鞘師里保、3年間のソロ活動を報告するフルアルバム「Symbolized」完成

鞘師里保がソロとして初のフルアルバム「Symbolized」を完成させた。

モーニング娘。卒業からおよそ5年半、海外留学を経て2021年にソロアーティストとして歩み始めた鞘師は、アイドル時代からのストイックな姿勢を貫き、地道に「ソロアーティスト鞘師里保」の世界観を作り上げてきた。1stフルアルバム「Symbolized」は、これまでリリースされてきた3作のEPから選りすぐられた6曲に、松隈ケンタ作詞作曲の「DARKSIDE」、鞘師自身が初めて作曲に挑戦した「paradise」など、新たな一面を感じさせる新曲を加えた合計11曲で構成されている。

音楽ナタリーでは鞘師のソロ始動時に2本のインタビューを掲載した。あれから3年、鞘師はどのような思いを持ってアーティスト活動に取り組んでいるのか。3年間の歩みをたどるレビューと本人へのインタビューでソロアーティスト鞘師の現在地に迫る。

取材・文・撮影(文中カット) / 臼杵成晃

ソロアーティスト鞘師里保の歩み

鞘師里保がソロアーティストとしての歩みを始めたのは2021年5月28日。彼女の23歳の誕生日だった。同年7月には自主レーベルSavo-r(セイバー)を設立し、本格的な音楽活動再開を宣言すると、さっそく8月に1stミニアルバム「DAYBREAK」を発表。全曲の作詞に携わった意欲作でソロアーティスト・鞘師里保としての道筋を提示してみせた。

鞘師里保

2011年1月2日、鞘師は東京・中野サンプラザホールで行われたハロー!プロジェクトの新年恒例コンサートの中で、モーニング娘。の新メンバーとして紹介された。第9期モーニング娘。メンバーとしてキャリアをスタートさせた彼女は、その後グループの変革期と言える時期をエースとして牽引していくことになる。お茶の間の人気者だった“黄金期”からの変化と闘い続けた2007~2011年のモーニング娘。は、2009年3月発売のアルバム「プラチナ 9 DISC」になぞらえて“プラチナ期”と呼ばれる。9・10期の加入、“黄金期”を経験したメンバーの卒業で新陳代謝が進み、歌唱とダンスで魅了するストイックな“パフォーマンス集団”へと生まれ変わりゆくモーニング娘。の“カラフル期”(2012年発売のアルバム「⑬カラフルキャラクター」にちなんだ名称)において、鞘師はグループを象徴する存在だった。すっかりモーニング娘。の顔となっていた鞘師だったが、2015年の大晦日にグループを卒業する。わずか5年の在籍期間ながら、彼女の存在は大きなインパクトを残した。

鞘師はそこからソロ始動に至るまで、約5年半という長い時間を費やした。「ゼロに近い状態に自分を持っていきたい」とグループを離れた彼女は、その後語学留学、ダンス留学で長らく日本を離れ、まさにゼロからのリスタートを切った。留学を決意した当時の心境や活動再開に至るプロセスは、復帰第1作「DAYBREAK」リリース時に音楽ナタリーでもたっぷり語ってもらったが(参照:鞘師里保1stミニアルバム「DAYBREAK」1万2000字インタビュー)、その言葉や行動からは鞘師のストイックな姿勢がうかがえる。表舞台からは完全に姿を消していたため、2019年3月に行われたハロー!プロジェクトのイベント「ひなフェス 2019」への出演が発表された際にはファンの間に激震が走った(参照:ハロプロ「ひなフェス」ゲストに辻希美、加護亜依、新垣里沙、道重さゆみ、鞘師里保)。そこから舞台出演などを経て、いよいよソロ活動を開始。2021年8月、東京・豊洲PITで1stソロライブ「RIHO SAYASHI 1st LIVE 2021 DAYBREAK」を行い、バンドとダンサーを従えたステージで5年半溜まりに溜まったエネルギーを爆発させた(参照:君にずっと会いたかった、鞘師里保がダンサー&生バンド編成で届けた涙の1stワンマンライブ)。

留学で磨きをかけたダンスパフォーマンスを軸にしたスタイルと、バンドの演奏を主体にライブならではの躍動感と歌声を聴かせるスタイル。ソロになった鞘師はその2つのスタイルを適時使い分けてライブを展開している。2023年からはBillboard Liveでのライブに挑戦し(参照:鞘師里保、ダンス封印ビルボードライブで新たな一面 ビリー・アイリッシュのカバーも披露)、通常のライブハウスやホール、アリーナ会場でのライブとは異なる独特の空間で魅せる新たなパフォーマンスを模索している。楽曲制作に本人が大きく関わっていることもグループ時代とは大きな違いで、届けたい言葉、歌い踊りたいメロディやサウンドを模索しながら、2022年には「Reflection」「UNISON」と2枚のミニアルバムを発表し、着実にオリジナル楽曲を増やしてきた。昨年後半に行われた全国ツアー「RIHO SAYASHI 3rd LIVE TOUR 2023 whynot?」では、ライブでの一体感を求めた「ラッセ!」、松隈ケンタが書き下ろしたワイルドなナンバー「DARKSIDE」、同世代のアーティスト・DURDNのSHINTAとyaccoによるプロデュースユニット・tee teaとのコラボレーションで生まれた「Hi(gh) Life」といった新曲を披露し、音楽的なバリエーションを拡張してみせた。

鞘師里保
鞘師里保

3年間の活動報告書「Symbolized」、仲野太賀が撮影したモノクロ写真

鞘師が満を持して放つ1stフルアルバム「Symbolized」は、この3年間の活動報告書のような位置付けなのだろう。既発のミニアルバムから鞘師本人がチョイスしたという6曲と、今年に入ってシングルリリースされた「Hi(gh) Life」と「alchemy」の2曲、前述のツアーで披露されながら初音源化となる「ラッセ!」「DARKSIDE」が収められている。さらに4年目の第一歩として、80KIDZが作編曲で参加した新曲「paradise」を収録。サウンドの傾向はさまざまながら、ローに特徴のある鞘師の歌声が一定のトーンを作り上げている印象だ。プロデューサーおよびディレクターとして、サカナクションや木村カエラ、近年はばってん少女隊やsorayaといったアーティストの作品で手腕を振るう杉本陽里子(ondo)が参画していることも、今作を紐解くうえで重要なキーの1つ。3枚のミニアルバム以降の楽曲を聴けば、アーティスト鞘師里保の可能性がさらに拡張されているよう感じるはずだ。なお、アルバムのために書き下ろされた新曲「paradise」では、80KIDZ、yaccoとのセッションで鞘師が初の作曲に挑戦している。

また今作には音楽面のほかにも、1つ大きなトピックがある。印象的なモノクロのアートワーク。この写真を撮影したのは、俳優の仲野太賀だ。映画やドラマ、CMなどで幅広く活躍し、2026年にはNHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」で主演を務めることも決定している仲野だが、写真家としての非凡な才能にも熱い視線が注がれている。

撮影:仲野太賀

撮影:仲野太賀

鞘師の特徴であり魅力である強い眼差しに目を奪われるモノクロ写真。アルバムジャケットの情報が解禁された際(参照:鞘師里保の1stフルアルバム完成、仲野太賀がキービジュアル撮影)、キービジュアルとともに公開された「親戚の兄ちゃんと姪っ子」みたいなフランクなツーショットとのギャップもたまらない。

左から鞘師里保、仲野太賀。(写真提供:Savo-r)

左から鞘師里保、仲野太賀。(写真提供:Savo-r)

そしてこの2枚の写真のギャップ、これこそが鞘師里保という人を端的に表した魅力的要素であり、さやしい人たち(※公式ファンクラブの名称であり、ファンの呼称)の多くはこのギャップの沼にズブズブとはまっているのだろう。バキバキのパフォーマンスの直後、「これ、どういう時間……?」と困惑してしまうMC時の独特すぎるトーク。ヒットマンのごとき鋭い眼光と赤ちゃんのように無防備な笑顔のギャップ。2022年末、3rdミニアルバム「UNISON」のリリース時に行われたライブツアー「RIHO SAYASHI 2nd LIVE TOUR 2022 UNISON」の最終公演は、バックダンサー4人を従えた鞘師の切れ味鋭いパフォーマンスに圧倒される内容だったが、舞台奥に置いた2本のステージドリンクを指して「こっちが真水で、こっちがビタミンとか栄養ドリンクっぽくしているやつです」と唐突に説明を始めた場面が忘れられない(参照:鞘師里保、充実の2ndツアー完結!歌とダンスで「UNISON」を表現)。ストイックな求道も、観客とのフランクなおしゃべりも、本人にとっては等しく「楽しいこと」なのだろう。

3年間で合計20曲。慎重に丁寧に歩を進めてきたのだと思うが、いよいよ準備は整ったのではないだろうか。

2024年8月5日更新