音楽ナタリー Power Push - 澤野弘之
[nZk]プロジェクトの1年と劇伴作家の10年
作曲家・澤野弘之がSawanoHiroyuki[nZk]名義のアルバム「o1」と、澤野名義のベストアルバム「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」をリリースした。
「o1」は澤野が2014年から展開しているボーカルプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk]の1stフルアルバム。かねてからサウンドトラックにおいてもボーカル曲を積極的に入れていきたいと語っていた澤野が、Aimer、mizuki(イツエ)、Yosh(Survive Said The Prophet)ら、これまで共演してきた5人のボーカリストとともに、そのこだわりを大きく反映させた14曲を作り上げている。
一方「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」は澤野が携わってきたさまざまな映像作品のサウンドトラックの中から、選りすぐりの37曲が収録されたベスト盤。今年劇伴作家生活10周年を迎える彼の集大成的な1枚だ。
今回音楽ナタリーではこの2枚のアルバムリリースを記念して澤野のインタビューを実施。オリジナルアルバムとサントラベストという、一見正反対な2作に潜む意外な共通点と、アーティストと劇伴作家という彼の2つの横顔に迫った。
取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 佐藤類
多忙極める作家の創作意欲の源泉
──澤野さんは以前からサウンドトラック、つまり映像作品のための音楽を作るときにも、ご自身がカッコいいと感じる楽曲を思うがままに作れているとおっしゃっていました。
創作意欲、表現欲求みたいなものはサントラで満たされていますね。
──となると、そもそもの話というか、なぜ今回「o1」という“オリジナル”アルバムを? 今もサントラの仕事はひきも切らないだろうし、実はそれで澤野さん的には幸せなんじゃないか?という気もします。
もっとそもそもの話をしてしまうと、サントラを作っているときとはまた別の創作意欲、「ボーカル曲をもっと作ってみたいな」という欲求から始まったのがSawanoHiroyuki[nZk]っていうプロジェクトなんです。で、ぶっちゃけてしまうと、2014年の9月にプロジェクトが始まって「A/Z」「&Z」「X.U. | scaPEGoat」という3枚のシングルをリリースしたことだし、そろそろアルバムかな?と思っていたら、レーベルから「そろそろアルバム出しません?」って言われたから「ぜひ!」って作ってみた、という(笑)。
──あはははは(笑)。
いつかは[nZk]のアルバムを作りたいとは思っていたので。それが普通に実現したっていうだけといえば、それだけなんですよね。
──その「アルバムを作りたい」っていう欲求もすごいというか。さっき言った通り、今もサントラ仕事がすごい数舞い込んでると思うんですよ。
すごい数ではないですが(笑)、おかげさまでそうですね。
──その上、オリジナルアルバムを作りたいと思っている。その創作意欲とアイデアの枯れない感じがすごいな、と。
いやいやいや(笑)。でも劇伴の場合、創作意欲やアイデアはその映像作品が連れてきてくれますから。劇伴は発注されることが前提じゃないですか。それがいいんですよね。「これこれこういうお話に似合う曲を書いてください」っていうオーダーがあるから「じゃあどういうアプローチをしようか?」という意欲やアイデアが湧いてくるんです。だからサントラに関しては今のところ作ることに対してあまり苦はないんですよ。
自分の音楽でみんなと楽しみたい
──じゃあ今回の「o1」みたいなオリジナルアルバムについてはどういうモチベーションで取り組んでいるんですか?
シングル曲に関しては全部タイアップ曲だったから、個人プロジェクト名義とはいえ、ある意味サントラと同じで。アルバム用の書き下ろし曲に関しても、やっぱり求められるから作っているし、作れているという面はあるんだと思います。映像制作のスタッフから「こういう曲を」と求められるから劇伴を書けるのと同じように、[nZk]プロジェクトであればレーベルが……。
──「そろそろアルバム出しませんか?」っていうオーダーをくれたから作れる、と(笑)。
そうですそうです(笑)。レーベルがそう言ってくれているということは「澤野のアルバムを聴いてみたい」と思ってくれているファンの方もいらっしゃるんだろうな、と思えるから「じゃあやろう」ってエネルギーが湧いてくるところはありますね。あと曲作りにあまり苦がないのは、普段から曲の断片みたいなものはストックしていますから。「これは○○というアニメのサントラ用」とか「[nZk]プロジェクト用」っていうふうに決めないまま常に曲は書いてるんです。で、劇伴のお話や今回の「o1」みたいなオリジナルアルバムのお話をいただいたときに、そのストックの中から似合いそうな曲を改めてアレンジし直すっていうこともしているから曲作りに行き詰まるみたいなことはないんでしょうね。
──ただ、それって作家活動を始めてから生まれたモチベーションだと思うんです。アマチュアの音楽家には「劇伴をぜひ」とか「オリジナルアルバムを出しましょう」なんてオファーはないわけですから。
そうなりますね。
──アマチュア時代の澤野さんはなぜ音楽を作っていたのでしょう?
なんでなんだろう? 音楽を始めた頃は自分がいいなと思う曲を思うがままに書いていた気がするんですけど……いや、あの頃から「いつかこういう作品の劇伴の仕事が来たら、この曲を使いたいな」って考えながら作ってたか。昔から劇伴作家になりたかったから「劇伴作家になりたい」という目的、欲求があって曲を作ってましたね。逆に「オレの気持ちや考えを表現したい」なんてまったく思ってなくて(笑)。単純に「自分が作ったものをみんなに面白がってもらいたいし、みんなと楽しみたい」っていう感覚で作ってた気がします。
ナチュラルボーン劇伴作家・澤野弘之の誕生
──「劇伴作家志望のアマチュアミュージシャン」って、けっこう珍しいですよね。
確かにそうかもしれないんですけど、自分にとって音楽っていうのはもともと聴く人ありきのものなんです。以前もお話した通り、自分の音楽の原体験にはCHAGE and ASKAがあって(参照:澤野弘之「&Z」&「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」特集)。彼らの音楽を聴いて「こんなに人を感動させられるのってすごいな」「自分も誰かに楽しんでもらいたいな」という憧れから音楽を始めていて、その後聴いてきた音楽も、そのときのヒットチャートの上位にいる音楽……小室(哲哉)さんだったり、B'zだったりが中心で。一方でサントラを好きで聴いていたからでもあるんですけど、そういうエンタテインメント性の高い音楽、人に楽しんでもらえる音楽を自分もやるにはどうすればいいんだろう?って考えたとき、劇伴作家っていう道もあるなって気付いた感じなんです。
──そのある種のサービス精神のもと今も音楽を作り続けている、と。
例えばすごく思い入れたっぷりに力を入れて作ったAという曲と、思い入れがないわけではないけど普段通りに作ったBという曲があったとしますよね。で、その2曲を発表してみたらBのほうが反応がよかったりすると、自分自身Bのほうに対する思い入れが強くなったりしますから。そのくらい自分にとってお客さんの反応って大事なものなんです。
──劇伴と[nZk]の楽曲では制作スタイルに違いはあります? というのも[nZk]のオリジナル曲には「こういう物語に似合う音楽を」という具体的なイメージをもとにした発注はないわけですよね。
だからといって制作スタイルに違いはないですね。劇伴に「このシーンのBGM」という前提があるように、[nZk]の曲であれば「澤野弘之のボーカルプロジェクトの楽曲」という前提があるわけですから。それに沿って音楽を作るだけで。ただ意識にはちょっと違いがあって、[nZk]プロジェクトは劇伴よりは自由……もちろん劇伴作りに不自由を感じたことはないんですけど(笑)、[nZk]の曲を書いているときは、より澤野弘之自身にフォーカスを当てている感じ。言ってしまえばアーティスト意識みたいなものは発揮されている気はしますね。
──澤野さんの考える「アーティスト・澤野弘之」ってどういう音楽家……。
(遮って)すみません! 今、調子に乗って「アーティスト意識」なんて言っちゃいましたけど、そんなに大げさな話では全然なくて(笑)。例えば劇伴の場合には「この映像作品のこのシーンに合うBGMを」っていうオーダーをクリアしつつ、自分がカッコいいと思うことをいかにやるか、っていう作り方をしていて。でも、[nZk]には「澤野弘之のボーカルプロジェクト」という前提しかないから、今、好きで聴いている音楽の要素なんかも取り入れつつ、自分が作りたい曲を素直に作っている感じだっていうだけの話なんです。
──それが巷で言われる「アーティスト的」な作り方なんじゃないか、という感じ?
そうかもしれませんね。だから(シリアスな声を作って)「アーティスト・澤野弘之として」みたいな大げさな話じゃないんです(笑)。ほかのミュージシャンの方はたぶんそのときのニーズなどに対応しながらも、自分が今作りたい曲を素直に作ってると思いますし、「アーティスト」と呼ばれているわけですから。単に劇伴作家である自分にとって、オーダーがない中で好きに音楽を作ることが新鮮だったというだけで。
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- SawanoHiroyuki[nZk] 1stアルバム「o1」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3799円 / SECL-1760~1
- 通常盤 [CD] 3200円 / SECL-1762
CD収録曲
- [nZk]o1
- Pretenders / mica & Gemie
- X.U. / Gemie
- A/Z / mizuki
- scaPEGoat / Yosh
- oI / mizuki
- Song of ..<AM> / Aimer
- Saving Us / Gemie
- aLIEz / mizuki
- Rise Above / Yosh
- Summer Tears / mica
- &Z / mizuki
- s-AVE / Aimer
- out01nzk
初回限定盤DVD収録内容
- A/Z(MUSIC VIDEO)
- &Z(MUSIC VIDEO)
- X.U. (MUSIC VIDEO / short ver.)
- scaPEGoat(MUSIC VIDEO)
- s-AVE(MUSIC VIDEO)
- βios ~ Before my body is dry(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- BRE@TH//LESS(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- &Z(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- Keep on keeping on(from STUDIO LIVE [nZk]002.5)
- 澤野弘之 ベストアルバム「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」2015年9月9日発売 / SME Records
- 初回限定盤 [CD3枚組]3799円 / SECL-1755~7
- 通常盤 [CD2枚組]3600円 / SECL-1758~9
DISC 1収録曲
- BLUE DRAGON <'07 Ver.>
- 81DIVER
- LiVE/EViL
- from sunset to sunrise
- MARKS
- 80$$
- PRISONER
- Climb to the Top
- Tang
- α≠a
- Back to the Starting Point
- BLOOD oF thE DRAGON
- musica
- motherhood ~me & my mom~<Vocal ver.>
- tragedy
- Grey to Blue
- FUNK PUNKY MONKEY
- HONEST
- DRAGON RISES
DISC 2収録曲
- MAIN THEME
- BLAZE [ZERO-TWO Ver.]
- at'aek ON taitn
- fiore
- U & Cloud
- Ω
- ON YOUR MARK
- Perfect Time
- i-AM
- 鬼龍G@キLL
- Big Break
- zai
- This is a Fight to Change the World
- 1st-Mov. : S
- BLUE
- BRE@TH//LESS
- UNICORN
- Missing Piece
DISC 3(初回限定盤付属ボーナスディスク)収録曲
- Aesthetic<【emU】ver.>
- PF-【emU】1
- PF-【emU】2
- 3594εMT
- ThreeFiveNineFourε
澤野弘之(サワノヒロユキ)
1980年生まれ、東京都出身の作曲家、編曲家。「医龍」シリーズや、「アルドノアゼロ」「進撃の巨人」「キルラキル」「機動戦士ガンダムUC」シリーズなど、ドラマ、アニメ、映画など映像作品のサウンドトラックを中心に、そのほか、アーティストへの楽曲提供、編曲を手がけるなど、精力的に音楽活動を展開している。2014年春からはボーカル楽曲に重点を置いた新プロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]を始動。その第1弾作品として、「機動戦士ガンダムUC」シリーズの楽曲も共作したAimerとの、SawanoHiroyuki[nZk]:Aimer名義のアルバム「UnChild」を発表し、オリコン週間アルバムランキングトップ10入りを果たす。また同年夏にはイツエの瑞葵(Vo)がmizuki名義で歌うSawanoHiroyuki[nZk]名義のシングル「A/Z | aLIEz」を、2015年2月には同じくmizukiを迎えたSawanoHiroyuki[nZk]の新作「&Z」と、自身の手がけたアニメーションのサウンドトラックの中からボーカル曲のみをセレクトしたベストアルバム「BEST OF VOCAL WORKS [nZk]」をリリースしている。さらに春には、NHK連続テレビ小説「まれ」やWiiU用ゲーム「XenobladeX」のサウンドトラック、テレビアニメ「終わりのセラフ」の音楽プロデュースも担当。また「終わりのセラフ」のオープニングテーマとエンディングテーマをパッケージしたシングル「X.U. | scaPEGoat」と「XenobladeX」を5月にリリースした。そして9月、SawanoHiroyuki[nZk]の1stアルバム「o1」と、澤野名義のサウンドトラックベスト「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」を発表した。