音楽ナタリー Power Push - 佐藤聡美
“初期”衝動ではなく“今”だから歌えるビートパンク
「飛んでくれれば一番うれしいけど、飛ばない自由もあるよ」
──確かに「紙ヒコーキ舞うこの場所で」も「君のとこまで」もシンプルとはいえ、楽器を始めたばっかりの高校生バンド的なノリ、「初期衝動で作りました!」っていう曲ではないですよね。
私が直接タクヤさんやシャカラビさんに「等身大の佐藤聡美のイメージで」ってお願いしたわけではないので、なぜこういう曲を書いていただけたのか、実はよくわかってないんですけど(笑)、ただタクヤさんとは今回が「初めまして」じゃないんですよ。
──あっ、そうなんですか?
2013年の「ゴールデンタイム」というアニメのイベントで私がキャラクターソングを歌うときにタクヤさんがドラムを叩いてくださっていて。そのときに少しお話させていただいたので、そのときのイメージで書いてくださったのかなあ、とも思うんですけど、でもタクヤさんとシャカラビさんにはビックリさせられました。例えば「紙ヒコーキ舞うこの場所で」であれば、「がんばれよ!」ってグイグイいくわけではなくて、背中をポンポンって軽く叩きながら「大丈夫だよ」って言ってあげている感じ。あくまで走り出すきっかけを与えるだけというか、強すぎない応援ソングになってるのがすごく“等身大の佐藤聡美”らしかったので。
──なんなら走り出さないことを許してくれそうな気もしました。
「自由に飛んでいいんだよ」って言ってますもんね(笑)。それがヘンに子供っぽくなりすぎない感じがした理由、“等身大の佐藤聡美”っぽかった理由なんです。今の私なら「飛んでくれれば一番うれしいけど、飛ばない自由もあるよ」って言えると思うので。でもきっと、声優としてデビューしたばっかりの私にはもちろん、去年の私には歌えなかったはずなんですよね。
──なんでこの1年で歌えるようになったんだと思います?
去年の夏の「☆」を出したあとのツアーが終わったとき、ひと皮むけた感じがしたからですね。あのツアーを成功させられたから吹っ切れることができたというか「今の私なら肩の力を抜いて振る舞っても大丈夫だな」って思えた。それこそ「紙ヒコーキ舞うこの場所で」のように「自由に飛んでいいんだ」とも思えたんです。
「あっ、私って根っからの役者なんだな」
──で、もう1つのリード曲「君のとこまで」は作詞がSHAKALABBITSのUkiさんで、作曲がMAHさん、アレンジがバンド名義ですけど、演奏は?
シャカラビさんですね。
──あっ、やっぱり。音像はまさにシャカラビですもんね。ドラム、ベース、ギターの編成でできないことは一切やらないんだけど、できることに関しては120%の力とスゲー音圧でやりきるという。
あはははは(笑)。でもUkiさんの詞はシャカラビワールド全開でありながら、今の私が過去の私と未来の私と向き合う、やっぱり“等身大の佐藤聡美”を歌ったものにしてくださっていて。
──ただこの詞が面白いのがヒロインの心情をモロに描きはしない。基本的に風景の移り変わりと時間の経過しか歌ってないんですよね。「海岸線を走るバスに揺れながら」とか「泳ぐ鳥見つめて 燃えるような景色を待っていた」って感じで。
それなのにちゃんといろんな経験をした上でまた改めて、ファンの方であったり、それから友達や家族のような懐かしい人たちに会いに行く歌になっているのが、本当にステキだなと思ってます。しかも、この曲って歌いやすかったんですよ。レコーディングのとき、Ukiさんが「このパートは過去の聡美ちゃんが見ている風景で、こっちは未来の聡美ちゃん」って細かくディレクションをしてくださったので。
──「☆」収録の「魔法のようなもの」について「ひきこもりの歌です!」「それと少年ジャンプみたいに歌ってください!」って斬新すぎるアドバイスをしたHAWAIIAN6の安野(勇太)さんとは大違い(笑)(参照:佐藤聡美 1stミニアルバム「☆(スター)」インタビュー)。
ふふふふふ(笑)。あの安野さんのアドバイスは、私が「魔法のようなもの」に抱いていたイメージを明確に言葉にしてくれたからすごく助かったんですけど、確かに違いましたね。Ukiさんが景色やキャラクターの立ち位置を明確にしてくれたおかげでお芝居をしているときに近い感覚で歌えましたから。
──それって佐藤さんにとっては新しいアプローチですよね。以前「アーティストデビューする以上、“声優が音楽をやっている”という態度ではなく、いちアーティストとして音楽に取り組みたい」と言っていたわけですから。でも今回は声優として手に入れた技術も動員した。
音楽活動を続けているうちに「あっ、私って根っからの役者なんだな」っていうことに気付かされることが多かったので。
──アーティスト活動をしていて自らの役者魂みたいなものに気付かされた?
はい。声優としてキャラクターソングを歌う中で培ってきたものがパワーを発揮することが多かったんです。たとえ自分の曲であっても、キャラクターソングを歌うときのように曲の主人公の気持ちに寄り添って、そこに描かれている風景の中でその主人公はどう振る舞うのか? どういう声を出すのか?をイメージしながら歌ったほうがディレクターのOKが出やすかったりとか(笑)。それって、“アーティスト佐藤聡美”としては「お前は結局のところ声優である」という現実を突きつけられたということでもあるんですけど「まっ、いいかな」って(笑)。
──これまたざっくりとした結論を(笑)。
でも声優であるということは佐藤聡美にとって大事な側面ですから。だから「結局声優だった」と落ち込むのではなくて、声優だからこそ手にできた武器を使っていくべきだろうなって思えるようになったんです。
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- ニューアルバム「Fanfare」/ 2015年6月10日発売 / スターチャイルド
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4212円 / KICS-93190
- 通常盤 [CD] 3132円 / KICS-3191
CD収録曲
- 未完成の地図
[作詞:内田直孝(Rhythmic Toy World) / 作曲・編曲:川原祥太] - 紙ヒコーキ舞うこの場所で
[作詞・作曲・編曲:楠瀬タクヤ] - I am a cloudy girl
[作詞:佐藤聡美 / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - 君のとこまで
[作詞:Uki(SHAKALABBITS) / 作曲:MAH(SHAKALABBITS) / 編曲:SHAKALABBITS] - ミライナイト
[作詞:moyu / 作曲:KEYTARO / 編曲:Coral Echo] - 虹色のプレリュード
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - 夏のカケラ
[作詞:eNu / 作曲・編曲:R・O・N] - 追憶の果実
[作詞:坂詰美沙子 / 作曲:山口朗彦 / 編曲:大久保薫] - stella message
[作詞:eNu / 作曲:AKI-KAN / 編曲:菊谷知樹] - OVERHEAD
[作詞:hotaru / 作曲・編曲:工藤嶺] - Smile Cracker
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - Le jour
[作詞・作曲:善智 / 編曲:菊谷知樹] - Brave Morning!! -Studio Live ver.-(※通常盤のみ収録)
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
初回限定盤DVD収録内容
- 佐藤聡美 1st Tour「しゅがちゅん。~☆を集めにいくツアー2014~」ファイナル(東京公演)本編
- メイキング映像
佐藤聡美(サトウサトミ)
宮城県仙台市出身の女性声優、ボーカリスト。2007年に声優デビューを果たし、2008年にはアニメ「地獄少女 三鼎」の御景ゆずき役、2009年からは「けいおん!」シリーズの田井中律役を務め、知名度を全国区のものにする。また「けいおん!」シリーズの劇中バンドにして、出演声優陣で結成された放課後ティータイムが歌う楽曲は軒並みビッグヒットを記録し、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでのライブ「けいおん!!ライブCome with Me!!」に出演。以降も人気アニメの主要キャストを歴任する一方で、2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビューし、同年6月には安野勇太(HAWAIIAN6)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)、locofrankらが参加する1stミニアルバム「☆」(スター)をリリースした。また2014年10月にはアニメ「失われた未来を求めて」のオープニングテーマ「Le jour」を、2015年2月にはデビュー1周年を記念して配信限定シングル「stella message」を発表。そして同年6月に楠瀬タクヤ(Sabao、ex. Hysteric Blue)、SHAKALABBITSの提供曲などを収録した初のフルアルバム「Fanfare」を発売した。