SawanoHiroyuki[nZk]始動10周年──強い芯を胸に、さらなる未来を追い求めて (2/2)

今までで最高に自分自身が楽しめたライブ

──JO1の河野純喜さんと與那城奨さん、TOMORROW X TOGETHERといったダンスボーカルグループとのコラボも印象的ですけど、そのあたりは澤野さんとしてどんな刺激がありましたか?

彼らはしっかりした音楽性を持っていることはもちろんですけど、同時に“見せるエンタテインメント”をやっている方たちなので、その点での刺激は本当に大きかったですね。特に河野さん、與那城さんとはミュージックビデオでも共演させていただいて、目の前でパフォーマンスする姿を見れたことが本当にいい経験になりました。僕は常々、音楽においても視覚ってすごく大事だと思っているんですよ。アニメやドラマもそうですけど、動いている映像との相乗効果で音楽をよりよく感じてもらえるところがあるなと。そういう意味においても、ダンスパフォーマンスという視覚的な表現があるからこそ、音楽に大きな魅力が付加されているんだなと改めて感じさせてもらえましたね。

──[nZk]は初期からライブを積極的に行っていますが、そこにも視覚的な部分を含めて音楽を楽しんでほしいという思いが影響しているんですかね?

そうですね。基本的にはASKAさんのように、自分が追っかけて影響を受けたアーティストはライブを大事にされていて、生で同じ場を共有することで感動させてもらってきた経験が今の自分の活動につながっているところがあるんです。でもやっぱり視覚的な部分を通して[nZk]をもっと好きになってもらいたいという思いは強くあります。

──今回のベストの初回生産限定盤には、今年6月2日に東京・NHKホールで行われたライブの模様を収録したBlu-rayも付いてきますからね。そういったライブの魅力も感じてもらえたらいいですね。

あの日のライブは、自分としてもすごく思い入れの強い、大事なものになったんですよ。ASKAさんが参加してくれたことももちろん大きかったですけど、個人的に今までで最高に自分自身が楽しめたライブだった。[nZk]のライブって、ボーカルがけっこう入れ替わるので自分で進行を回さなきゃいけないし、演奏もしなきゃいけないので、いろんな方向に意識を向けなきゃいけなくって。だから毎回、あっという間に終わってしまう感覚が強いけど、あの日は終始、「楽しいぞ!」という気持ちを噛み締めることができていて。だから映像としても残しておきたかったんです。

澤野弘之

──また、DISC 1にはAwichさんとのコラボ曲「Twin Fates」も収録されています。これは昨年、マジック:ザ・ギャザリング「エルドレインの森」アニメーショントレーラー起用楽曲として書き下ろされたもので。Awichさんと澤野さんのコラボはなかなか意外性がありましたよね。

僕もお話をいただいたときはちょっと意外に感じました(笑)。でもゲームにまつわる曲という意味では納得がいったし、ラップを武器とするAwichさんに対して、メロディを歌ってもらうパートを多く盛り込んだ曲を作れたという意味においても、すごく意義のあるコラボになったんじゃないかなと思いますね。実際にお会いしたのはミックスチェックのときだけだったんですけど、すごく気さくな方なんですよ。本当にフラットにお話してくださる方でした。そういうギャップにも惹かれましたね。普段は気さくだけど、アーティストとしてはしっかりご自身なりのイメージを作られているのが本当にすごいなと。だからこそ多くの人たちにリスペクトされているんだろうなって。歌に関してもめちゃくちゃカッコいいですよね。今回、やっと音源化できて僕もうれしいです。

みんなで面白いものを作ろうという感覚で曲に向き合えた

──一方のDISC 2は、澤野さんの音楽的な幅を感じさせてくれる曲がたっぷり収録されています。例えば7曲目の「i-mage」とか12曲目の「LEMONADE」なんかは、壮大であったり、重厚でクールであったりという澤野さんのパブリックイメージを翻す斬新さを改めて感じさせるものですよね。

タイアップがある曲の場合、例えばアニメのエンディングなら壮大なバラードになったり、オープニングであれば勇ましい戦いの雰囲気を感じさせる曲になったりすることが多いんですよ。でもタイアップのない曲は、その時々の海外からの影響を素直に出せているものが多くなる。DISC 2にはアルバム曲を中心に入れたので、そういう部分がより見えているのかなと思いますね。自分としてもそういった表情を気に入っていたりもするので、そこに引っかかってくれたらうれしいです。ちなみに「i-mage」の原曲は20代前半の頃に作っていたんですよ。CHAGE and ASKAさんの「太陽と埃の中で」のような曲を作りたくて。もちろん収録されているものは時を経て、[nZk]用にアレンジしたものではありますけど、その片鱗は残ってますよね。最後にコーラスが入ってくるところなんかも、ASKAさんからの影響が大きいです。

──そんなDISC 2の中で特に思い入れの強い曲はありますか?

なんだろうなあ。ちょっと時期的には早いんですけど、「Christmas Scene」は思い入れが強いかもしれないですね。

──クリスマスを愛する澤野さんらしいですね(笑)。

あははは。もちろん僕がクリスマス好きだから思い入れがあるっていうのもその通りなんですけど、もう1つ理由があって。この曲はそもそも[nZk]のリリースのために作ったわけではなかったんですよ。単純に自分発信で作り始めた、いわば自主制作みたいなものだった。だから参加してくれたミュージシャンもギャラとか関係なく、「澤野くんがやりたいなら俺もやるよ」みたいな形で協力してくれて。リリースがどうこうの前に、みんなで面白いものを作ろうという感覚で曲に向き合えたことで、ちょっと若い頃のことを思い出すこともできたんです。しかも、それがクリスマスの曲だったし(笑)。そういう意味ですごく思い入れが強いんですよね。

澤野弘之

「お前、まだそんなところにいるのかよ」と思っちゃう部分もある

──DISC 2のラストにはSennaRinさんをボーカルに迎えた「B-Cuz」も収録されています。

はい。[nZk]として最初にリリースした「UnChild」というAimerさんとのコラボアルバムがあって。その中の「Because we are tiny in this world」という曲が僕的に気に入っていたからベストにも収録しようと思ったんですけど、SennaRinに参加してもらい、新たなバージョンにすることにしたんです。意外にも[nZk]の楽曲としてSennaRinをフィーチャーしたことがなかったので、今回はボーカルと作詞をお願いしました。

──プロデューサーとしてではなくコラボ相手としてSennaRinさんと関わってみて、何か違いはありましたか?

ああ、どうだろうなあ。そこまで違いはないと思いますけど、プロデュースするときはSennaRinとしての音楽性はしっかり考えているんですよ。これからの彼女とはダークでカッコいいものを突き詰めていきたいと思っていて。でも今回の「B-Cuz」は、言っちゃえばちょっと明るい雰囲気がある曲なので、彼女名義の作品ではあまり作らないタイプだなとは思いました。そういう違いはあったかもしれないです。

──Rinさんによる、ちょっと希望が見える歌詞も素敵ですよね。

彼女の歌詞は面白いですよね。自分にはない表現の仕方をしてくるので、自分で書くよりも全然いいよなと思っちゃいますよね。歌はもちろん、ライブのパフォーマンスにおいても常に進化を感じさせてもらっているので、本当に頼もしいですね。

──大充実のベストアルバムで10年という節目を祝った[nZk]のこれからについてはどんなビジョンを描いていますか?

スタートした当初よりも格段に恵まれた状況で活動できていることが本当にありがたいなとは思いますよね。ただ同時に、「お前、まだそんなところにいるのかよ」と思っちゃう部分もあったりするんです。そういう意味では、まだまだこれからという気持ちが大きいかもしれない。満足できていないからこそ、また次を追い求められるというか。どうやれば自分の理想としているところにたどり着けるのか。その答えを見つけるためには、ここからも常に挑戦していかなきゃなと思います。

──ちなみに劇伴作家としてのキャリアは来年、20周年を迎えますよね。

そうなんですよ! 劇伴のほうでも20年という節目にまた何か形にできたらいいなと。ただ、「あいつ毎年、周年やってるよね」みたいな感じで受け取られないかなとちょっと心配。「記念ごと大好き人間」みたいな見え方をしなきゃいいなとは思ってます(笑)。

澤野弘之

公演情報

SawanoHiroyuki[nZk] 10th Anniversary LIVE “A=Z”

2025年5月31日(土)神奈川県 パシフィコ横浜 国立大ホール
<出演者>
澤野弘之
ゲストボーカル:XAI / SennaRin / mizuki / Laco / and more

プロフィール

澤野弘之(サワノヒロユキ)

作曲家。ドラマ「医龍」シリーズやNHK連続テレビ小説「まれ」、アニメ「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲など精力的に音楽活動を展開している。2014年春にはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]を始動。2020年4月に作家活動15周年を記念したベスト盤「BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2」をリリース。2021年3月に岡崎体育、優里、アイナ・ジ・エンドらをボーカリストに迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の4thアルバム「iv」、12月にキャリア初のピアノソロアルバム「scene」をリリース。2023年1月にASKA、suis(ヨルシカ)らをボーカリストとして迎えた5thアルバム「V」をリリースした。2024年6月に東京・NHKホールで単独公演「澤野弘之 LIVE [nZk]008」を開催。SawanoHiroyuki[nZk]の始動10周年を記念して、10月にベストアルバム「bLACKbLUE」を発表した。