澤野弘之のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]によるニューシングル「narrative / NOISEofRAIN」が11月28日にリリースされた。
同作は[nZk]プロジェクト初参加となるLiSAをボーカリストに迎えた「narrative」と、西川貴教をボーカリストに迎えた「NOISEofRAIN」を両A面に据えた強力な1作。LiSAが参加する「narrative」はアニメ映画「機動戦士ガンダムNT」の主題歌として、音楽ファンのみならずガンダムファンにも注目されているナンバーだ(参照:澤野弘之[nZk]×LiSA初タッグで「機動戦士ガンダムNT」主題歌)。
音楽ナタリーでは澤野とLiSAの対談を企画し、お互いの音楽性、「narrative」のレコーディング時のエピソード、そして2019年3月に開催される[nZk]のワンマンライブ「SawanoHiroyuki[nZk] LIVE "R∃/MEMBER"」に向けての思いを語ってもらった。なお音楽ナタリーでは先日、西川と澤野の対談も実施した(参照:西川貴教×澤野弘之対談)。今回の記事と併せてぜひチェックしてみてほしい。
取材・文 / 須藤輝
※本文中「機動戦士ガンダムNT」「ガンダムNT」の正式表記は、カギカッコが二重カギカッコ、NTが全角表記。
いつか曲をお願いしたいなってずーっと思ってました(LiSA)
──お二人はコラボが決まる前まで、お互いにどのような印象を持たれていました?
LiSA 私はAimerちゃんとライブでご一緒する機会が多いんですけど、そこでAimerちゃんが「StarRingChild」をけっこう歌っていて、すごくいい曲だなって。で、もともとAimerちゃんを知ったきっかけも澤野さんが手がけた「StarRingChild」だったので、澤野さんが今のAimerちゃんの世界観を作った先人の1人だとずっと思ってるんですね。そこから澤野さんのライブを拝見したりして「あ、激しい」って(笑)。
澤野弘之 ははは(笑)。
LiSA かつ、いろんなタイプの曲を作られる方なんだなと。しかも、作品でもライブでもいろんなボーカリストの方たちとコラボレーションされるんですけど、皆さんが澤野さんの世界観をもっともっと大きくしていくライブになっていて、すごいなあと。私自身も、いつか曲をお願いしたいなとずーっと思ってました。
澤野 僕も、たしか[nZk]プロジェクトが始まるちょい前に、Aimerさんから「LiSAさんとお会いしました」と伺って。そこでAimerさんが「澤野さんの曲をLiSAさんが歌ったら絶対に面白いと思うんですよね」とおっしゃってたので、「それ気になりますね。いつか実現したらいいですね」みたいなことを漠然と話してたことがあるんですよ。やっぱりLiSAさんはライブにしても音源にしてもアグレッシブで、非常に魅力的なボーカリストだと思っていたので、今回ご一緒できたのはありがたいなと。
LiSA 澤野さんとご一緒させていただくことが決まっとき、Aimerちゃんに真っ先に報告したんですよ。Aimerちゃんはすでに澤野さんと音楽を作ってる先輩だから。そしたら「私もLiSAさんと澤野さんは合うと思うってずっと言ってたんです」と言ってくれて。そのとき「じゃあ、Aimerちゃんがつないでくれたんだな」と思いました。
澤野 Aimerさんプロデュースですね(笑)。
──コラボが実現したとき、LiSAさんはどんなことを思いました?
LiSA 「どんな曲が来るのかなあ」って、楽しみでしたね。さっきも言ったように澤野さんはいろんなタイプの楽曲を書かれるので、どのタイプでくるのかなと。個人的には、私はやっぱり澤野さんの曲の持つ切ないメロディが特に印象に残っているので、「Evanescenceみたいな感じかなあ?」とかいろんな楽曲を想像してました。
澤野 「narrative」っていう曲自体はLiSAさんにお願いする前の段階からできてたんですよ。僕自身は、「ガンダムUC」の音楽を担当したときに、主題歌はそれこそAimerさんに歌っていただいた「RE:I AM」や「StarRingChild」のような、壮大なロックバラードをイメージして作ってたところがあって。今回の「ガンダムNT」も、新作ではあるんですけど「UC」とつながりがあるので、主題歌は同じテーマで作ったんです。ただ、やっぱりAimerさんとLiSAさんではボーカリストとしての声質もアプローチも異なるじゃないですか。だからLiSAさんが歌ったら、きっとAimerさんとは違う広がりを見せてくれるんだろうなって、楽しみでしたね。
素直にLiSAさんから出てくるものにワクワクしてた(澤野)
──澤野さんは、LiSAさんとAimerさんのボーカリストとしての違いを言葉にできます?
澤野 抽象的になっちゃうかもしれないんですけど、LiSAさんは、もちろん楽曲によってですけど、特にサビにおける強さという点で、すごくエッジーな……「エッチ」じゃないですよ。
LiSA ふふ(笑)。
澤野 すいません、そういうのいらないですね(笑)。だから、LiSAさんは声にエッジがあるイメージがあって、一方でAimerさんはやっぱハスキーな声が魅力だったりして、尖っているって言うよりは、楽曲全体を物語ってるようなイメージが強いと言うか。
LiSA 自分の話になっちゃうんですけど、私が得意としていることって、今、澤野さんがおっしゃった通り、どちらかと言うと鋭さだったりスピードを感じさせると言うか、速いボールを投げるみたいなことだと思ってるんです。でも本来は、それこそAimerちゃんみたいに歌いたかったんですよね。ああいう、儚さを感じさせるタイプのボーカルにすごく憧れていて。だから自分の声を枯らしたくて、実際、むりやり枯らそうとした時期もあったんです。
澤野 ええー。
LiSA そうやって憧れていた分、私はそこでは勝負できないとずっと思ってて。でも、私も8年活動してきて、今回このタイミングで澤野さんとご一緒させていただけることになったので、Aimerちゃんのような儚さとはまた違う、LiSAが表現できる儚さっていうものを……その、私の場合、鋭すぎて壊れそうみたいな(笑)。
澤野 ははは(笑)。
LiSA うまく言葉にできないんですけど、そうやって「narrative」にはLiSAの持つ儚さっていうものを込められたらいいなって思ったんです。だから楽曲を何回も何回も聴いて、自分の中で歌い方をいっぱい探って、試行錯誤を重ねていきましたね。
澤野 僕も「narrative」のレコーディングに立ち会わせていただいたんですけど、楽曲に対してLiSAさんなりにいろんなことを考えてくださってて。普段の[nZk]のレコーディングでは、もちろんそのボーカリストのアプローチを楽しみたいっていう気持ちもあるんですけど、自分の中で「こういうふうに歌ってほしい」っていうイメージはわりと明確にあって、そこは伝えてるんです。でも今回は、素直にLiSAさんから出てくるものにワクワクしてましたね。
LiSA レコーディングのとき、いくつかパターンを試しましたよね?
澤野 試しましたね。
LiSA そのアプローチと言うか、どんな歌い方や声の出し方がこの曲にふさわしいかを、やっぱり澤野さんにも聴いてほしくて。
澤野 中でも「体が大きくなった人の気持ちになって歌います」ってLiSAさんがすごい言ってたのが面白くて(笑)。
LiSA 大柄な人から出てくる声をイメージして(笑)。自分の声を楽器に見立てて「澤野さんの世界にきちんと寄り添えるような楽器はどれかな?」って、ギターを選ぶみたいにして、相談させてもらいました。結局、大きい人のテイクが採用されたんでしたっけ?
澤野 そうですね(笑)。だから僕はディレクションなんか全然してなくて。そうやって現場でいろいろトライしていただいたのがこちらとしても刺激的で、勉強にもなりました。
──澤野さんは[nZk]プロジェクトに迎えたボーカリストには普段とは違うとアプローチをしてもらうと以前おっしゃっていましたけど、今回はある種、LiSAさんにお任せだった?
澤野 僕は[nZk]で歌ってもらっている方たちにも、あえて普段と違うことをやってもらおうと思ってるわけではなくて。どっちかって言うと僕が作る曲の曲調が、その方たちが普段歌ってる曲とは違うので、自ずと歌い方も変わっていくって言ったほうが正しいんです。だから、もしLiSAさんのファンが「narrative」を聴いて普段のLiSAさんと違うと感じたら、それは別に僕が引き出したわけじゃなくて、LiSAさんご自身が僕の曲に対するアプローチを考えてくださった結果なんだと思います。
澤野さんがこんなにポップな人だとは思わなくて(LiSA)
──LiSAさんは、「narrative」の歌詞はどう解釈されました?
LiSA 「narrative」をいただいたのは、ちょうど私が「ADAMAS」(10月に配信リリースされた、テレビアニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション」オープニングテーマ)を作ったあとだったんですね。その「ADAMAS」の歌詞で私は、何者にも影響されない意志の強さみたいなものを書いてるんですけど、「narrative」の歌詞にもそれをすごく感じていて。だから、自分が嘘を歌わなくていいと言うか、自分の気持ちとしてもすごく芯の通った歌としてきちんと歌えると思いました。特に私はDメロの「わがままな希望 幼い顔で笑う」から始まるフレーズが大好きで、私にはこの儚さは書けない……そう、もともと私は儚さっていうものを文章で表現するのがとても苦手なんですけど、澤野さんは儚さを描きながら、そこにちゃんと希望も感じさせてくれるんです。だからすごく感情が入れやすくて。
澤野 ありがとうございます。いや、いつもわけわかんない歌詞を書いてるって自覚があるので、そう言っていただけると。
LiSA いやいやそんな。
──歌詞について澤野さんは「言葉の意味よりも響きを重視する」とおっしゃっていますよね。
澤野 人に聴いてもらう段階では、ですね。僕自身は作詞をするとき、やっぱり自分の言いたいことを書いちゃうんですよ。でも、それを歌ってもらう方たちや、聴いてもらう方たちに押し付ける気はあんまりなくて。それは僕がどっちかって言うと作曲者という立場に寄っているからで、パッと聴いた瞬間に響きとして「カッコいいな」とか「心に残るな」って感じていただけたらいいなって。ただ、詞自体にはやっぱりなんだかんだで自分なりの意味合いを込めちゃうんですけど、どの曲においてもほぼ同じことを書いてると言うか、言葉の選び方を変えてるだけで言いたいことはまったく変わってなかったりします。
LiSA 澤野さんの歌詞は、文章じゃないのがすごく好きで、だから歌ってて気持ちいいんだと思います。その歌詞に表れている、自分の過去も何もかも全部背負っていく覚悟みたいなものが、あの、誤解されたら嫌なんですけど、澤野さんのアーティストイメージそのまんま(笑)。
澤野 ああ、このアー写の、このスカしてる感じ?(笑)
LiSA そう。私はこのアー写と音楽しか知らなかったから、澤野さんがこんなにポップな人だとは思わなくて。
澤野 「ポップ」って優しい言い方をしていただいてますけど、ただの落ち着きのないオヤジですいません。
LiSA いえいえ。だからすごく話しやすいですし、その、心を許せたっていう(笑)。
澤野 お会いした方皆さんにがっかりされるんですよね。「こいつ、すっげえしゃべるな」って。でも、僕はたまに思うんですけど、このアー写のイメージって、カッコつけてるところもあるんですけど、今LiSAさんが言ったような、詞に書いてあることと共通すると言うか、なんだかんだでそういう自分もいるのかなと。よく「澤野は写真だけで見ると怖い」とかって言われたりするんですけど、もしかしたらその怖さに通じるような厳しい一面があるのかもしれないし。だからそういうのが詞の部分でわかりやすく漏れ出てきちゃってるのかなって、僕も今思いました。
LiSA そうだと思います。澤野さんにとって一番大事なことは歌詞に書いてあるけど、でもこういう話って、普通は大事な人にしかしなくないですか?(笑)
澤野 はっはっは(笑)。
LiSA 初めて会った人に「俺にはこういう過去があって、それを全部乗り越えてきて今ここにいるんだよ」とか言われたら「めんどくさ!」ってなりそうじゃないですか。でも、むしろそういう状態で接してくださるからこそ、澤野さんがこんなにポップなんだろうなってすごく思ってます。
澤野 ありがとうございます(笑)。
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自分のサウンドに新味を与えてくれるのはボーカリスト(澤野)
- SawanoHiroyuki[nZk]「narrative / NOISEofRAIN」
- 2018年11月28日発売 / SACRA MUSIC
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初回限定盤 [CD+DVD]
1620円 / VVCL-1360~1 -
通常盤 [CD]
1350円 / VVCL-1362 -
期間生産限定盤 [CD]
1620円 / VVCL-1363
- CD収録曲
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- narrative by SawanoHiroyuki[nZk]:LiSA
- NOISEofRAIN by SawanoHiroyuki[nZk]:Takanori Nishikawa
- Christmas Scene by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki & Tielle
- Cage <NTv> by SawanoHiroyuki[nZk]:Tielle
- narrative(instrumental)(※初回限定盤のみ収録)
- NOISEofRAIN(instrumental)(※初回限定盤のみ収録)
- 初回限定盤DVD収録内容
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- 「narrative」MUSIC VIDEO
- 「Christmas Scene」MUSIC VIDEO
- 澤野弘之「機動戦士ガンダムNT」オリジナル・サウンドトラック
- 2018年11月28日発売 / SACRA MUSIC
-
[CD] 3000円
VVCL-1364
- LiSA「赤い罠(who loves it?) / ADAMAS」
- 2018年12月12日発売 / SACRA MUSIC
-
初回限定盤 [CD+DVD]
1728円 / VVCL-1370~1 -
通常盤 [CD]
1296円 / VVCL-1372 -
期間生産限定盤 [CD+DVD]
1728円 / VVCL-1373~4
- ライブ情報
SawanoHiroyuki[nZk] LIVE "R∃/MEMBER" -
- 2019年3月6日(水) 東京都 チームスマイル・豊洲PIT出演者
SawanoHiroyuki[nZk]
ゲストボーカル:西川貴教 / Aimer / mizuki / Gemie / Tielle / and more - 2019年3月7日(木) 東京都 チームスマイル・豊洲PIT出演者
SawanoHiroyuki[nZk]
ゲストボーカル:LiSA / Aimer / mizuki / Gemie / Tielle / and more
- 2019年3月6日(水) 東京都 チームスマイル・豊洲PIT出演者
- 澤野弘之(サワノヒロユキ)
- 1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズやNHK連続テレビ小説「まれ」、「アルドノア・ゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、楽曲提供や編曲をするなど精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerと、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表した。2015年9月にSawanoHiroyuki[nZk]の1stアルバム「o1」と、澤野名義のサウンドトラックベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」を発表した。2017年9月にSawanoHiroyuki[nZk]として2作目のアルバム「2V-ALK」、2018年4月にテレビアニメ「銀河英雄伝説 Die Neue These」のオープニングテーマ「Binary Star」と「実物大ユニコーンガンダム立像」のテーマソング「Cage」を収めたシングルをリリース。11月28日にLiSAと西川貴教をゲストボーカルに迎えた両A面シングル「narrative / NOISEofRAIN」を発表した。
- LiSA(リサ)
- 6月24日、岐阜県生まれのボーカリスト。2010年春、テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンド「Girls Dead Monster」の2代目ボーカル・ユイ役の歌い手に抜擢され、同年5月にGirls Dead Monster名義のシングル「Thousand Enemies」をリリース。2011年4月にLiSA名義のミニアルバム「Letters to U」でソロデビュー後はアニメ「Fate/Zero」1stシーズンのオープニングテーマ「oath sign」、「ソードアート・オンライン《アインクラッド》編」のオープニングテーマ「crossing field」などスマッシュヒットを連発。2014年1月に初の東京・日本武道館ワンマン「LiVE is Smile Always ~今日もいい日だっ~」を行い、翌2015年1月には日本武道館2DAYS「LiVE is Smile Always~PiNK&BLACK~」を成功させた。また「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「Animelo Summer Live」「氣志團万博」などさまざまな大型音楽イベントに出演し個性を発揮している。2017年春にはオリジナルブランド「YAEVA MUSiC」を設立し、2018年5月にキャリア初のベストアルバム「LiSA BEST -Day-」「LiSA BEST -Way-」を同時発売した。12月にはニューシングル「赤い罠(who loves it?) / ADAMAS」のリリースを控えている。