SawanoHiroyuki[nZk]始動10周年──強い芯を胸に、さらなる未来を追い求めて

SawanoHiroyuki[nZk]の始動10周年を記念して、ベストアルバム「bLACKbLUE」がリリースされた。

2枚組のベストアルバムにはASKA、Aimer、岡野昭仁(ポルノグラフィティ)、suis(from ヨルシカ)、TOMORROW X TOGETHER、JO1の河野純喜と與那城奨といったボーカリストを迎えてリリースされた楽曲に加え、Awichとのコラボ曲「Twin Fates」、自身がプロデュースを手がけるSennaRinをボーカルに迎えた楽曲「B-Cuz」など全38曲を収録。これまでさまざまなアーティストと手を取り合い、化学反応を起こしてきたSawanoHiroyuki[nZk]の10年をたどることができる内容となっている。

音楽ナタリーでは澤野弘之にインタビューを行い、この10年の軌跡、そして思い入れ深い楽曲について話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき撮影 / YURIE PEPE

コラボをやってみたことが、[nZk]の活動を大きく広げてくれた

──2014年にスタートしたボーカル楽曲特化型のプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]が今年で10周年を迎えました。

早いですよね。あっという間に10年経ったなという感じがしています。このプロジェクトを始めた当初は毎回、「次の作品を出せるのかな?」と思いながら活動していたし、「10年後も活動できているのかな?」「できていたらいいな」くらいの感覚だったんですよ。それがあれよあれよと時間が経つ中で、このプロジェクトだからこそ活動の幅を広げられた部分もすごくあったし、[nZk]のあり方自体も少しずつ変わっていったような気もしていて。本当にいろいろな経験をさせてもらえた10年でしたね。

──今や澤野さんの活動は、劇伴作家と[nZk]が大きな2本柱になっていることは間違いないと思うんですけど、今おっしゃった[nZk]のあり方の変化というのはどんな部分なんでしょうね?

そもそも僕が[nZk]を始めたタイミングって、劇伴作家として10年くらい活動した時期だったんですよ。そういう意味では、自分の音楽スタイルというか、作りたいものがある程度固まったうえでスタートしたプロジェクトなんです。だから普通のアーティストがデビューするときのように、「ここから大きなヒット出して売れるんだ!」みたいな気持ちはそこまで大きくはなかった。とは言え、心の中ではヒットを出したい気持ちはもちろんあったわけで。それはレコード会社的にもそうでしょうし(笑)。でも、この10年を振り返ると、自分のやりたいことを貫き通してやっていく中で、今はそこまでヒットに囚われるのではなく、僕の音楽を求めてくださるアニメ作品と、作りたいものを作るという自分の思いがいい形で重なり合って、お互いに満足できることがこのプロジェクトのよさなんじゃないかと思うようになったところはあります。負け惜しみを言っているように受け取られちゃいそうですけど(笑)。

澤野弘之

──何をもってしてヒットと呼ぶかが難しい時代ではありますけど、この10年で確実に[nZk]という存在は、リスナーはもちろん、さまざまなアーティストにまで認知され、シーンに浸透したと思いますけどね。

そうだったらありがたいですね。でも確かに、今のようにいろんなアーティストの方とコラボできる機会が増えたという部分に関しては、プロジェクトをスタートしたときにはまったくイメージできていなかったんですよ。スタッフからの提案でコラボをやってみたことが、[nZk]の活動を大きく広げてくれたのは間違いないです。それがなければ、今ほど僕の活動に興味を持ってくれるアーティストの方は少なかったでしょうし、もっと言えば僕が尊敬しているASKAさんとのコラボにも至らなかったかもしれないわけですから。そこは続けてきた甲斐があったなと思うところだし、すごく重要なことでした。

──さまざまなアーティストに興味を持ってもらえるようになった理由って、ご自身ではどこにあると感じていますか?

自画自賛するわけではないですけど(笑)、自分の作りたいものをブレずに作り続けてきたからじゃないかなとは思いますね。例えば僕はアニメ作品に曲を書くことが多いですけど、そこでアニメの曲なんだからアニソンっぽいものに寄せた音楽を作ろうとか、そういったことをしていたとしたら、[nZk]の音楽性はもっとわかりづらいものになってしまったと思うんです。でも僕の場合は、自分なりの芯、軸みたいなところを大事に作り続けていきたい思いがあったので、そこに共感してくださるアーティストの方がコラボを引き受けてくださるようになったのかもしれないなって。もちろん、関わってこれた作品の影響力なども多分にあったと思います。そんな中でも自分の根幹となる音楽性に興味を持ってもらえていることこそが、このプロジェクトを続けている意味でもあると思います。

──揺るぎない軸となる音楽性はありつつも、楽曲ごとに毎回、違ったアプローチで楽しませてくれるのも[nZk]の大きな魅力で。そのあたりは時々のご自身のモードが反映しているところもあるのでしょうか。

自分の芯となる部分というのは基本的に、海外のサウンドを自分なりに取り入れて発信していくということで。その気持ちは最初から変わってはいないんですけど、当初は海外の音楽の中でもちょっとロック寄りの部分に意識を持っていたから、ロックサウンドを中心にやっていたところがありました。でも今はエレクトロ / EDM的なサウンドに興味があるので、そのへんを取り入れたりしているという。そういったサウンド面での変化は多少あったりはすると思います。

自分なりの芯のある音楽をしっかり作っていくことが重要

──これまでのお話を聞いていても明白ですが、[nZk]の活動において3枚目のアルバム「R∃/MEMBER」の存在は外せないですよね。ここから多彩なアーティストとのコラボが始まったという意味ではすごく大きなターニングポイントだった気がします。

そうですね。あれをやるかやらないかで、その後の[nZk]の流れは違っていたでしょうね。その前のアルバム「2V-ALK」が自分の中ですごく納得のいくものが作れたという自負があったんですよ。だからこそコラボというコンセプトを持ったアルバムを作ることにも前向きになれたところはありました。「R∃/MEMBER」の中では、もちろんどの方とのやりとりに関しても思い出があるんですけど、特に岡野(昭仁 / ポルノグラフィティ)さんに参加していただけたのが自分としてはすごく大きなことで。言ったら岡野さんって、それまでの活動の中で一番接点がない方だったんです。にもかかわらず、オファーをしたときに快く引き受けてくださった。そのことがあったからこそ、つながりがなくても自分が興味がある方にはお声がけしてもいいのかもしれないという思考になれたところがあって。最初は1つの企画として始まったコラボでしたけど、それ以降はナチュラルな形でコラボに向き合えるようになったところもありましたね。

澤野弘之

──コラボって、その相手によって話題性が上がるし、言葉は悪いですけど飛び道具的な見られ方をしてしまう場合もあるじゃないですか。でも[nZk]の場合は、コラボ相手のネームバリューに頼ることなく、ご自身の音楽性を貫くことで面白い化学反応を生んでいますよね。同時に、mizukiさんやTielleさんといった初期から参加されているボーカリストとも変わることなく楽曲を生み出していて。そのバランスも素晴らしいと思います。

なんでもかんでもコラボにつなげようという気持ちはそもそもなかったですけど、そこは確かに自分の中でバランスを取っていくのが重要かなとは思っていましたね。mizukiさんをはじめとする信頼できる方々との制作も大事にしていきたい気持ちも強かったですし。4枚目の「iv」と5枚目の「V」は、そのバランスが自分としてはうまく取れたアルバムになった気がしています。僕の楽曲の場合、アニメ作品の影響からかサブスクで海外の方に興味を持っていただくことも多いんですよ。で、ちょっと言い方は悪いですけど、海外の方は基本的にコラボ相手が誰かということをそこまで気にされていないんですよね。基本的にはアニメ作品と音楽の親和性などに興味があるというか。そういう意味ではやっぱりコラボに頼りすぎることなく、自分なりの芯のある音楽をしっかり作っていくことが重要なんだろうなって、改めて思ったりはしますよね。

この10年間で自分にとって重要だと思える曲

──そんな[nZk]の10年分のキャリアを総括する今回のベストアルバムがリリースされます。実はベストとしては2度目になるんですよね?

そうなんですよ。2020年に「BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2」というシングルベスト的なアルバムをリリースしたことがあったので、今回はそこで省いてしまっていた曲をできるだけ収録して、違う形のベストになるようには意識しましたね。数曲被っている曲はありますけど、基本的にはそれ以外の、この10年間で自分にとって重要だと思える曲を選んでいきました。

──2枚組で全38曲の大ボリュームとなっていますが、ディスクごとにコンセプトがありそうですね。

DISC 1は振り切って、アーティストの方とのコラボ曲をメインにした内容にしました。そういう並べ方をしたほうが、手に取る方にもわかりやすいかなと思って。DISC 2に関しては、先ほどもお話したこれまで音源やライブで一緒にやってきた方々との曲をまとめました。特に自分の中で思い入れがある曲、重要になった曲を中心に選んだ感じですね。

──それぞれのディスクで特に思い出深い曲はありますか?

まずDISC 1で言うと、これはもう再三しゃべってきましたけど(笑)、やっぱりASKAさんとコラボした1曲目「地球という名の都」ですね。いろんなコラボをやらせていただいてきた中で、やっと自分が音楽的に影響を受けた方とご一緒できたという意味では本当に思い出深い曲です。あともう1曲挙げるとするならば、岡野さんとやった「EVERCHiLD」。岡野さんに参加してもらったこと自体も大きいことですけど、この曲ができたときに「これだ!」と個人的に強く思えたんですよ。サウンドとメロディ、歌詞も含めて、すごく納得いくものにできて、この曲は[nZk]にとって大事な曲になっていくだろうなと思えた。そういう思いから今回のベストでも冒頭に収録したんです。