Saucy Dog|前作から約1年、より3人の呼吸を合わせて完成した1枚

Saucy Dogが9月2日に4thミニアルバム「テイクミー」をリリースした。

本作には6月に配信リリースされた楽曲「BLUE」や、Hondaのプロジェクト「バイクに乗っちゃう?MUSIC FES.」とのコラボレーションによるミュージックビデオが制作された疾走感あふれる楽曲「シーグラス」、CDのみに収録されるボーナストラック「寝ぐせ」など計8曲を収録。リアリティのある歌詞や、豊かな感情を内包したサウンドなど、Saucy Dogの魅力がさらに磨かれた作品に仕上がっている。

Saucy Dog は9月から10月にかけてはワンマンツアー「Saucy Dog One-man tour 2020『We will take you』」、2021年2月には東京・日本武道館にて初のワンマンライブ「Saucy Dog one man live『send for you』」を行う。さらに2020年6月に実施予定だった対バンイベント「サバイブエピソード」の“リベンジ公演”として、2021年2月に東京・日本武道館、3月に大阪・なんばHatchで「リベンジエピソード」と題した公演の開催も控えている。音楽ナタリーではメンバー3人に「テイクミー」の制作エピソードや日本武道館公演への意気込み、新型コロナ禍においてのライブに対する思いを聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 山口真由子

ライブ1本に対する思いが変わった

──まずは2020年前半を振り返ってみたいと思います。ライブを活動の中心に置き、毎年100本以上のステージを重ねてきたSaucy Dogにとっては、すごくキツい時期だったんじゃないでしょうか。

石原慎也(Vo, G)

石原慎也(Vo, G) ライブがこれだけない状況は初めてですからね。最初は「まあ、すぐにやれるようになるだろう」と思っていたんですけど、ぜんぜんそうじゃなくて。不安はありました。

せとゆいか(Dr, Cho) 緊急事態宣言が出て、本当にいつライブができるかわからなくなって。Saucy Dogはライブを活動の中心にしていたので、「生でライブができない時代になったら、それでも自分はバンドを続けるんだろうか?」ということまで考えました。でも、レコーディングが始まったり、配信ライブが決まったりして、少しずつ大丈夫かなと思えるようになって。

秋澤和貴(B) うん。3月から5月まではひと月が長くて、不安な気持ちもあったんですけど、自分の演奏を見直す機会にもなったので。

せと メンバーとも「今、何ができるか」ということを話してましたね。

石原 ライブができないとお客さんに忘れられる気がしてたんですよね。自分たちでできることを考えて、以前よりもSNSを更新するようになったり。ライブを再開したときに、また会場に足を運んでほしいですからね。

──夏フェスもないですからね。

石原 そうですよね。ここ3、4年くらいは夏フェスにも出させてもらえるようになって、今年も出られるもんだと思ってたから。

秋澤 そのぶん、ライブ1本に対する思いは変わってきましたね。

せと うん、変わった。ライブをいっぱいやってた時期は、「毎回、いいライブをしなくちゃ」という感覚だったんです。でも、この前ひさしぶりにイベント(8月に大阪・大阪城ホールで行われたライブイベント「Osaka Music DAYS!!! THE LIVE in 大阪城ホール」)に出させてもらったとき、お客さんの前で演奏できること自体がうれしくて楽しくて、「いいライブをしなくちゃ」ってまったく思わなかったんですよ。ライブって本来、それでいいんじゃないかなって。

寄り添える「BLUE」

──6月には、4thミニアルバム「テイクミー」の収録曲でもある新曲「BLUE」が、ミニアルバム発売に先駆けて配信リリースされました。

石原 去年の秋に書いた曲です。同じ時期に「テイクミー」の収録曲を3曲くらい録ってたんですけど、その中から先に配信しようという話になって。俺は「猫の背」という曲がいいかなと思ってたんだけど、ゆいかやスタッフは「BLUE」がいいと。

秋澤 僕も「猫の背」を推してました(笑)。曲調的にもポップだし、こっちがいいかなって。

──意見が分かれてたんですね(笑)。

せとゆいか(Dr, Cho)

石原 ゆいかが説得してくるんですよ(笑)。

せと そりゃそうでしょ(笑)。「BLUE」のほうがいい曲ということではなくて、「猫の背」は日常的な曲というか、日々の暮らしを後押ししてくれるような感じで。「BLUE」は非日常じゃないけど、コロナ禍の中で感じたいろんな思いだったり、人と人が離れている状況にも寄り添える曲だなと思ったので。変に明るく励ますよりも、自分たちも苦しんでるということも伝えながら寄り添える曲というか。

──「運命なんか知らない 僕らで作ればいいや」という歌詞もそうですが、今の状況の中で響くフレーズが詰め込まれていて。

石原 この曲は「誰かに響いてほしい」と思って作った曲ではないんですよ。心が沈んでいたときに、自分に向けて書いたので。息苦しかったこと、しんどかったことを後悔してもなんの意味もないなって……。そういう曲がいろんな人に届いて、サブスクのチャートで1位になって。作ってよかったなと思いましたね。

──石原さん自身も救いになった?

石原 そうですね。月並みな言葉だけど、自信につながるというか。自分がしんどかったときに書いた曲に共感してくれる人がいて、いいと評価してくれる人がこれだけいるというのは、単純に「もっとがんばろう」と思えるので。モチベーションが上がりますね。

今までで一番好きな歌詞

──では「テイクミー」について。今回はじっくり歌を聴かせるミディアムテンポの曲が多いですね。

石原 確かに。最初からそうしようと思っていたわけではないんですけど。

せと 最初にコンセプトを決めたことはないんですよね、これまでも。制作しながらバランスを取るというか。今回は途中で「さすがにアップテンポが少なくない?」となって。

石原 で、1曲目の「シーグラス」や「雷に打たれて」を作って。「シーグラス」はバイクの企画(Hondaのプロジェクト「バイクに乗っちゃう?MUSIC FES.」)とのコラボでミュージックビデオを作る予定があったから、バイクの疾走感が感じられるようなさわやかな曲がいいな、と。あとはメンバーとイメージを共有しながら制作しました。

──抽象的なイメージをやり取りしながらアレンジを作ることが多い?

石原 そうですね。俺、学生のときに吹奏楽部だったんですよ。吹奏楽部は「ここは街の雑踏みたいな雰囲気で」「海に入っていくような感じ」みたいな話をしながら表現することが多くて。そのときの記憶があるから、Saucy Dogでもそういう言い方をしちゃうんですよね。

秋澤和貴(B)

秋澤 「BLUE」のときも言ってたよね。船に乗って……。

せと 川を下って海に出ていくイメージで、って(笑)。「そういう感じなので、よろしく!」っていう。

石原 ははは(笑)。ほかにうまい言い方ができないんですけど、想像はしてもらえるかなって。

せと 確かにイメージしやすいし、自然に表現できてますね。

──デモ音源をきっちり作るのではなく、イメージを元にしてセッションしながら制作するのはすごくバンドらしいですよね。

石原 確かに。ギターと歌だけを送って、アレンジを考えてもらって、スタジオで合わせて。ずっとその作り方なので。

秋澤 早い段階でイメージが一致することが増えてるんですよ。2人も気になることがあったらすぐに言ってくれるし。

せと うん、自然に合うようになってますね。以前はきっちり土台を作ってからじゃないとうまくいかなかったんだけど、最近はセッションのノリで作れるようになってきた。2人の演奏をスタジオで聴きながら、「ここを盛り上げてみようかな」とやってみたら、しっかり合わせてくれたり。

石原 音を切るタイミングとかね。前は全然合わなかったけど。

せと そうね(笑)。やっぱりバンドを続けている中で感覚が近くなったんだと思います。それぞれがやりたいことやセンスに対する信頼も増えた気がしますね。前は意見がぶつかってたけど、信頼関係が深まったことで、「そのアイデアもいいな」と思えるというか。

秋澤 その経緯があったから、今回の作品ができたんだと思います。今まで以上にまとまって聴こえる。僕も無駄な音を弾かなくなったんじゃないかなと。

せと 私もそうかも。歌のパートは、後ろに下がるというか。歌がないところで何かアレンジするっていう。

石原 緩急が付けられるようになったよね。

Saucy Dog

──歌を引き立てる演奏ですよね。

せと ありがとうございます。それは意識してますね。

石原 今までの歌詞で一番好きなんでしょ?

せと 好き好き(笑)。バンドマンって、音楽的なところにこだわる方が多いと思うんですけど、私は歌詞も好きで。歌詞を読みながら音楽を聴くのもすごく好きなんですよ。慎ちゃんの歌詞は1曲の中でしっかり完結しているし、物語を読んでいるみたいで楽しいんですよね。

石原 そう言われると気持ちいいですね(笑)。

秋澤 僕はまったく逆で、歌詞の内容よりも音楽的な部分やメロディに注目することが多くて。

石原 よく「メロディがいい」って言ってくれるんですよ、和貴は。