「UnChild」の曲に「ガンダムUC」との関連性を与えたい

──今クールは「機動戦士ガンダムUC」も放送されていますね。そこで澤野さんは同作のオープニングテーマ「Into the Sky」をSawanoHiroyuki[nZk]名義で担当されています。

「機動戦士ガンダムUC」がテレビシリーズになるとは思っていませんでしたね。実はOVA版の「ガンダムUC」の劇伴のオファーがあったとき、「あ、テレビシリーズじゃないんだ」という気持ちが正直あったんですよ（笑）。「ガンダム」ってテレビの印象が強いじゃないですか。もちろん「ガンダムUC」はOVAならではのクオリティを追求して本当に素晴らしい作品になって、その結果テレビでも放送されることになったんですけど。だからテレビシリーズになってほしいという願いを叶えてもらったような気持ちなんですよね。

──[nZk]の最新曲である「Into the Sky」は、オーディションで選ばれたTielleさんをボーカルとして迎えています（参照：澤野弘之、新ボーカリストオーディション開催）。

オーディションをしたのがずいぶん前のことなので、「あのオーディションの件はどうなったんだ？」と心配している方もいらっしゃったと思いますけど、審査は無事進んでTielleさんを選ばせていただきました。彼女は最初のデモの段階から自分の世界観を持っていた。特に英語の歌い方や表現力に特徴のある方だなと思って。ちょうど「Into the Sky」が英語詞だったので、これまでの曲とはまた違うアプローチができるかなと。

──ほぼ情報が非公開なのですが、どんな方なのでしょうか？

若い女性シンガーなのですが……僕の口からは勝手なことは言えませんね（笑）。ビヨンセとか、恐らくR&Bなどの洋楽がルーツで、オーディションに応募してくれた方々の中ではかなり珍しいタイプという印象でした。

──そして今回はエンディングテーマの「Next 2 U -eUC-」でも、新しいボーカリストを迎えていますね。

naNamiさんですね。彼女は、ななみという名前で活動されているシンガーソングライターなのですが、僕のライブに興味があって会場にも遊びに来てくださっていたみたいなんですよ。それで関係者づてにデモをいただいて、声を聴いて「ぜひお願いしたい！」となりました。

──公募したオーディションとは真逆の採用パターンですね。

そうなんです。ただ劇伴でも[nZk]でも、ボーカリストの声がどのように自分の音楽に作用してくれるかという点が僕の指針になっていて、そこは以前からずっと変わらない点ですね。

──なお「機動戦士ガンダムUC」のエンディングテーマとして、Aimerさんが歌う「bL∞dy f8 -eUC-」もありますが、「Next 2 U」も「bL∞dy f8」も一昨年にリリースされた「ガンダムUC」のコンセプトアルバム「UnChild」収録曲のアレンジ違いになっています。

はい。さっきも言った通り、思いがけずテレビシリーズの「ガンダム」の音楽を担当することになって、自分の中で「UnChild」の曲たちにも改めて「ガンダムUC」との関連性を与えたいという欲が出てきたんですよね。「UnChild」の曲は、OVA版の劇中で使われたりすることはなかった。だからテレビアニメ化を機会に、「新しい形でしっかり曲と作品をつなげたい」と僕からお願いしました。「Next 2 U」と「bL∞dy f8」をエンディングテーマにしたのは、それぞれ登場キャラクターであるミネバとアンジェロでイメージPVを作ったことがあったので、わかりやすいかなと思って。

嘘でもいいので褒めてください（笑）

──[nZk]の活動ですが、8月に「機動戦士ガンダムUC」発のライブイベント「RE:UnChild」があり、10月からはツアーと夏からはライブが活発になりますね。

どちらのライブもまだ具体的な演出は考えていないんですが、「RE:UnChild」は2014年に「UnChild」と題して行われたときはボーカリストがAimerさん1人だったんですよね。TielleさんとnaNamiさんが加わる今回は、また少し違うステージになると思います。

──人数の増加でいえば、ツアーのほうは大変なことになりそうです。最大で9人のボーカリストの方が参加するそうで。

あはは（笑）。東京公演は、バンドを含めて一体何人がステージに上がることになるんでしょうね。[nZk]のプロジェクトって、同じ曲でも歌う人が違ったりアレンジが違ったり、というやり方ができるんですよね。

──CDでもライブでもシンガーをクロスオーバーさせるのは、もはや“澤野弘之らしさ”の1つですね。

僕のいろんなわがままを聞いてくださるシンガーやミュージシャンの皆さんに対しては、レコーディングではいろいろと突き詰めていく部分もあるんですけど、ライブでは僕も含めて自由に楽しくいこうというスタイルで初日を迎えたいですね。CDをかっちり作ったからこそ、ライブでは遊びたい。そもそも[nZk]なんてひきこもりの作曲家が、みんなにワーって言ってもらいたくて始めたプロジェクトですから（笑）。反応があるだけでめちゃくちゃありがたいんですよ。拍手が起きるだけでも高揚する自分がいるんですよね。そしてそれが次の作品をつくるモチベーションにもなっている。僕はいち作曲家ですけども、今やライブはなくてはならない存在。だから皆さん、ライブ会場に来ていただいて、嘘でもいいので褒めていただけると幸いです（笑）。あと[nZk]単体として初めて東京以外でライブをするので、ドキドキしますね。客席が埋まるかどうか、めっちゃ心配してます（笑）。