「1MC&1DJ、俺たち友達いないぜ」というリリックから始まるデビュー作「ヨコハマジョーカーEP」のリリースから16年、そしてグループ結成から20周年を迎えた2020年7月1日、サイプレス上野とロベルト吉野の新作となる20周年記念盤「サ上とロ吉と」がリリースされた。
ももいろクローバーZ、YOUR SONG IS GOOD、マキタスポーツ、奇妙礼太郎、SAMI-T(MIGHTY CROWN)、AISHA、そして碧棺左馬刻(from「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」)という2次元のアーティストまで、多彩なアーティストとのコラボレーションによって作り上げられた今作は、“友達のいなかった”=“音楽シーンの中でつながりの乏しかった”彼らが、いかに幅広い交友関係を構築し、しっかりとキャリアと重ねてきたかを感じさせる作品となった。
また、2007年発表のアルバム「ドリーム」収録の「Bay Dream~from課外授業~」で「横浜のハズレもん」と自嘲気味に歌っていた彼らが、今作に収められた「YOKOHAMA SKYWALKER feat. SAMI-T from Mighty Crown、AISHA」では、「ハマのホームランバッター」と、自らが地元横浜のヒーローであることを照れることなく高らかに宣言する。ユニットとしての成人式を迎え、シーンの看板、横浜の看板であることを引き受けることを自認した本作での2人の覚悟は強く、清々しい。
音楽ナタリーでは、サ上とロ吉の結成20周年を記念して特集を展開。ダイスケはん(マキシマム ザ ホルモン)、R-指定(Creepy Nuts)、木村昴、Megu(Negicco)、横山剣(クレイジーケンバンド)といった5人のアーティストに「サ上とロ吉とは〇〇〇〇である」というお題に答えてもらい、ジャンルを超えて愛される2人の魅力に迫った。
取材・文 / 高木"JET"晋一郎 撮影 / 沼田学
──サ上とロ吉の20周年を祝うべく、今回は5人のアーティストに「サ上とロ吉とは〇〇〇〇である」というお題を投げて、回答していただきました。まずは、この方から。
サイプレス上野 最初はダイスケはんですか! おお! ありがたい!
──ダイスケはんと接点が生まれたのは?
サ上 プロレスつながりの共通の友人がいて、大日本プロレスの会場で紹介してもらったのが最初ですね。初めて仕事で絡んだのはダイスケはんがMCを務めるスペースシャワーTVの番組「モンスターロック」で、マキシマム ザ ホルモンのアルバム「予襲復讐」特集に出演させてもらったとき。氣志團の綾小路翔さんやSiMのMAH、ONE OK ROCKのTAKAとか、そうそうたるバンドマンの中に変な格好したラッパーが1人ポツンと混じってるっていう。
──ラッパーらしくない格好したラッパーが(笑)。
サ上 バンドマンより派手な格好して(笑)。あと記憶に残ってるのは、OZROSAURUSがRHYMESTER主催のフェス「人間交差点」に出たとき。俺も出演者だったんで出番の合間に楽屋で寝てたら、OZROSAURUS のMACCHOくんとダイスケはんに起こされて「ん? ……えええ!!」って(笑)。OZROSAURUSがバンド編成になったタイミングで、つながりが生まれて一緒に遊ぶようになってたみたいなんですけど、そのときは2人が仲よくなってるのを知らなかったから、ビックリしたっていうか、夢かと思いましたね(笑)。
──吉野さんとダイスケはんのつながりは?
ロベルト吉野 僕個人ではないんですけど、地元・横浜のアンダーグラウンドなロックシーンの人たちとダイスケはんの間に交流があるみたいで、話を伺うと音楽の趣味が幅広くて、すげえ知的好奇心がある人なんだなって。ライブハウスとか音楽産業へのドネーション企画にも積極的に参加してるみたいで、そういう姿勢にもシンパシーを覚えます。
──では「サ上とロ吉は新庄である」というコメントについては、どうですか?
サ上 「中日ドラゴンズの宇野勝である」とかじゃなくてよかったです(笑)。
──ショートフライをおでこに当てて、ピッチャー星野仙一に激ギレされたことでおなじみの(笑)。
サ上 新庄って、突然ピッチャーをやったり、敬遠球を打ってサヨナラヒットにしちゃったり、あと50歳手前になって、プロ野球に再挑戦を表明するのもアツいですよね。そういう存在と俺たちを重ね合わせてくれたダイスケはんの回答は斬新です。自分たちの中にある新庄的な側面には気付いていなかったんで(笑)。あと「裏でしっかり積み上げてる」って書いてくれてるのもうれしいですね。
──そして整形すれば、より完璧だとおっしゃってますが。
ロ吉 新庄みたいに歯もめちゃくちゃ白くしますか(笑)。
──ちなみにホルモンと対バンしたことは?
サ上 同じフェスに出たことは何度かありますね。確かなんかのフェスで時間が被ったことがあって、向こうはデカいステージに出ていて、俺たちは小さいステージで消火器を撒いて主催者に怒られた思い出があります(笑)。
──パフォーマンスで勝負するのではなく、奇行で勝負したと(笑)。
サ上 「ビックリさせたれ!」っていう間違った新庄イズムで(笑)。とにかく爪痕を残してナンボなんで。最近はCreepy Nutsのおかげでフェスの1MC1DJ枠争いも厳しいですし。アイツら「IPPONグランプリ」にもゲストで出るんでしょ?(取材は「IPPONグランプリ」放送前の6月上旬に実施)コメントでツルツルに滑らねえかなー(笑)。
──という流れから、次はCreepy NutsのR-指定さんのコメントを読んでみましょう。
サ上 えっ!?
R-指定
(Creepy Nuts)
サ上とロ吉とは人間代表である
comment
超人や宇宙人ばかりの日本語ラップシーンにおいて人間代表として勝ち残って来た先輩。
数多の泥水をすすり、怪物たちと渡り合い培った、人間にしか出せない味。
人間にしか出来ない闘い方。
その工夫やもつれは、俺のような後続の“人間”にいつも勇気と感動をくれる。
サ上 うん、やっぱイイ奴だな。「IPPONグランプリ」で絶対ウケてほしい!(笑)
ロ吉 しかし、「人間代表」っていうのは生まれて初めて言われましたね。
──「キン肉マン」で言うと、さしずめジェロニモというか(笑)。確かにMACCHOさんとかZEEBRAさんとか、ラップ界には根本的なポテンシャルが超人レベルの人がたくさんいて。
サ上 超人も多いし、奇人変人も多いですからね、ラップシーンは(笑)。その中でいうと、確かに俺と吉野は人間方面だと思いますね。
──Rさんとの出会いは?
サ上 Rとは大阪のイベントで一緒になったのが最初ですね。まだDJ松永とタッグを組む前で。松永も昔から知ってて、彼の1st「DA FOOLISH」、2nd「サーカス・メロディー」にも俺は客演で参加してるんですよ。クラブ界隈でウロチョロしてた時期から知り合いで。
──そんな松永さんも、今では「文學界」でエッセイを書くまでになって。
サ上 すげえトコいってんな(笑)。でもRの話に戻ると、アイツこそ超人ですよ。ラッパーとして実力があることは昔からわかってたけど、とにかく不遇な時代が長くて。Rが「ULTIMATE MC BATTLE」の全国大会で3連覇した当時は、MCバトルはマニアやヘッズが集まるイベントだったから、大会で優勝してソロアルバム(2014年リリースの「セカンドオピニオン」)を出してもいまいちハネなくて。「こんなにスキルを持ってるのに、世の中や音楽シーンの中では全然知られなくてかわいそうだな」と思ってましたけど、松永と組んでCreepy Nutsとして活動を始めたら、あれよあれよという間に日本武道館ワンマンまで行っちゃって。やっと花咲いたなって感じがしますね。
──MCバトルブームとその助勢を受けた「フリースタイルダンジョン」では、お互いモンスターとして共演していましたね。
サ上 番組開始当初の俺、R、漢(a.k.a. GAMI)くん、T-PABLOW、般若くんっていうモンスターチームの結束力はすごかったし、Rはそこでチームの参謀的な存在だったんですよね。アイツは勝ったときの褒め方がめちゃくちゃうまくて。
──ノセてくれると(笑)。
サ上 「完璧っすわ!」「あそこで上野さん負けてたら、そのまま全員イカれてましたわ!」って。それを聞くと「よし、次もがんばろう!」って思えるんですよ(笑)。それが、今やRは「ダンジョン」のラスボスを般若くんから受け継いで。しかも、ちゃんとその資格がある男ですからね。でも1つ言っとくと、Rとのバトルの戦績は1勝0敗で、俺が勝ち越してるんで(笑)。
──松永さんが「DMC」の世界大会で優勝したとき、同じターンテーブリストとして吉野さんはどんな思いでしたか?
ロ吉 そのときはサ上とロ吉のライブで上海にいたんですけど、優勝の報せを聞いたときは思わずビールを一気飲みしましたね。
サ上 「おめでとう」なのか「悔しい」なのか、どっちなんだよ、その一気飲み(笑)。
ロ吉 いろんな感情が混ざっちゃって、完全に“1人「DMC」”ですよ。
サ上 どういう意味だよ。単に1人で酒飲んでただけだろ!(笑)
ロ吉 まあ、そうなんですけど(笑)。「世界が変わった!」って、その瞬間を味わわせてもらいましたよ。でも「俺たちもライブは負けないぞ」と。
サ上 ちょうど、上海でライブしてたしね。「こっちも世界で勝負してるんだぞ」って(笑)。
ダイスケはん
(マキシマム ザ ホルモン)
サ上とロ吉とは新庄である
comment
敬遠球をサヨナラヒット、オールスターでホームスチールなど「新庄は何かやってくれるんじゃないか!?」というワクワク感が彼らにもある。少年が遊んでるかのようなプレイスタイルでありながら、裏でしっかり積み上げてるからこそなせる匠な技の数々も新庄イズム。あとは彼らが整形すれば新庄要素はコンプリート。名実ともに“HIPHOP界の新庄剛”の誕生。「サイプレス新庄とロベルト剛」の誕生を心待ちにしてます。