改めて感じたももクロの“デカさ”
──ここからは結成20周年記念作品「サ上とロ吉と」についてお話をお伺いします。今作には多彩なアーティストとのコラボレーションによって生まれた6曲が収録されています。そもそも、コラボレーションを中心に作品を作ろうと思った理由は?
サ上 20周年なんで、やっぱり“お祭り感”かな、と。そもそも客演自体がほかのラップグループに比べると多くなかったんで、次はコラボ作にしたいなと思って、去年から制作を進めてきたんですよね。
──作品の冒頭を飾る「INTRO」では、デビュー作の収録曲「ヨコハマジョーカー」から「ドリーム銀座」まで、これまでに発表したサ上とロ吉の音源をコラージュしてますね。
サ上 やっぱり20周年なんで、ヒストリーを素材にしようと。
ロ吉 ただ、そこでカッコよく終わらないで、最後に謎の雑談が入ってきちゃうのがサ上とロ吉だなって(笑)。
サ上 レコーディングで吉野のスクラッチが意外とサックリ録れちゃって、時間もあるしシャウトを入れるついでに台詞も入れようと。
──何も振り返ってない純度の高い雑談に戦慄しました。2曲目の「More & More feat. ももいろクローバーZ」には、レーベルメイトでもあるももクロが参加しています。
サ上 ももクロの楽曲「Survival of the Fittest -interlude-」のリリックを書かせてもらったり、加山雄三さんのリミックス「蒼い星くず feat. ももいろクローバーZ×サイプレス上野とロベルト吉野×Dorian」を制作したり、もともと関係性は深かったんですよね。それもあって、今回は自然な流れで参加してもらって。この曲では改めて彼女たちの“デカさ”を感じましたね。存在感であり、輝きであり、やっぱり持ってるものが違うなと。
──ももクロの歌う「誰一人残さずパーティーを続けよう」というフックに、サ上とロ吉のイズムが色濃く出てるなと思いました。
サ上 「やっぱりパーティにはみんないないと楽しくないよ」っていうことを、ももクロに明るく力強く歌ってほしかったんですよ。
ロ吉 スクラッチで、ももクロの曲を使ってるんですけど、その選定を俺たちの幼ななじみで、モノノフのDRMMANって奴に頼んだんですけど、「うれしすぎる!」って震えてましたね(笑)。
サ上 地元の信用できる仲間にアイデアをもらうっていうのは、今までずっとやってきたことだし、ももクロと作る曲でもそれをやるっていうブレなさが俺たちだな、と。
サ上とロ吉と酒と
──「Let's Go 遊ぼうZE 2 feat. YOUR SONG IS GOOD」には、関係の深いユアソンが参加しました。
サ上 曲のアウトロでも話してる通り、もう17年以上の付き合いで、サイトウ“JxJx”ジュンくんとは俺らがデビューする前からの付き合いなんですよね。今までジュンくんには「ゴメンナサイ」という曲で客演してもらったり、「だろう生活ながら毎日」という曲をプロデュースしてもらったりしてるんだけど、ユアソンとのコラボは今回が初で。
──その意味でも“待望の”という感覚がありますね。
サ上 俺らも当然そうで、どういうトラックがくるのかな、と思ったら、最近のユアソンのダンスモードとは違う、シンプルなスカのビートだったんで驚きましたね。ジュンくんの中には「世の中的にも不安だったり不透明な部分が強いから、ドリームハイツの夏祭りでもかかるような、大人も子供も楽しめる曲にしたい」というアイデアがあったみたいで、それに俺らも乗った感じです。だから、俺のラップもスゴくわかりやすいフロウの置き方をしていて。お互いにあえてシンプルなことをやる、ストレートすぎて逆にチャレンジングな曲でもありましたね。
──「日本全国乾杯ラップ feat. 奇妙礼太郎」にはマキタスポーツさんがプロデューサーとして参加されています。
サ上 マキタさんとはずっと「何か一緒にやりたいですね」って話はしてたんですよ。それで制作が決まって、マキタさんが歌を入れてくれるのかなと思ってたら、「違う男性ボーカルを入れたい」と。理由は「サ上とロ吉とマキタだとシュッとしない」っていうことで(笑)。
──正しい判断が(笑)。
サ上 それで奇妙礼太郎くんの名前が挙がったんですよね。俺らも対バンしたことがあったし、マキタさんも仲がいいから、奇妙くんも二つ返事で乗ってくれて。
──フックのサンプリングなのかパクリなのかがわからない強引な引用も最高ですね。
サ上 そこはもうマキタさんのアイデアなんで、俺たちに責任はない(笑)。
──サ上とロ吉は、これまでにも「横浜~藤沢 酒呑みラップ feat. DEEP SAWER」のような酒をテーマにした楽曲を作っていますよね。そもそもサ上とロ吉には飲酒にまつわるエピソードが数えきれないほどたくさんあって、今もノンアルコールビールを呑みながらインタビューに臨んで、ギリギリ社会性を保っていますが(笑)。
サ上 最近は、酒を悪いもの扱いするような空気ってあるじゃないですか。“反飲みニケーション”とか、アルハラ撲滅とかって声も多くて。泥酔してやらかすっていうのは俺も何回もやってるし、確かに迷惑もかけてるんですけど。
──SNSで大暴れしたなと思ったらだいたい酔ってますからね(笑)。
サ上 最近は自粛してます(笑)。だから、この曲には「そういう飲み方はやめよう」という気持ちを込めてるんですよ。明るく、楽しく、めでたく、機嫌よく飲んで、記憶のあるうちに家に帰りましょうと(笑)。
ロ吉 俺、実は昨日テキーラ飲みすぎて二日酔いです。
サ上 ……こういう奴を撲滅する曲です(笑)。
SAMI-Tの言葉に背中を押されて
──「Uptown Anthem feat. 碧棺左馬刻(from「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」)」のトラックメークにはHYPERJUICEのHARAさんが参加してます。
サ上 もともと横浜つながりで仲はよかったんですけど、左馬刻の声優をやってる浅沼晋太郎さんもHARAくんと仲がよかったんですよね。人と人とのつながりでこういう座組みになったんです。
──上野さんはヒプマイで碧棺左馬刻の楽曲「G anthem of Y-CITY」の作詞をしていますが、この曲では左馬刻がヒプマイの世界を飛び出して、実世界を舞台にした楽曲に参加するという構造になっています。
サ上 ヒプマイと実世界で世界線が違うのは確かにそうなんだけど、「G anthem of Y-CITY」を作ったときも、2つの横浜を完全に分けるんじゃなくて、曖昧に混ざり合うような形にしたかったんですよね。“ヨコハマ”と“横浜”の両方の世界を感じてもらいたくて。今回もそういう意識で制作に取り組みました。
──浅沼さんのラップは今のハードコアラップに近いフロウの感触で成り立っていますね。
サ上 浅沼さんにそういうラップをしてもらいたかったんです。俺がやるとちょっと違和感があるけど、以前からやってみたいフロウではあったので、それを浅沼さんと左馬刻に託したというか。
──今までも「YOKOHAMA LAUGHTER」など地元・横浜をタイトルに冠した楽曲を制作してきましたが、今回の作品には「YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA」という楽曲が収録されることとなりました。
サ上 20周年を迎えて、改めて俺たちのルーツである横浜をテーマにした楽曲を作るにあたって、自分たちを引き締める意味も含めて、MIGHTY CROWNという横浜の王者と曲を作ろうと思ったんです。
──「横浜レゲエ祭」にヒップホップアーティストが登場したり、ヒップホップとレゲエの混成ユニットとしてROMERO SPやBAY SQUADが横浜から登場したように、横浜ではレゲエとヒップホップが非常に密接な関係にあります。
サ上 昔からそうなんですよね。そういう現場に俺たちも遊びに行ってたし。だからこそヒップホップの連中だけじゃなくて、レゲエのセレクターやDeeJayにも認められたいという気持ちはやっぱり強くて。今回の作品で言えば、ももクロやヒプマイの名前を見て、ステレオタイプに判断する人もいると思うんですね。「またサ上とロ吉は、そういうことやってんだ」って。だからこそMIGHTY CROWNのSAMI-Tさんっていう、横浜の王者とがっぷり四つで組ませてもらうことで、自分たちの地力みたいなものをちゃんと形にしたかった。もちろん、それは虎の威を借るってことじゃなくて。王者と組むからには言い訳や手抜きは一切できないわけで、次に向かうための通行手形になるくらいタフなものを作らなきゃいけないという決意も込めて制作に臨みました。
──歌詞の中で自らを「ハマのホームランバッター」と表現しているのがスゴく興味深くて。これまでの作品では「ヨコハマジョーカー」のように、「自分は横浜の主役ではない」ということを歌詞に織り込んできたサ上とロ吉ですが、今回は自分がメインアクトであるということを歌詞を通して宣言しているように思います。その心境の変化はなぜ?
サ上 SAMI-Tさんのアドバイスというか説教も大きかったですね。最初は「横浜のハズレもん」みたいな、これまでと同じように一歩引いたリリックだったんです。でも、そのリリックに対して、SAMI-Tさんに「お前は横浜をレペゼンしながら全国規模で活動して、CDも何枚も出して、FM YOKOHAMAでパーソナリティもやってる。そういう存在なんだから、いい加減ちゃんとしろ!」「MIGHTY CROWNは横浜代表という気持ちを持ったまま、世界のサウンドクラッシュに出て優勝したんだから、お前もそれくらいの気概を持て!」って言われたんですよね。その言葉に背中をバチンと叩かれた感じで、自信を持ってリリックを書こうと思ったんですよ。
──「夢は叶う」というメッセージの明快な強さにも驚きました。
サ上 正直、最初は「俺たち、そういうキャラじゃないしな……」って思ったんですよ。でも、SAMI-Tさんの言葉で火が点いたのか、何度も歌詞を書き直していくうちに、20周年を記念する作品でもあるし、照れ笑いしないで書き切ってもいいんじゃないかと思ったんです。SAMI-Tさんに背中を押してもらって、自分の中の闘志を出すことができた気がします。
ロ吉 この曲はお世辞抜きに泣きましたね。横浜の先輩方の曲で味わった感動みたいなものを、俺たちも出せるようになったんだと思って。この曲に関しては制作の過程を全然知らなかったんで……。
サ上 余計に客観的に感動できたと(笑)。
ロ吉 めっちゃ大変そうだってのはわかってたんで、余計に泣きました(笑)。
サ上 イントロのSAMI-Tさんのメッセージも、俺の前で録ったんじゃなくて、最後にSAMI-Tさんが入れてくれたんですよね。楽曲の制作は本当に大変だったけど、SAMI-Tさんのメッセージを聴いて、一気に苦労が報われたと思いました。パトワやトースティングじゃないのも余計に響きましたね。本当にSAMI-Tさんからのリアルなメッセージなんだなって。
大人のふざけ方をしていきたい
──地元の戸塚公会堂で行われるはずだった20周年記念ライブも延期になり、社会情勢的にも難しい時期だと思いますが、この先のサ上とロ吉はどうなっていきますか?
サ上 「明るい未来が見えません!」
──「見つけろてめえで!」
サ上 っていう鈴木健想とアントニオ猪木の問答には誰が気付くんだって感じだけど(笑)、コツコツ制作を続けていくしかないなと思ってます。ライブができない分、しっかり制作に向かって、ライブの練習も欠かさずできればなと。
ロ吉 僕も新しいトラックを作り始めてます。
サ上 今回の作品を通じて、俺たち自身がヒーローになる、引っ張る側になるっていう気持ちを出すことができたんで、ライブが復活したら、そういう部分を出すことで、今までとは違う景色とか姿を見せられるんじゃないかな。もちろん、ふざけた曲も出すと思うし、実際ふざけるとは思うんだけど、大人のふざけ方をしていきたいと思います。
ロ吉 もう40歳だし、裸になったら面白いとかそういう時期はとっくに過ぎてますからね。
サ上 ただ面白いんだよなー。大人が裸になってフザケてるのって、逆に(笑)。