのタイトル決めのミーティングを何十回と繰り返す中で出てきていた“儚さ”“丸さ”“柔らかさ”みたいなワードから浮かんだイメージで書いていきました。アルバム全体をまとめてくれる“MIRROR”というワードが出てくるまでには相当時間がかかったけど、ミーティングを重ねたからこそこの曲の歌詞が書けたからよかったと思います。
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試行錯誤の末に生まれたコーラスワークの妙