SAYASHI RIHO「DAYBREAK」PART1 |新たな朝日が差す場所へ

私が舞台に立つ意味

──その後は、2020年5月にInstagramのアカウント開設、7月に音楽朗読劇「黑世界 ~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~」への出演発表、9月に現事務所のジャパン・ミュージックエンターテインメントへの所属発表と続きますが、いろんなことがトントン拍子に決まっていったんでしょうか?

いえ、インスタを開設したときや舞台の出演が決まったときはフリーの状態で、今の事務所との接点はまだ全然なかったです。

──ではインスタを始めたのは、純粋にファンの方と交流したいという気持ちから?

はい。コロナ禍の自粛期間真っ只中でしたし、私も1人で暮らしていたので孤独を感じていて。とりあえず今自分にできることはなんだろうと考えて、「少しでも人とつながっている感覚になってもらえたら」という思いから始めました。多くの人が不安になっていた時期だったので、お互いに助け合えたかなと思うし、私自身もとても救われました。

鞘師里保

──そんな思いがあったんですね。そして音楽朗読劇「黑世界」では「ミュージカル『LILIUM -リリウム 少女純潔歌劇-』」(2014年)と同じく主人公リリーを演じましたが、これは末満健一さんから直々にオファーがあった?(参照:鞘師里保が“永遠の旅路”さまよう少女を熱演、末満健一と6組の作家による「黒世界」

はい。自分にとってとても大切な役だったので、断る理由がなかったです。ほかの人には渡せないと思いましたね。

──その出演があったあとに所属された事務所が、ジャパン・ミュージックエンターテインメント。篠原涼子さん、千葉雄大さん、芳根京子さんなど俳優さんが多く所属されているので、鞘師さんは演技を中心に活動されていくのかなと考えたファンも多かったと思います。

演技をしたいという気持ちもあったので、その思いは事務所に伝えつつ、同時に「私はパフォーマンスがしたいです」というお話もしっかりして、OKをいただきました。演技も音楽もどちらもちゃんとできるようにしたいという思いはブレなかったです。

──俳優としての鞘師さんも素敵ですけど、やっぱり歌やダンスをしている姿を待ち焦がれている方は多いと思います。今日このあとのインスタライブで、音楽活動の本格始動とCDのリリースを発表するそうですが……(取材は7月13日に実施)。

もうドキドキで……。ここ数日、ちゃんと眠れていないんですよ。眠りが浅いというか。こうして夢中でしゃべっているとその緊張を忘れられるので、ずっとインタビューしていてほしいくらいです(笑)。

──(笑)。ひとくちに「音楽活動再開」と言っても、1回まっさらな存在になったからには、無限の選択肢があったわけですよね。またアイドルとしてステージに立ってもいいし、楽器を手にしてシンガーソングライターになることも、ダンスパフォーマンスだけに集中することもできたと思うんですが、ご自身ではどんなアーティストになろうとイメージしていたんでしょうか?

やっぱり踊りながら歌いたいという気持ちはぼんやりとありました。長くやっていきたいから、ちゃんとダンスや歌に向き合いたいと。そして、私がやる意味をそこに持たせたかったんです。

──自分がやる意味?

今まで私がやってきたパフォーマンスは、心で伝えてきた部分が大きかったと思うんです。私の心が伴うことで初めて私のパフォーマンスになるというか、それがないなら、別に私が踊らなくてもいい。それに、自分を待っていてくださる方々がいることも理解していたので、そういう方々に自分の言葉をしっかり届けられるアーティストになりたいという気持ちがまず前提にあったように思います。

──自分の言葉を届けたいという気持ちが、作詞をするというチャレンジにつながったんですね。アーティストとして活動するうえでは、ファンの方を喜ばせたい思いと、自分の思うがままに表現をしたいという欲求と、両方あるとは思うんですが、現時点ではどちらが強いですか?

うーん……。誠意を持って新しいものを見せたい、と思っています。これまでもステージ上の自分のことを作ってきたつもりはないから、「こういう私が好きなんでしょ?」と無理に合わせるようなことはしない。自分の意思をパフォーマンスの中でしっかりと見せられたら、たとえパフォーマンスや音楽のジャンルが昔の自分と少し変わっていたりしても、ファンの方たちは受け止めてくれるだろうなと思っています。

──ファンを信頼されているんですね。

「思っていた鞘師と違う」と受け取る方もいらっしゃるかもしれないですが、私はそれを無視するんじゃなくて、私のやりたいことや思いをしっかり表現して伝えることで、自分自身を証明したいなと思っています。

直感に任せて、惹かれる方向に

──記念すべき初の音源となる1stミニアルバム「DAYBREAK」は、最初にどのような構想があったんでしょうか?

まず今年の5月にライブをすることが決まって、ライブのために曲を作ろうというところから始まりました。そのライブは延期になってしまいましたが、当初は新曲をたくさん披露する予定はなくて。ダンスをメインにしたパートや、あとから聞いた話では、ライブ当日の私の誕生日をサプライズで祝うコーナーも想定されていたようで。パフォーマンスする曲数自体はそこまで多くなく、オリジナル曲を音源化するという予定も特になかったんです。でもライブの予定が白紙になったので、だったらしっかり曲を準備して、それをリリースしようというふうに切り替わっていきました。

──ライブの延期が音源制作につながったんですね。では曲のストックがあったわけではなく、5曲とも新たに?

はい。全部音源のためにゼロから作りました。詞先の曲もあれば、トラックをいただいてそこに私が歌詞を乗せた曲もあるんですが、それぞれ作家さんと細かくやりとりさせていただいて作っていきました。

鞘師里保

──では1曲ずつ詳しく聞かせてください。7月に先行配信された「Find Me Out」では、フィロソフィーのダンスなどの楽曲で知られる作編曲家の宮野弦士さんとタッグを組んでいます(参照:鞘師里保がレーベル「Savo-r」立ち上げ音楽活動を再開、1stミニアルバムから宮野弦士提供曲を先行配信)。

この曲は私が先に歌詞を書いて、そこに曲を付けていただきました。サウンド的にはシティポップというジャンルに分類されると思うんですが、宮野さんは最初、「流行ってるからという理由でそういう曲調にするのは嫌だ」と思っていたそうなんです。けど私が書いた歌詞を見て、自然とそういう曲調になったみたいで。

──歌詞の世界観に導かれて、結果的にシティポップになったと。

はい。それってすごく素敵なことだなと思ったんです。枠を先に作るのではなく、私が伝えたいことがまずあって、それをこんなに素敵な曲に仕上げていただいたことにすごく感動しました。懐かしい感じもありつつ、新しさを感じるサウンドで、初めて聴いたときにめちゃくちゃカッコいいなと思いました。

──歌詞では都会の中で葛藤するような心情が歌われています。「大都会 東京に迷い込んで今」という歌詞を鞘師さんが書いたのか……!と。大人になられたんだなあと実感した瞬間でした。

あははは! 大人になりました(笑)。この曲に関しては、テーマは特に決めずに、かつあまり考えずに頭からさらさらと書いていったんです。そうやって書いた歌詞を、音符にきれいにハマるように調整していただいて、一緒に仕上げていった感じですね。

──ほかの4曲にも通ずることなんですが、歌詞の中で心情を率直に吐露されているような印象を受けました。実際はどこまで鞘師さんご自身を投影しているんでしょうか?

基本的には全部、自分の気持ちを書いてます。私の中にあるいろんな気持ちにフォーカスして、それぞれの物語ができていく感じですね。なので、聴いてくださる方には、「この曲だけが私の気持ちのすべてというわけではないですよ」と伝えたいです(笑)。

──人間いろいろな気持ちがあって当然ですもんね。鞘師さんにも都会に身を任せたくなる瞬間があったんでしょうか?

自分のこれまでの人生とも重なる歌詞だと思うんですが……私はいろんな方向から物事を考えすぎちゃうんですね。「自分はこうしたいけど、あの人はどう思うだろう?」「親は? ファンの方々はどう思う?」とか。でもそんなこと考えてもしゃあないなと思うときもあって。「直感に任せて、よさそうなほうに行ってみよう」というモードのときの気持ちを、東京の人ごみに例えて書いてみました。

──間奏に入っている車のエンジン音も印象的ですね。都会的な印象を強調しているというか。

歌詞から想像して宮野さんが入れてくださいました。私はこの曲に、夜の高速道路を走っているようなイメージを持っているんですけど、そういうところから入れてくれたんじゃないかなと。

こんなに正直で大丈夫かな

──2、3曲目はAkira SunsetさんとAPAZZIさん作曲によるダンスナンバーが続きます。聴いていると自然に、鞘師さんのガッツリ踊る姿が脳内に浮かんできてしびれてしまいました。「Find Me Out」の次に先行配信された「BUTAI」は、そのタイトル通り、ステージに立つことへの覚悟と醍醐味が歌われた曲ですね(参照:鞘師里保が1stミニアルバムより「BUTAI」先行配信、ステージを愛しているからこその葛藤を歌う)。

「BUTAI」はけっこう早くから考えていた曲で、5月にライブをする予定だったときには作っていました。再スタートしてステージに立つ気持ちを曲にしてみたいなと。曲を先にいただいた時点で詞も軽く乗せてもらっていたんですが、そこから相談しながら自分の言葉に変えさせていただいた感じです。

──舞台に立っている鞘師さんはすごく堂々としていてスターの風格があるので、歌詞で「I hate me」と言いたくなるほど緊張したり、逃げ出したくなるときがあったりするのかという驚きがありました。

グループで活動していたときは、武道館やテレビの音楽番組などのここぞという大舞台ではアガってしまうタイプだったので、そういう自分に嫌気がさしていました。ライブツアーとかだと、緊張より楽しみが勝つことが多かったんですけど。

鞘師里保

──ブリッジの部分は、バキバキのダンスブレイクを期待してしまいます。

はい。この曲はもうガッツリ踊ります。振りはニューヨークに留学していたときにお世話になった先生に付けていただいたんです。メールでベースとなる振り付けを送っていただいて、そこに私のこだわりを少しずつ入れていって。歌とダンスを両立させるためにどうしようか、今まさに考えているところなんですが、最終的には自分としてもしっくりくるダンスに仕上がると思いますし、皆さんにもいいものをお見せできると思います。

──3曲目の「Simply Me」はホーンやパーカッションが入っていて、トライバルなムードも漂うダンスナンバーです。

この曲に関してはまずダンスをしっかり踊りたいという気持ちが中心にありつつ、ライブでお客さんが一緒にノッてくれる曲にしたいなと思って、サウンドを作っていただきました。

──確かにフロアとステージが一体になれそうな曲ですね。歌声も太くて力強く、「Keep on, on and on and on and…」と繰り返す部分はフロアを煽るようなムードが漂っていてカッコよかったです。

あのフレーズはもともと仮歌に入っていたものなんですが、すごくしっくりきたのでそのまま使わせていただいたんです。いいポイントになっていますよね。ダンスはみんなが真似できるような踊りやすいものをと考えていたんですが、当初の想定よりも激しくなりました。同じくニューヨークの先生の振り付けなんですけど、こういう曲調から想像するダンスとはちょっと違うというか、斜めからくるような発想で振りを作っていただいて。曲の存在感をより引き立ててくれるようなダンスになったと思います。

──ステージで披露される日が楽しみです。ちなみにこの曲でも「That'me まだ不完全」と、懊悩するような気持ちが歌われていますが……。

そういう歌詞が多いんですよね……。自分でも書いてみて気付きました。自問自答しがちというか(笑)。自分に対する問いかけや理解を深めていきたいんだろうなと。

──鞘師さんはSNSなどでネガティブなことは言わずに、明るく発信されているイメージしかなくて。なのに、詞の世界では葛藤したり思い悩んでいるというコントラストが興味深いなと感じました。

確かにそうですね。最初のうちは「こんなに正直に書いて大丈夫なのかな」と思ってしまって、書いた詞をマネージャーさんに見せるのも緊張していました。「こんなこと考えてるんだ。へー」って思われるのかなと、すごく恥ずかしかったんですよね。何度もメールの送信を取り消したりしました(笑)。

──(笑)。自分の心の中を見せるようなものですもんね。そうやって作り上げた歌詞を歌うことで自分の内面を表現するというのは、どういう感覚ですか?

まだ「これだ!」と完全につかんだわけではないんですけど、もともと自分のことをさらけ出すのが苦手なタイプなので、表現して自分の感情を消化するってこういうことなのかと、手応えを少しずつ得られてきたような感覚はありますね。


2021年8月20日更新