さユり|陸を歩き始めて見えたもの

「自分と他者」を表したタイトル

──「月と花束」の歌詞には「月」は出てこないですよね。

出てこないですね。

──でも月は、ご自身の象徴でもありますよね。

さユり

そうですね。私にとって満月は憧れの対象だったし、一方で三日月には欠けている自分自身を重ねていました。そうやって今でも光っている月を見上げているんですけど、月自体は自分で光を放っているわけじゃなく。太陽の光を反射していると思ったときに、その月を見上げている私も、自分の力だけでは光らないんだって気付いて。じゃあどうやったら光れるんだろうって考えたら、周りの人たちからもらったものを燃料にしたり、灯火にしたり、太陽にして反射させれば光るかもしれないなって。やっぱり「月と花束」は他者との関わりの中から生まれた曲なので、タイトルにも「自分と他者」みたいな関係性が表れていますね。

──歌詞では単に「花」だったのが、曲名では「花束」になっているのは?

「花」よりも「花束」のほうが、作為的なニュアンスが感じられると言うか。人の手が加えられたうえで、自分に与えられたものという意味合いを含んでいます。

──あと月と言えば、昨晩の月食はご覧になりました?(本インタビューは皆既月食「スーパーブルーブラッドムーン」が観測された1月31日の翌日に行われた)

見ました。ああいう現象を見て改めて思ったんですけど、月の満ち欠けだって、月自体が実際に欠けてるわけじゃなくて、地球と月の位置関係次第で、欠けているようにも欠けていないようにも見える。関係性ですよね。そういう捉え方ができるようになったのも今回が初めてで、それはたぶん自分のいる場所が変わって、見えてる世界も広がったからだし、だからこういう曲が書けたのかなって思います。

「月と花束」と対になる「レテ」

──今回のシングルは初回生産限定盤と通常盤、期間生産限定盤でそれぞれカップリング曲が違います。まず、期間生産限定盤に収録された「レテ」についてお聞きしたく。

はい。

──と言うのも、さユりさんは「月と花束」で「捨てる」という選択をされましたが、「レテ」はそれに対して「本当は背負ってゆくべきだったんじゃないか?」と、自ら疑問を呈されている。つまり、この2曲は対になっている?

そうですね。「捨てる」ことを選んだ自分だからこそ書けた曲。「月と花束」は「私はこうやって生きていきます」という宣言であり、私という存在の輪郭がすごくはっきりしているんです。でも「レテ」は逆に、歌詞にも「此処に僕の名を正確に呼べる人はもう居ない」とあるように、主人公の「僕」は匿名的で、自分では選ばずに、人々が選んでいくのを眺めながら「本当にそれでいいの?」と問うています。だから、反対の場所にいる自分として歌っていて。

──曲名の「レテ」というのは、ギリシア神話にある冥府を流れる忘却の川ですか?

そうですそうです。タイトルは最後に付けたんですけど、亡くなった人が来世に行くために、レテの水を飲んで現世の記憶をなくすっていう、そのイメージがしっくりきて。例えば子供が大人になったり、ある場所から別の場所へ進んだりするときに、捨てなきゃいけないものや変わらなきゃいけないことってありますよね。でも一方で、失ってはいけないものもあるんじゃないかって。それを判断するのは結局のところ自分自身なんだっていう部分は「月と花束」も「レテ」も共通しているんですけど、「レテ」では「みんな当たり前のように進んで行くけど、何か見落としてない?」みたいな疑問を投げかけています。

──「レテ」はミディアムテンポのロックナンバーで、わりと抽象度の高い歌詞だと思うのですが、どんなところから着想を?

さユり

歌詞は、最初に「落下」っていう単語が出てきたんですよ。で、何かが落下していく映像が浮かんで、例えばBメロの「空と皮膚の隙間に 正しい言語が 落下してゆく」という部分ができたり。あるいは太陽がゆっくり沈んで、何か大事なものがだんだん闇に飲み込まれて見えなくなってしまうっていう、そんなイメージから広げていきました。

──曲調に関しても同じですか?

やっぱり映像からですね。なんとなく、映画「千と千尋の神隠し」で、日が暮れてあたりが薄暗くなっていく中で八百万の神々がぞろぞろと現れて進んで行くようなシーンが浮かんで、それが淡々とした曲調につながっていきました。

──視覚的なイメージが曲作りに反映されることってよくあるんですか?

けっこうありますね。今回はそれが特に顕著で。「月と花束」で言うと、Aメロにある「深い森」というのは自分の心の中の状態を例える表現としてもともとあったんですよ。簡単に説明すると、私のイメージでは、1人ひとりが心の中に都市を抱えていて、その中心部には深い森があるんです。で、その森の奥にはパチパチ燃える焚き火みたいなものがあって、それが火力発電所のような働きをして町全体にエネルギーを供給している。だから人が生きていくうえで、その火は絶やしてはいけないみたいな。

さユり「月と花束」
2018年2月28日発売 / アリオラジャパン
さユり「月と花束」初回生産限定盤

初回生産限定盤 [CD+DVD]
1700円 / BVCL-857~8

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 月と花束
  2. 平行線-弾き語りver.-
  3. 日向雨
DVD収録内容
  • 月と花束 MV(フルレングスver.)
さユり「月と花束」通常盤

通常盤 [CD]
1000円 / BVCL-859

Amazon.co.jp

収録曲
  1. 月と花束
  2. プルースト
さユり「月と花束」期間生産限定盤

期間生産限定盤 [CD+DVD]
1599円 / BVCL-860~1

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 月と花束
  2. レテ
  3. 月と花束-アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」EDver.-
DVD収録内容
  • アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」-ノンクレジットED映像-
さユり
さユり
福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ系「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる「フラレガイガール」をリリース。2017年3月に発表したシングル「平行線」はフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「クズの本懐」およびドラマ「クズの本懐」のエンディングテーマに使用され、大きな話題を集めた。5月に1stアルバム「ミカヅキの航海」をリリースし、オリコンウイークリーアルバムランキング3位を獲得。2018年2月にアニメ「Fate/EXTRA Last Encore」のエンディングテーマ「月と花束」を発売する。