映画「さよなら ほやマン」特集|MOROHA・アフロが語る、主人公に重ねた別世界の自分 (3/3)

みんな“さよなら”の中を生きている

──タイトルの「さよなら」という言葉について、どう思われましたか?

タイトルは「ほやマン」だけにするか、ホヤの形状にかけた「ぼっこぼこの愛」にするか、監督たちと会議をしたんです。「ほやマン」だけだとあまりにB級映画感がすごいけど、「ぼっこぼこの愛」だと作品のテーマが埋もれちゃうんじゃないかという話になって。最終的に「ほやマン」でいくことになったんですけど、さすがにそのままだと……ということで「さよなら ほやマン」になったんです。だから取って付けた「さよなら」なんですよ。だけど人はそこに意味を見出していくんですよね。「さよならだけが人生だ」(中国・唐の詩人、于武陵の詩「勧酒」の一節。小説家の井伏鱒二が翻訳した)って言葉があるじゃないですか。そう思うと、さよならってどんな場面でも使える便利な言葉だし、この映画も全部の場面がさよならな気がするんですよね。

映画「さよなら ほやマン」場面写真 ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

映画「さよなら ほやマン」場面写真 ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

──なるほど。

アキラは「本当はクリエイティブなことをしたい」という夢を持ちながらも、弟や家を守るために島に残って漁師をしていて。夢をあきらめるときってつらいじゃないですか。友達のDJが生活が苦しくなってレコードをいよいよ売らなきゃいけなくなったときに出張買取をお願いしたんですって。で、業者の人がピンポーンってチャイムを鳴らして訪ねてきたけど、そいつは1回目では出られなかった。2回目のチャイムでようやく出たけど、DJを辞めさせるための執行人がやって来た感じがしたと言ってました。そいつもきっとレコードがなくなった部屋で一時はポカンとしたけれど、いつかアキラと同じような顔で外に踏み出していったんだろうな。そう考えると、みんな常に“さよなら”の中を生きているんだなと感じました。

──MOROHAにも、さよならを歌った曲はたくさんあります。

「拝啓、MCアフロ様」とかね。もういなくなっちゃった人、去っていった人に対しての歌は多いですね。俺、音楽を辞めたやつはすごい悔しい思いでシーンを去っていって、今も音楽を続けている自分たちの姿を見て少し複雑な気持ちを抱えたりしているのかなって勝手に想像してたんですよ。でも、実際はバンドやってた頃よりバリバリ金を稼いだり、人気の飲食店を経営したりして超キラキラしていて。「あれ? 俺が逃げ遅れただけなんじゃないか?」って。しおらしく「さよなら」を言っても俺の目の前からいなくなっただけで、また違う誰かの目の前でキラキラ笑ってると思えば、次に進むための前向きな別れだったのかもと思えるんです。

映画のプロモーション活動で得たもの

──MOROHAはUKさんが疲労によるパニック発作と診断を受けたことで、当面はライブ活動などを制限することになりましたね。UKさんの1日も早い回復と復帰を願うばかりですが、アフロさんはその分、精力的に映画のプロモーション活動を行っているという(参照:MOROHAのUK、体調不良の詳細を発表 疲労によるパニック発作)。

自分で映画のチラシをいろんなところに配りに行ってるし、たくさんの人に観てもらいたいから「出張ほやマン」という企画もやるんですよ(参照:買い物から犬の散歩まで、MOROHAアフロがあなたの要望叶える「出張ほやマン」依頼募集中)。俺はMOROHAが売れてない頃からチラシ配りをやってるんですけど、今くらいの知名度で配るのが一番効果あるんです。知らないバンドだとどんな音かもわからないし、フライヤーもらったってライブには来てくれないのよ。だから有名になる前にフライヤーを配るのはあまり効果がないんです。無駄で磨かれるものもあるからそれ自体は否定しないし、後悔はないんですけど、こと宣伝という意味で言えばチラシはやっぱちゃんと顔が売れてから配るのが一番効果的。それからネットの情報で来るお客と、チラシ配りで肉体的に出会った情報で来るお客って、ちょっと違うと思うんですね。それが半々くらいになるのが俺の理想。時代の流れ的に対面での出会いのほうに偏ってくことはないんだけど、これがネットやテレビの情報だけになったときに、何かのバランスが崩れるんじゃないかという感覚があって。それが今もフライヤーを配り続けている理由です。俺の精神衛生的にもいいし、ライブの空気作りにもいい作用があると思ってるんですけど、「ほやマン」は映画界じゃ無名中の無名バンドみたいなものだから。映画好きな人はMOROHAとか知らないし。

アフロ(MOROHA)

アフロ(MOROHA)

──「『リボルバー・リリー』の風鈴売りの人だ!」とは、ならない?(参照:やったー!MOROHAアフロ、綾瀬はるか主演映画「リボルバー・リリー」に出演

2秒しか出てないから! ワハハ! でもね、面白いのが、友達の映画プロデューサーの子が言うには、もし映画のチラシを手渡しでもらったら、その映画は絶対に観に行かない!と思うんだって。それは「そういう押し付けがましい映画は自分の好みじゃないから」という理由で。だけどその子は「だけどこのチラシは、私たちみたいなのをふるいにかけて弾いて、暑苦しいのが好きな人に出会うためのものだから絶対配り続けたほうがいいよ」と言ってくれたんです。そういう言葉って、すごく勉強になるんですよね。MOROHAも一生チラシ配りを続けていいんだと思えたし、そういうことをしながらいい音楽を作り続けたい。この映画の宣伝をしながら痛感してました。

死の描き方、驚きと違う心の動き方を

──この映画に主演したことでMOROHAの音楽に影響を及ぼしたなと感じることはありましたか?

一番変わったのはライブですかね。自分で変えたつもりないんですけど、表現力がふくよかになったとPAさんに褒められました。

アフロ(MOROHA)

アフロ(MOROHA)

アフロ(MOROHA)

アフロ(MOROHA)

──芝居という音楽とは別軸の表現を体に取り入れたことで、無意識のうちに変化が起きたのかもしれませんね。

確かに。あと今日ね、さだまさしさんと対談してきたんです。さださんのデビュー50周年記念トリビュートアルバム「みんなのさだ」に、MOROHAとして「新約『償い』」という曲で参加させてもらったご縁で(参照:さだまさし魂を継承、MOROHA書き下ろし曲「新約『償い』」先行配信決定)。「償い」は交通事故で人を轢いてしまった自分の親友が遺族の方にお金を振り込み続けて、ある日ついに遺族から許しの手紙が来るという重たい曲なんです。それを俺は、コロナ禍の緊急事態宣言明け1発目のライブをやった男の子が家にウイルスを持ち帰ってしまって、おじいちゃんが亡くなったことで音楽を辞めるんだけど、その男の子がもう一度歌を歌い始めるという曲したんです。今の時代の償いってきっとこうなんじゃないかなと思いながら。

──作品を通して人の死をいかに丁寧に描くか、という点は「ほやマン」にも共通しているように感じます。

そう。人の死って描く側に覚悟がすごく必要で。例えば、突然ここで俺が「ウワーッ!!」ってデカい声出すと、みんなビクッとするじゃない? 俺はそれぐらいの驚きを小さい声で起こしていくのが表現だと思っているんだけど、「死」というワードを吐くことは、大きい声を出してショックを与えるのと近いんです。だからこそ、そこに至るまでの経緯をちゃんと描いて、みんなの共感を呼んで、驚きとは違う種類の心の動き方をさせたくて「新訳『償い』」を作ったんです。それは庄司監督が「さよなら ほやマン」で描いた人の死に通ずるものがあると思います。

アフロ(MOROHA)

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プロフィール

アフロ

MOROHAのMC。音楽活動と並行してABCテレビ「第44回ABCお笑いグランプリ」のナレーションや、テレビ朝日系「仮面ライダージオウ」のキャラクター・仮面ライダーウォズの変身ベルトの音声を担当するなど多方面で活躍している。2023年11月に初主演映画「さよなら ほやマン」が公開された。MOROHAは2023年に結成15周年を迎え、6月に約4年ぶりとなるニューアルバム「MOROHA V」をリリースした。