音楽ナタリー Power Push - 澤野弘之
[nZk]プロジェクトの1年と劇伴作家の10年
カタログであり、エンタテインメント性あふれる1枚であり
──ここからはサントラベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」について聞かせてください。今作はインスト、ボーカル曲問わず、澤野さんのサントラ曲を集めたベスト盤なんですけど、今年2月にはサントラの中でもボーカル曲だけを集めた「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」もリリースなさっています。
なんで1年に2枚もサントラのベストを出してるんだ?って話ですよね(笑)。「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」はちょうど、ボーカルプロジェクトである[nZk]を始めた頃にリリースした作品だったので、それまでのボーカル曲を改めて紹介したいっていう思いがあってリリースしたんですけど、もともとインストも含めたサントラベストを出したいという気持ちもあったんです。
──そしてこのたびその思いが結実した、と。
そうですね。
──選曲の基準は? クレジットを見たときには携わった映像作品を網羅するカタログのようなアルバムなのかな?と思ったんですけど、いざ聴いてみたら楽曲のバラエティの豊かさを見せる選曲をしたのかな?という印象を受けたんですよ。
まさにそのどっちもですね。今年で作曲家生活10周年になるので「この10年、こういう作品に関わってきました」ということを紹介したいという戦略というか思いみたいなものもありましたし、1枚のアルバムとして聴いたときに面白いものにしたいという思いもありましたし。
──特に後者のほうの戦略にはまんまとハマりました(笑)。DISC 1が「BLUE DRAGON」で始まって「81DIVER」につながったとき「これ、同じ人間が書いたのか!?」って。
ははははは(笑)。基本的にそれぞれの映像作品のメインテーマを入れようと思っていたし、実際そうしたつもりだったんですけど、「ハチワンダイバー」みたいな毛色の変わったドラマのお仕事も数多くやらせていただいているので、いろんなテイストの曲が並ぶことになったって感じですね。中にはメインテーマではない劇中曲を入れている映像作品もあるんですけど、それはひとまずメインテーマを並べてみたあと「もっとこういうテイストの曲があったほうがいいな」とか「アルバムとして楽しんでもらうためにここはこういう流れにしたいな」っていうことを考えて、あえてそうしてみたっていう感じなんです。
──あと2009年のソロアルバムの表題曲「musica」も収録していますよね?
「BEST OF SOUNDTRACK」って言ってるのに(笑)。この曲が入っているのには、楽曲のバランスを考えたからっていう理由もありますし、あとサントラベストとは言いつつも、今回は10年間音楽活動をやってきた自分にとって重要な曲をまとめたいっていう気持ちがあったからっていう理由もあるんです。
“今だから笑えるイヤなこと”にすらアクセスするCD
──改めてこの37曲を通して10年を振り返ってみた感想は?
バラエティに富んではいるな、と思う一方で「作りたいメロディっていうのはこの10年変わってなかったんだな」とも思いましたね。この10年まったく進歩がないとも言えるんですけど(笑)。
──いやいやいや。むしろ10年前からすでに完成されていたというお話なんだと思います。
これから聴いてくださる方にもそう思ってもらえるといいなあ(笑)。ただ、アレンジについては、その都度その都度アプローチが違ってるなとも思っていて。それは自己満足的な細かすぎるこだわりなのかもしれないけど、そこも感じてもらえるとうれしいなあ、とは思いますね。あと、聴いてるとなんかいろいろと思い出すんですよねえ……。
──「なんかいろいろと」の声に若干後悔の色が感じられるんですけど(笑)。
まあ、蘇ってくるのはたいがいイヤなことですよね(笑)。
──あはははは(笑)。「オレ、なんでこの曲こんな録り方してるんだろう」とか?
イヤなこととはいっても、たいていは「今だから笑えるイヤなこと」だし、もちろんいいことも思い出しますしね。こうやって人の思い出としっかりリンクできる、寄り添えるのが音楽のよさだよな、とも思いましたね。
──クレジットに並んでいる映像作品はどれもヒット作、話題作だから、劇伴を耳にしている人はかなりの数にのぼるはずで。澤野さんのファンはもちろん、実は澤野さんのことを知らない人が「あのドラマの曲が入ってるんだ」「あのアニメの曲聴きたいな」ってこのアルバムを手にして、当時のことを思い出してくれるといいですよね。
それは望んでいますね。
──しかも「あのドラマ」のためにアルバムを手にした人にとっては、ほかの30数曲は全然知らない曲という(笑)。このアルバムってヒット作、代表曲を集めたという意味ではまごうことなきベスト盤なんだけど、聴き手によってはまるで知らない曲ばかりが集まっているようにも見える。相当変わった1枚ですよね。
ははははは(笑)。でもそれもまた望んでいることで。サントラって基本的にはその映像作品のことが好きな人が買うものだと思うんですけど、澤野弘之という作家のサントラベストという切り口で曲をまとめてみると、リスナーの方は好きな映像作品の曲の入っているアルバムを買ったつもりなのに新曲を聴くことになるという、まったく新しい体験ができると思うので。そういう聴かれ方をするのは僕にとっても新しい体験だから、このアルバムがリリースされたあとのことってすごく楽しみなんですよね。というのも、最近僕のことを知った人の多くはアニメ作品がきっかけだと思うんですよ。
──「進撃の巨人」や「機動戦士ガンダムUC」や「七つの大罪」の劇伴作家として澤野弘之の名前を知った人は多いでしょうね。
今回DISC 1は実写作品の劇伴中心、DISC 2はアニメ作品の劇伴中心になってるんですけど、アニメをきっかけに自分のことを知ってくれた人がDISC 1を聴いて面白がったり、その曲が使われていたドラマに興味を持ってくれたりしてもうれしいですよね。
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- SawanoHiroyuki[nZk] 1stアルバム「o1」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3799円 / SECL-1760~1
- 通常盤 [CD] 3200円 / SECL-1762
CD収録曲
- [nZk]o1
- Pretenders / mica & Gemie
- X.U. / Gemie
- A/Z / mizuki
- scaPEGoat / Yosh
- oI / mizuki
- Song of ..<AM> / Aimer
- Saving Us / Gemie
- aLIEz / mizuki
- Rise Above / Yosh
- Summer Tears / mica
- &Z / mizuki
- s-AVE / Aimer
- out01nzk
初回限定盤DVD収録内容
- A/Z(MUSIC VIDEO)
- &Z(MUSIC VIDEO)
- X.U. (MUSIC VIDEO / short ver.)
- scaPEGoat(MUSIC VIDEO)
- s-AVE(MUSIC VIDEO)
- βios ~ Before my body is dry(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- BRE@TH//LESS(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- &Z(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- Keep on keeping on(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- 澤野弘之 ベストアルバム「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD3枚組]3799円 / SECL-1755~7
- 通常盤 [CD2枚組]3600円 / SECL-1758~9
DISC 1収録曲
- BLUE DRAGON <'07 Ver.>
- 81DIVER
- LiVE/EViL
- from sunset to sunrise
- MARKS
- 80$$
- PRISONER
- Climb to the Top
- Tang
- α≠a
- Back to the Starting Point
- BLOOD oF thE DRAGON
- musica
- motherhood ~me & my mom~<Vocal ver.>
- tragedy
- Grey to Blue
- FUNK PUNKY MONKEY
- HONEST
- DRAGON RISES
DISC 2収録曲
- MAIN THEME
- BLAZE [ZERO-TWO Ver.]
- at'aek ON taitn
- fiore
- U & Cloud
- Ω
- ON YOUR MARK
- Perfect Time
- i-AM
- 鬼龍G@キLL
- Big Break
- zai
- This is a Fight to Change the World
- 1st-Mov. : S
- BLUE
- BRE@TH//LESS
- UNICORN
- Missing Piece
DISC 3(初回限定盤付属ボーナスディスク)収録曲
- Aesthetic<【emU】ver.>
- PF-【emU】1
- PF-【emU】2
- 3594εMT
- ThreeFiveNineFourε
澤野弘之(サワノヒロユキ)
1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングル「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。また「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。そして9月、SawanoHiroyuki[nZk]の1stアルバム「o1」と、澤野名義のサウンドトラックベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」を発表した。