音楽ナタリー Power Push - 佐藤聡美

“初期”衝動ではなく“今”だから歌えるビートパンク

「ミライナイト」があれば大丈夫

──このアルバムでもう1つ気になったのが5曲目、デビューシングル「ミライナイト」以降の新録曲で。「虹色のプレリュード」は懐かしくて温かい思い出や景色を胸に前に進もうと歌うミディアムテンポの1曲で、「夏のカケラ」は「Sweet! Sweet!! Sweet!!!」の系譜にあるブラスパンクチューン。で「追憶の果実」は……。

佐藤聡美「しゅがちゅん。~星たちの宴~」の様子。

どバラード(笑)。

──ですね(笑)。そして「OVERHEAD」は「虹色のプレリュード」とある種同じ。タイトル通り“オーバーヘッド=頭上=空の上”を目指してはいるんだけど言葉と音はすごくハードで、続く「Smile Cracker」は明るいバースデーソング。どれもパンクベースではあるもののバラエティに富ませましたよね。

振り返ればそこに「ミライナイト」があるっていう構成にすれば何を歌っても大丈夫かなって思ったので。「ミライナイト」以降の曲で遊んでみたら「あっ、この人はこの曲を原点に少なからず成長しているんだな」「いろいろなアプローチをしているんだな」って感じてもらえるんじゃないかって。

──確かにどの曲も「『ミライナイト』以降」の曲というか、トーンやマナーはどこか通底していますよね。

それはどの曲も大枠を決めたのが私だからなんだと思います。ディレクションっていうわけではないんですけど、大まかな希望をスタッフから作家さんに伝えてもらって曲を作ってもらっているので。

──実際にどういうオーダーを?

まず7月からツアーが始まるのでライブで盛り上がれる曲っていう大前提があって。その上で「ブラスの入ったスカっぽい曲を歌いたい」っていうお話をして「夏のカケラ」を、「カッコいい系のロックを」ってお願いをして「OVERHEAD」を作っていただいたりとか。「OVERHEAD」は歌入れ直後に聴き直したときには「これ、ホントに私が歌ってるのかな?」って思っちゃったくらい異色の1曲なんですけど、作曲・編曲の工藤(嶺)くんがちゃんとカッコよく、でも佐藤聡美っぽく仕上げてくれてますし。あと「追憶の果実」は「言えなかったごめんね」っていうキーワードをもとに作っていただいてます。友達だったり、家族だったり、恋人だったりに、つい謝れなかったことって誰にでもあるはずだから、そのことを歌ってみたくて。で「虹色のプレリュード」は「懐かしい景色」がキーワード。やっぱり誰にでもあるはずの懐かしい景色を思い浮かべてほしいなって思って、エンドウ.さんに詞と曲を書いてもらいました。

佐藤聡美「しゅがちゅん。~星たちの宴~」の様子。

──で、楽曲のテイスト同様、佐藤さんのボーカルスタイルもバリエーション豊かですよね。

確かに歌い方については考えました。例えば「追憶の果実」は気持ちを込め過ぎないことを意識してみたりとか。気持ちを込め過ぎると私だけの歌になってしまう。誰にでも当てはまる心のしこりについての曲だから、みんなが感情移入できる余地を残そうと思って、フラットめに歌ってますし。

──「虹色のプレリュード」もわりとフラット。ヘンにノスタルジックな歌い方はしてないですもんね。だけどバースデーソング「Smile Cracker」では……。

やたらとキャッキャして(笑)。抽象的な言い方になってしまうんですけど、アルバムのどの曲も中身のあるものにしたかったんです。演技もそうなんですけど、ツンデレキャラだからツンツンしてればいいってものでもないし、元気キャラだからとりあえず声を張ればいいってものではなくて。当たり前なんですけど、ツンツンする理由、元気でいる理由を掘り下げつつ、アニメを観ている人たちにどう感じてもらいたいのか、その意図を明確にしておかないと、芝居がすごく薄っぺらくなるし、単に押しつけがましくなってしまうんです。かわいくはない、ただただツンツンしてるなんかイヤなキャラ、元気キャラではなくて単にうるさいだけのキャラに見えるというか。それは歌も同じで、例えば「追憶の果実」が切ない曲だからといって、私が感じる切なさだけをぶつけても誰にも伝わらないと思ったんですよね。

聴いているみんなを巻き込むボーナストラック

佐藤聡美「しゅがちゅん。~星たちの宴~」の様子。

──そして通常盤のボーナストラック「Brave Morning!!」のスタジオライブバージョンなんですけど、なんで前半2分半、佐藤さんとしゅがぁずの面々はショートコントともエチュードとも言いがたい雑談のようなものを?

私が言うこっちゃないんですけど、あれ、長いですよね(笑)。当初の予定ではライブのオーバーチュアとして使っている「S」「U」「G」「A」「R」っていうコールのあいだ「よっしゃいくぞ!」みたいな声を上げつつ、演奏に入るつもりだったんですけど、あれを録ったのが去年のクリスマスイブ。ちょうど原宿でのライブの直後で……。

──佐藤さんがエンドウ.さんを軽くDisり、太巻きにチョコクリームを塗ったくったあのライブ?

そうですそうです(笑)。レコーディングの頃はまだあのテンションを引きずっていたのと、あとイブだっていうことでメンバー一同半ばヤケクソだったというか……。

──それでついコントみたいなことに興じてみた、と(笑)。

でも最初の一体感の話じゃないんですけど、聴いているみんなを巻き込みたかったからこれはこれでいいかな、って(笑)。普段、私たちはこういう雰囲気でレコーディングやライブをしてるんですよ、って知ってもらえると思いますし。初めてスタジオライブバージョンをボーナストラックとして収録したのは「☆」で、そのときはディレクターが「『ミライナイト』のスタジオライブを収録しましょう」って言い出したから入れてみたっていう感じだったんですけど、今では自分自身すごく楽しみで。もし次のアルバムをリリースすることになったら、今度はどの曲にしようかな?なんて考えてますし。

ニューアルバム「Fanfare」/ 2015年6月10日発売 / スターチャイルド
初回限定盤 [CD+DVD] 4212円 / KICS-93190
通常盤 [CD] 3132円 / KICS-3191
CD収録曲
  1. 未完成の地図
    [作詞:内田直孝(Rhythmic Toy World) / 作曲・編曲:川原祥太]
  2. 紙ヒコーキ舞うこの場所で
    [作詞・作曲・編曲:楠瀬タクヤ]
  3. I am a cloudy girl
    [作詞:佐藤聡美 / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  4. 君のとこまで
    [作詞:Uki(SHAKALABBITS) / 作曲:MAH(SHAKALABBITS) / 編曲:SHAKALABBITS]
  5. ミライナイト
    [作詞:moyu / 作曲:KEYTARO / 編曲:Coral Echo]
  6. 虹色のプレリュード
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  7. 夏のカケラ
    [作詞:eNu / 作曲・編曲:R・O・N]
  8. 追憶の果実
    [作詞:坂詰美沙子 / 作曲:山口朗彦 / 編曲:大久保薫]
  9. stella message
    [作詞:eNu / 作曲:AKI-KAN / 編曲:菊谷知樹]
  10. OVERHEAD
    [作詞:hotaru / 作曲・編曲:工藤嶺]
  11. Smile Cracker
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  12. Le jour
    [作詞・作曲:善智 / 編曲:菊谷知樹]
  13. Brave Morning!! -Studio Live ver.-(※通常盤のみ収録)
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
初回限定盤DVD収録内容
  • 佐藤聡美 1st Tour「しゅがちゅん。~☆を集めにいくツアー2014~」ファイナル(東京公演)本編
  • メイキング映像
佐藤聡美(サトウサトミ)

宮城県仙台市出身の女性声優、ボーカリスト。2007年に声優デビューを果たし、2008年にはアニメ「地獄少女 三鼎」の御景ゆずき役、2009年からは「けいおん!」シリーズの田井中律役を務め、知名度を全国区のものにする。また「けいおん!」シリーズの劇中バンドにして、出演声優陣で結成された放課後ティータイムが歌う楽曲は軒並みビッグヒットを記録し、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでのライブ「けいおん!!ライブCome with Me!!」に出演。以降も人気アニメの主要キャストを歴任する一方で、2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビューし、同年6月には安野勇太(HAWAIIAN6)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)、locofrankらが参加する1stミニアルバム「☆」(スター)をリリースした。また2014年10月にはアニメ「失われた未来を求めて」のオープニングテーマ「Le jour」を、2015年2月にはデビュー1周年を記念して配信限定シングル「stella message」を発表。そして同年6月に楠瀬タクヤ(Sabao、ex. Hysteric Blue)、SHAKALABBITSの提供曲などを収録した初のフルアルバム「Fanfare」を発売した。