音楽ナタリー Power Push - 澤野弘之
[nZk]プロジェクトの1年と劇伴作家の10年
「o1」に込められた3つの要素
──「o1」の面白さってその劇伴作家にして“アーティスト”が作ったところにあると思うんです。タイアップもののシングル曲が、アルバム書き下ろしのオリジナル曲の中にあって浮いていない。アルバム1枚通してすごく楽しく聴けたんですよね。オーダーありきのシングル曲も、作りたいものを素直に作ったという新録曲も地続きになっている。
ありがとうございます。「アルバムトータルで楽しめた」とおっしゃっていただけるのであれば、それはたぶん最初からアルバムの中に3つの要素を入れるつもりだったからかもしれないですね。
──3つの要素?
まずタイアップものだったシングルカットされた楽曲。そしてAimerさんに歌っていただいた「Song of ..<AM>」「s-AVE」や、Gemieさんの「Saving Us」がそうなんですけど、もともとドラマや別のアーティストさんに提供していた曲を[nZk]バージョンにアレンジし直したもの。その3曲はもう1度みんなに聴いてもらいたいメロディだったので復活させてみて。それからアルバムのために完全に新規で書き下ろした曲、今自分が作りたいサウンドを追求した曲ですね。シングル曲が収録されることを前提にしつつ、今言った3つの要素をバランスよく1枚のCDに収めようとしたからトータルパッケージとしてキレイにまとめられたのかな、とは思ってます。
──そのAimerさんやGemieさんに白羽の矢を立てた理由は? 今作には5人のボーカリストが参加していますけど、曲を書く段階で「この曲はmizukiさんに歌ってもらいたいな」「あの曲はYoshさんかな?」みたいなイメージで書いていたから、このメンバーになった?
今回参加してくれたボーカリストは全員過去に共演したことのある人たちで、今回その5人に参加してもらうことはアルバム制作当初から決めてはいたんですけど、曲を書いてる段階では「この曲はあの人に歌ってもらおう」みたいなことは考えてなかったですね。曲作りの段階でボーカリストをイメージしちゃうと、その人のキーや声質にとらわれたメロディになってしまうので。とりあえず「曲を作りたい」っていう衝動に任せて曲を作って、そのあと「これ、mizukiさんが歌ったら面白いのかな?」「この曲はやっぱりGemieさんが歌ったほうが広がりが生まれるかな?」って考えるようにしてるんです。で、ボーカリストが決まってからレコーディングまで「mizukiさんはこの曲をどういうふうに歌ってくれるんだろう」って待ってる時間が、[nZk]をやってるときの楽しみの1つだったりするんですよ(笑)。
澤野弘之の考える「ポップ」ミュージック
──ご自身が改めて聴いてみるに「o1」ってどういうアルバムですか?
いまだに自分が聴いているのは基本的に大衆的な音楽。メロディがポップで、そのときそのときでカッコいいとされているアレンジを追求している人たちの音楽だからっていうのもあるからか、あくまで「自分の考える」ではあるんですけどポップなアルバムになったかなとは思っています。
──確かに収録曲はどれも聴き手をエンタテインする楽曲だとは思うんですけど、その「自分の考えるポップ」って具体的に言葉にできたりします?
うーん……。ホントに感覚的に「これカッコいいな」と思うことしかやってないから、具体的に言うのは難しいですね。ただ皆さんからよく言っていただくのは、特に[nZk]みたいな歌モノの場合、イントロ、Aメロ、Bメロまではテンション抑えめなんだけど、サビになったときのバーンっていう爆発のしかたがハンパない、と。それを聞いて「確かにそういう展開がカッコいいな、好きだなと思って作ってるな」って気付いた、みたいなことはありました。確かに「サビに入りました!」ってくらい主張の強いメロディが好きだし、サビに入った瞬間、風景が広がっていくような曲が好きだなって。クールなフレーズがループし続けるみたいな曲も作ってみたいと思ってるくせに、サビ前あたりでどうしてもガマンできなくなっちゃってるな、って。
──あはははは(笑)。
「これ、質問の答えになってるのか?」っていう抽象的な話なんですけど、そういう爆発力があって広がりのあるメロディのことをポップと呼んでもらえてるならうれしいな、とは思っています。
──ただ音像はポップでメロディアスというよりも、硬質でドライ。雑ぱくに言ってしまうと、カッコいい系ですよね。
それはたぶん昨今のハリウッド映画の劇伴の影響でしょうね。今のハリウッド映画の劇伴ってポップっていうよりはサウンド重視。ある意味効果音的なんですよ。メロディアスに作るというよりは、音の響きのカッコよさで聴かせるものが多いんです。自分もそういうサウンド感を劇伴に取り入れたりしているので、その影響がボーカルプロジェクトにも現れているんでしょうね。
あるとき、拍を縦に割るのが面白くなくなって……
──劇伴作家・澤野弘之の横顔が[nZk]にもにじみ出てきている、と。
そうですね。今回「o1」を作るときもそうだったし、劇伴を作るときにもサウンド感、それからグルーヴ感については常に気にしているので。
──あっ、確かに「o1」を聴いていてグルーヴは気になりました。頭打ちの曲、要は四つ打ちの曲も多い上に、楽器隊は腕っこきのセッションプレイヤー陣。だからアンサンブルはタイトでキメキメなのに、どの曲もちゃんとリズムが揺れていて踊れるな、って。
グルーヴに関しては、サウンド感以上に意識してますね。僕自身ももちろんそうなんですけど、日本人って4分の4拍子の曲であれば、1、2、3、4って感じで拍を縦に割りがちになる気がするんですよね。でもあるとき、それがあんまり面白くなくなっちゃったんです。僕の書く日本人的なメロディに奥行きを持たせるために必要なのは、裏拍を感じさせるリズムなんじゃないか? そのグルーヴっていうものを取り入れられたらもっと曲が面白くなるんじゃないか?って考えるようになって。それからは普段曲を聴くときもわざと裏でリズムを刻んでみたりとか……トレーニングっていうと大げさなんですけど、意識的にリズムをズラす聴き方をするようになって。その上で自分の曲を書いてみる、アレンジをしてみるということは意識してやっています。
──じゃあ今回プレイヤー陣にも裏のリズムを意識するようディレクションを?
一時期までは楽器隊についてもボーカリストと同じ。基本的に「あの人はこの曲をどう弾いてくれるんだろう」って感じでミュージシャンにお任せすることが多かったんですけど、今はギターのカッティングのアタックの置き位置もけっこう細かく指定してますし、ベースラインについてもこちらでスコアを書いたりしてますね。
──「o1」ってここまでお話いただいた、それこそ“アーティスト・澤野弘之”性がしっかり刻印された1stアルバムになりましたよね。[nZk]は今後、この名刺代わりの1枚を引っさげて何をするんでしょう?
何をするんでしょうねえ(笑)。「とりあえずアルバムを1枚出せてよかったな」「名刺を刷れてよかったな」って気持ちでいっぱいなんですよ。
──せっかくだから名刺をたくさん配って次なる展開につなげましょうよ(笑)。
先のことを考えるのって苦手なんですよね(笑)。ただ、このアルバムを作れたことに対する満足感はすごくあって。納得のいく作品を作った自信はあるので、ファンの方にもちゃんと届いて、またレーベルから「シングルを出しましょうよ」「アルバムを作りましょうよ」って言ってもらえたらいいな、とは思ってます(笑)。
- SawanoHiroyuki[nZk] 1stアルバム「o1」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3799円 / SECL-1760~1
- 通常盤 [CD] 3200円 / SECL-1762
CD収録曲
- [nZk]o1
- Pretenders / mica & Gemie
- X.U. / Gemie
- A/Z / mizuki
- scaPEGoat / Yosh
- oI / mizuki
- Song of ..<AM> / Aimer
- Saving Us / Gemie
- aLIEz / mizuki
- Rise Above / Yosh
- Summer Tears / mica
- &Z / mizuki
- s-AVE / Aimer
- out01nzk
初回限定盤DVD収録内容
- A/Z(MUSIC VIDEO)
- &Z(MUSIC VIDEO)
- X.U. (MUSIC VIDEO / short ver.)
- scaPEGoat(MUSIC VIDEO)
- s-AVE(MUSIC VIDEO)
- βios ~ Before my body is dry(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- BRE@TH//LESS(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- &Z(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- Keep on keeping on(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- 澤野弘之 ベストアルバム「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD3枚組]3799円 / SECL-1755~7
- 通常盤 [CD2枚組]3600円 / SECL-1758~9
DISC 1収録曲
- BLUE DRAGON <'07 Ver.>
- 81DIVER
- LiVE/EViL
- from sunset to sunrise
- MARKS
- 80$$
- PRISONER
- Climb to the Top
- Tang
- α≠a
- Back to the Starting Point
- BLOOD oF thE DRAGON
- musica
- motherhood ~me & my mom~<Vocal ver.>
- tragedy
- Grey to Blue
- FUNK PUNKY MONKEY
- HONEST
- DRAGON RISES
DISC 2収録曲
- MAIN THEME
- BLAZE [ZERO-TWO Ver.]
- at'aek ON taitn
- fiore
- U & Cloud
- Ω
- ON YOUR MARK
- Perfect Time
- i-AM
- 鬼龍G@キLL
- Big Break
- zai
- This is a Fight to Change the World
- 1st-Mov. : S
- BLUE
- BRE@TH//LESS
- UNICORN
- Missing Piece
DISC 3(初回限定盤付属ボーナスディスク)収録曲
- Aesthetic<【emU】ver.>
- PF-【emU】1
- PF-【emU】2
- 3594εMT
- ThreeFiveNineFourε
澤野弘之(サワノヒロユキ)
1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングル「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。また「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。そして9月、SawanoHiroyuki[nZk]の1stアルバム「o1」と、澤野名義のサウンドトラックベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」を発表した。