今回は、ダメとかノーとか絶対言わないって決めてた

──「スロウサーフィン」も同様の作り方を？

石川　「スロウサーフィン」なんてもっとすごかったの（笑）。「Baby Baby」のスタジオで、「曲上がったんで聴いてください、キーの高さはこれでいいですよね」って。「『高さいい』って言われても、今聴いてるんだけどなー」みたいな（笑）。

奥田　有無を言わせず。「時間もないんで、これでお願いします！」（笑）。

──スリリングな（笑）。

奥田　そこでダメって言われたら、次のを考えようとはしてたんですよ。

石川　私は今回、ダメとかノーとか絶対言わないって決めてたの。そういうの、いいなって。長いあいだ歌を歌ってきてると、こうしたいとかああしたいとか思うようになってくる。それを一度白紙にして、もう全部プロデューサーさんがやってくださる中に自分がいるという、そういうのを試すのも、今回はいいチャンスかと思って。私の歌い方がお気に召したかどうかは置いといて。奥田さんは、訊いても教えてくれないんだけど（笑）。「そこはどうすりゃいいのよ」って自分でスタジオで頭を悩ませながら。でもそれはそれで楽しく進めました。

──こちらの曲はどのように歌おうと？

石川　今回は、全体の流れ、声、それで、上がればいいなと。

──この曲はラテンっぽい匂いもあって、大人っぽい感じを意識されたのかと思いましたが。

奥田　1曲目との差をね。明るい曲調から暗い曲調へ。同じメロディでもいろんなアプローチはあったと思うんですけど。ボサノバみたいになってもよかったし。まあ、1曲目もそうですけど、その日の都合とか、たまたまその週の趣味嗜好とかが出てる（笑）。たまたまこうなったとしか言えないんですけど。1曲目がああだから、わりとどんよりしたほうがいいなとは思ってたんです。

──サーフィンというと明るいイメージですけど。

奥田　最悪な感じを（笑）。雨の中で、なんでこんなことしてるんだという感じを出したかったんで（笑）。

──サーフィンされるんですか？

奥田　しません。

──しない人の発想かもしれませんね（笑）。

奥田　さわやかさのかけらもないですね。

この曲の狙いは、サーフィンを嫌々やってる感じ

──この曲は、石川さんの裏でずっと民生さんが歌ってますよね。

奥田　そうですね。一応、「銀恋」（男女デュエットの有名曲「銀座の恋の物語」）的な。

石川　（笑）。

奥田　うそです（笑）。「銀恋」みたいになったらはずかしいと思って（笑）。バランスをちょっとでかくすると、そうなっちゃうんですよ。女子と男子の声が一緒に出ると、カラオケみたいに聞こえちゃう。だからだんだんボリュームを下げて、ちっちゃめにしました。

──でも、いるっていう（笑）。

奥田　確かに、声質が違うんで、存在してしまうんですけどね。

──あの歌の感じは、石川さんとの声との違いが浮き出てて面白いですよね。狙いはどこかと思いながら聴きました。

奥田　狙いは、サーフィンを嫌々やってる感じ。つらいなーみたいな感じが出てれば（笑）。

──間奏で、いい雰囲気のサックスが入ってますね。

奥田　そうなんですよ。そこは、1曲目を録ったときにGAMOさんだけ居残ってもらって、ついでにお願いしますってやってもらったんです。

石川　私、この歌好きですよ。濡れ煎餅みたいで。

奥田　濡れ煎餅ね。確かに確かに。

石川　あの感じってクセになりません？

──ムーディに、と思って歌われたんでしょうか？

石川　そうでもなかったかなあ。こんなこと言っちゃいけないんだけど、「もっといろんな歌い方ができるなあ」と思ってたのに民生さんが「もういいです」って（笑）。

奥田　アプローチはいろいろあったと思うんですよ。でもこの曲は、最初の曖昧さがあるぐらいのほうがいいのかなと思って。その、形になっていく途中ぐらいの。難しい感じですけど。こなれてくると、また違うものになって、いいんでしょうけど。今回は曖昧なほうがいいかなと。あと僕の歌声が重なるので、さらに曖昧になって。そんな感じを出したくて、途中でお帰りいただきました（笑）。

石川　（笑）。

──これも歌っていくにつれ変わっていく可能性がありそうですね。

石川　そうですね。人ってついつい完璧を求めてしまうでしょ。カラオケで言うなら、より点数は高く、より完成度は高く。でも、そうじゃない隙間が、いい感じであるのはいいんだなって。これも再発見。いつもスタッフとやってると、どうしても「ここ、こうしたいね、ああしたいね」って、ついつい突き詰めてしまう。でもそうじゃない、隙間ってステキなものだなと初めて思ったんです。ちょっと自分の中では歯がゆく、でも聴く人には心地良いのかも。その案配。それがね、今回の私の収穫でもあったかな。

奥田民生という人を、もっともっと知りたい

──今後はこれらの楽曲をステージで歌われる可能性もありますか？

石川　そうですね。近いところで言うと、クリスマス公演ですね。

──ステージで民生さんと共演という可能性は？

石川　お忙しい方なので、スケジュールが合うかわからないけど。突然の出来事として、何かが起これば、それはそれで楽しいかなと思いますけど。

──民生さん、「スロウサーフィン」歌ってくださいよ。

奥田　地味な感じで（笑）ぼそぼそっと。俺がサックス吹けるといいんですけどねえ。そしたらサックスでステージに出るのに。

──この2曲をきっかけに、アルバムを作ろうなんて思われます？

奥田　やれと言われれば。

石川　そうですね。奥田民生という人を、もっともっと知りたいし、興味はありますね。石川をどういう風に作ってくださるかなと思ったり、逆に奥田民生をどういう風にさせるかなと思ったり。今回のも十分面白いんですけど、またチャンスがあったら、もうひとつ面白いことをするのもありかなという気がする。自分に対しても、期待してるのかな。何かまだ反応できるんじゃないの？って。

奥田　演歌ですかねえ。いろんなジャンルのものを作ってみたいと思いますねえ。業界のことは知らないですけど。そっちに踏み入っていいのかどうかもわからないんですけどね（笑）。