「ケーキを食べましょう」ではなく「ケーキを焼きましょう」
──「十億年」はミディアムテンポで重厚な曲ですが、続く「ケーキを焼く」は一転して軽快な、そしてちょっとコミカルな曲ですよね。ここまで「不完全だけれど前に進む決意をしたものの、そこにはやはり大きな不安もある」という流れがあったとしたら、その不安を解消する手段として「ケーキでも焼いたらどうですか?」みたいな提案をしているような。
そういう、ある意味で軽い気持ちで口ずさめる、お守りみたいな曲にしたかったんです。歌詞にもある通り、「ケーキを焼きましょう」であって、「ケーキを食べましょう」ではないんです。さっきの話ともつながるんですけど、能動的な行為はその人にとってプラスに働くんじゃないかなって思って。
──行為自体に価値を置いている。僕はケーキは焼いたことはありませんが、料理って、作っているときは無心になれるし、気分転換にもなりますよね。さユりさんはケーキ焼かれます?
めったに焼かないです(笑)。実はこの曲は、偶然生まれたような曲でもあるんですよ。あるときiPhoneで音楽をシャッフル再生していたら「ケーキを焼く」っていう、見たこともない曲名が表示されてびっくりしたんです。それはどこかで入れたらしいスピードラーニングのアプリか何かのタイトルだったんですけど。その「ケーキを焼く」っていう字面が妙に引っかかって、曲にしちゃいました。
──曲名や曲想のきっかけはどこに転がっているかわかりませんね。でも、そのスピードラーニングの「ケーキを焼く」を、「その手で作るんだよ あなたが美味しく味わえる世界を どんな不格好でも平凡でも構わないから」まで導くさユりさんの発想力も見事だと思います。
ありがとうございます。
欠点だと思う部分があっても、それを含めた全部があなただから
──さユりさんは先ほど「このアルバムを聴いた人が自分を肯定できるようになったらいい」とおっしゃいましたが、「産み落とされたいびつなたまご」であっても「生まれたまんまの姿でいいよ あなたの瞳は美しい」と歌う「オッドアイ」は、見た目を起点にその思いを言葉にしていますね。
私は、人のことをすごく見てしまうんですよ。「この人はなんで笑顔がちょっとだけ右に傾くんだろう?」とか「この人はなんでこういうしゃべり方をするのかな?」とか、そういう目に見える仕種や口調から、その人の過去が気になっちゃうというか、生い立ちを想像する癖みたいなものが普段からあって。
──逆に考えると、過去の積み重ねがあるから今のあなたの見た目になっていると。
もっと言うと「その積み重ねがあるからこそあなただけの笑い方やしゃべり方ができて、そこからあなただけの言葉も生まれるんだ」っていう。過去の経験すべてがその人を形作ってるんだから、仮にその人が欠点だと思う部分があっても、それも含めた全部があなただし、そのままでいいよっていうのはいつも思ってて。そういうメッセージをこの曲には込めてます。
──仕種からどんな過去なり生い立ちなりを想像されているのか気になるところではありますが、それはさておき、「オッドアイ」はアレンジを雨のパレードが担当していますね。
デビューする前に雨のパレードさんのライブを観に行ったりして、そういうつながりもあったので、アレンジをお願いしてみようと。素敵なアレンジにしていただきました。
さユりの「後悔」を背負った、絶望しかない歌
──「ミカヅキの航海」の収録曲はどれも、この世界の息苦しさや不完全な自分を前提としながらも、どこかに希望を見出せるような歌詞になっていますね。6曲目の「蜂と見世物(サーカス)」も、歌詞の内容はかなり重くて暗いけれど、「光を導いていくのは 僕らの役目だ」「どれだけこの手で人を守れるのだろう」と、強い言葉で絶望的な状況をひっくり返そうとする意思が見て取れます。
「蜂と見世物(サーカス)」は、アルバムの中では昔の曲に入るんですけど、当時のある記憶をベースに書いていて。私は当時も今もそれを忘れたくないと思っていて、それが希望を感じさせる歌詞につながったんじゃないかと。
──しかしながら、11曲目の「knot」だけは、まったく希望がない歌ですよね。誰かとのつながりをknot=結び目に例えて、絡まった糸を解いて結び目を見つけようとしたけど、そんなものはどこにもなかったっていう。
そうですね。「knot」は自分の後悔の部分をすごく背負ってる作品だなって。それは、歌詞の「一度でも名前を呼べたら変わってたのだろう?」っていう一節に集約されるんですけど。
──あえて絶望しかない曲をアルバムに入れたというのにも、何か意図があったのかなと。つまり「そりゃあ前に進むに越したことはないけれど、そうは言っても本気で絶望して動けなくなるときもあるよね」みたいな。
そもそも絶望しない人は希望を必要としないというか、闇があってこその光なので、そこはコントラストとして、あっていい曲だって思います。
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外の暑さよりも、むしろ中の涼しさに夏を感じる
- さユり「ミカヅキの航海」
- 2017年5月17日発売 / アリオラジャパン
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初回生産限定盤A
[CD+Blu-ray Disc]
3900円 / BVCL-791~2 -
初回生産限定盤B [CD+DVD]
3500円 / BVCL-793~4 -
通常盤 [CD]
2700円 / BVCL-795
- CD収録曲
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- ミカヅキ
- 平行線
- 十億年
- ケーキを焼く
- フラレガイガール
- 蜂と見世物(サーカス)
- るーららるーらーるららるーらー
- オッドアイ
- それは小さな光のような
- 来世で会おう
- knot
- アノニマス
- 夏
- birthday song
- 初回生産限定盤A Blu-ray収録内容
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- ミカヅキ MV
- それは小さな光のような MV
- 来世で会おう MV
- フラレガイガール MV
- アノニマス MV
- 平行線 MV
- birthday song MV
- 初回生産限定盤B DVD収録内容
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- 東京キネマ倶楽部ワンマンライブ&新宿ReNYワンマンライブ ライブダイジェスト映像
- 酸欠少女さユり アルバム「ミカヅキの航海」発売記念全国ツアー「ミカヅキの航海2017~夜明けの全国ツアー~」
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- 2017年7月21日(金)福岡県 DRUM Be-1
- 2017年7月28日(金)愛知県 ElectricLadyLand
- 2017年7月30日(日)宮城県 仙台MACANA
- 2017年8月11日(金・祝)東京都 TSUTAYA O-EAST
- 2017年8月13日(日)北海道 cube garden
- 2017年8月25日(金)大阪府 BIGCAT
- さユり
- 福岡県出身、1996年生まれのシンガーソングライター。人とは違う感性と価値観を持つことにコンプレックスと優越感を抱き、生きることへの息苦しさを感じる自分を“酸欠少女”と表現している。中学生の頃に地元でライブ活動をスタートさせ、2013年に上京。2015年3月には東京・TSUTAYA O-nestでのワンマンライブを成功に収める。同年8月にフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「乱歩奇譚 Game of Laplace」のエンディングテーマ「ミカヅキ」でメジャーデビュー。2016年2月に2ndシングル「それは小さな光のような」をリリースした。同年6月に配信シングル「るーららるーらーるららるーらー」を配信限定で発表し、iTunesトップアルバム総合チャートで1位を獲得。注目度の高まる中、12月に野田洋次郎(RADWIMPS、illion)楽曲提供およびプロデュースによる新曲「フラレガイガール」をリリース。2017年3月に発表したシングル「平行線」はフジテレビ「ノイタミナ」枠のアニメ「クズの本懐」およびドラマ「クズの本懐」のエンディングテーマに使用され、大きな話題を集めた。5月に1stアルバム「ミカヅキの航海」をリリースする。
2017年5月12日更新