音楽ナタリー Power Push - 佐藤聡美
“初期”衝動ではなく“今”だから歌えるビートパンク
アニメ「けいおん!」シリーズの田井中律役などで知られる声優・佐藤聡美の1stフルアルバム「Fanfare」がリリースされた。
佐藤は2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビューを果たして以来、安野勇太(HAWAIIAN6)、森勇介(locofrank)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)らが参加したミニアルバム「☆」や、アニメ「失われた未来を求めて」のオープニングテーマ「Le jour」など、話題作をコンスタントに発表してきた。そんな彼女の初のフルアルバムはビートパンク仕立て。楠瀬タクヤ(Sabao、ex. Hysteric Blue)やSHAKALABBITSらを作家陣に迎え、小気味いいビートに乗せて、曰く「等身大の佐藤聡美」ならではのメッセージを届ける1枚を作り上げている。
名うてのアーティストらとテクニカルなアレンジを聴かせるミニアルバム「☆」を作り上げた佐藤が今、シンプルな直球勝負に打って出た理由とは? 彼女に聞いた。
取材・文 / 成松哲 ライブ撮影 / 釘野孝宏
ステージも客席も一体となって和気あいあいと
──佐藤さんのライブってサポートバンドしゅがぁずの一体感、言うなれば“バンド感”がハンパないなと思っていて(参照:佐藤聡美、春の赤坂で“星”たちと繰り広げた笑いと涙の“宴”&“大冒険”)。
ホントですか? ありがとうございます!
──でもパーマネントなバンドではないからこの一体感はなんなんだろう?って不思議でもあるんです。佐藤さんはすごい人心掌握術を持ってるのかな?って。
あるのかなあ?(笑) ただずっと一緒ではないとはいってもメンバーとはもう1年以上活動していますし、あとファンの方がバンドメンバーのこともすごく好きでいてくれるんですよね。
──ヘタするとエンドウ.(G / GEEKS)さんやレフティモンスター(Key)さんのほうが佐藤さんより声援を集める瞬間がありますよね。
そうそうそう。「あれっ? みんな私のこと忘れてる?」っていう瞬間が多々あって(笑)。そうやってお客さんがグイグイきてくれるからステージの上の私たちにも一体感が生まれる。それもヘンな内輪ノリではなく、ステージも客席も巻き込んで和気あいあいとできるし、すごく朗らかでいられるんじゃないかなって思ってます。
──ただ佐藤さんがバンドメンバーをフィーチャーしない限り、ファンも彼らに対してグイグイいこうとは思わない。実際、佐藤さんはライブ中にメンバーのことをイジり倒すし(笑)、そこには何か意図があるんじゃないかなって思うんですけど。
確かにデビューのときに「バンドサウンドをやるんだ」って決めたからには、佐藤聡美とバンドの間に隔たりを設けたくないなっていう気持ちはあります。だからステージ上でもちゃんとコミュニケーションをとっていきたいなとは思っていて。それに「1年以上活動している」とは言うものの、“まだ1年”でもあって。私自身はライブ慣れしてはいないですから。でもエンドウ.さんもレフティくんもかっしー(カシムラトモヤ / B)もICCHAN(Dr)も百戦錬磨。だったらみんなに任せたほうがもっとライブが楽しくなるはずっていう信頼感もありますし。実際、私が上手のほうでお客さんを盛り上げてると、レフティくんが下手のほうに出てきてくれて……。
──あの人、チョイチョイ、キーボードの前を離れては踊ってますよね(笑)。
そうなんですよ(笑)。でもレフティくんに限らず、メンバーが「バンドサウンドをやりたい」「バンドと一緒に音楽を作りたい」っていう私の思いを汲んで盛り上げてくれるからステージも客席も巻き込んだ佐藤聡美のライブができるのかなとは思ってます。
“等身大の佐藤聡美”の目指すパンクチューン
──で、なんでこんなことを聞いたかっていうと、今回のアルバム「Fanfare」ってそのライブ同様バンド感がハンパないなと思ったからなんです。
ああ、確かに。
──基本的にシンプルなビートパンクナンバー中心だから「みんなで『いっせーのせ!』で音を鳴らしてる感」がすごく強いんですよね。ただ、このシンプルさが佐藤聡美を巡る議論を複雑にしている気もするんですね。
そうですか?
──1stミニアルバムの「☆」はパンクアルバムだったとはいえ複雑なアンサンブルを見せつける楽曲が多かったし、続くシングルの「Le jour」は……。
ワルツで(笑)。
──そして今年2月の配信限定シングル「stella message」は……。
転調、転調、また転調(笑)。
──しかもリズムチェンジ、リズムチェンジ、またリズムチェンジな1曲でした(笑)。だからこそ「Fanfare」のド直球感にビックリしたんです。
でも「佐藤聡美の音楽=ストレートなパンク」っていうイメージは私もそうですし、スタッフやしゅがぁずのバンマスのエンドウ.さんの中にもあったみたいで。今回は(楠瀬)タクヤさんに作っていただいた「紙ヒコーキ舞うこの場所で」とSHAKALABBITSさんの「君のとこまで」をリード曲に選ばせていただいたんですけど、以前からスタッフとエンドウ.さんは「タクヤさんもシャカラビさんも佐藤聡美が目指す音楽に近い楽曲をたくさん持っている方たちだから、いつか曲を書いてもらえたらいいですよね」って言ってましたから。この2曲をリード曲に選んだのは本当に最後の最後ではあったものの、タクヤさんとシャカラビさんの存在が今回のアルバムのカラーを決めた1つの理由になっている気はしています。
──なんでこの2曲をリード曲に? 最後の最後に決めたということは「有名人が書いた曲だから」みたいな理由ではなさそうですけど。
そうですね。曲が出そろったところでスタッフと人気投票をして決めたんですけど、どちらも“等身大の佐藤聡美”の姿に重きを置いて書かれているのがすごくよくて。どっちもシンプルで直球なサウンドではあるんだけど、子供っぽくはないし、逆にヘンな背伸びもしていない。一昨年の年末にアーティストデビューすることを発表して(参照:“レベル1の勇者”佐藤聡美、“勇者の剣”を手にソロデビュー)、この1年半でいろいろな経験を重ねてきた今の私だから歌える曲だなって思ってます。
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- ニューアルバム「Fanfare」/ 2015年6月10日発売 / スターチャイルド
- 初回限定盤 [CD+DVD] 4212円 / KICS-93190
- 通常盤 [CD] 3132円 / KICS-3191
CD収録曲
- 未完成の地図
[作詞:内田直孝(Rhythmic Toy World) / 作曲・編曲:川原祥太] - 紙ヒコーキ舞うこの場所で
[作詞・作曲・編曲:楠瀬タクヤ] - I am a cloudy girl
[作詞:佐藤聡美 / 作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - 君のとこまで
[作詞:Uki(SHAKALABBITS) / 作曲:MAH(SHAKALABBITS) / 編曲:SHAKALABBITS] - ミライナイト
[作詞:moyu / 作曲:KEYTARO / 編曲:Coral Echo] - 虹色のプレリュード
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - 夏のカケラ
[作詞:eNu / 作曲・編曲:R・O・N] - 追憶の果実
[作詞:坂詰美沙子 / 作曲:山口朗彦 / 編曲:大久保薫] - stella message
[作詞:eNu / 作曲:AKI-KAN / 編曲:菊谷知樹] - OVERHEAD
[作詞:hotaru / 作曲・編曲:工藤嶺] - Smile Cracker
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)] - Le jour
[作詞・作曲:善智 / 編曲:菊谷知樹] - Brave Morning!! -Studio Live ver.-(※通常盤のみ収録)
[作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
初回限定盤DVD収録内容
- 佐藤聡美 1st Tour「しゅがちゅん。~☆を集めにいくツアー2014~」ファイナル(東京公演)本編
- メイキング映像
佐藤聡美(サトウサトミ)
宮城県仙台市出身の女性声優、ボーカリスト。2007年に声優デビューを果たし、2008年にはアニメ「地獄少女 三鼎」の御景ゆずき役、2009年からは「けいおん!」シリーズの田井中律役を務め、知名度を全国区のものにする。また「けいおん!」シリーズの劇中バンドにして、出演声優陣で結成された放課後ティータイムが歌う楽曲は軒並みビッグヒットを記録し、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでのライブ「けいおん!!ライブCome with Me!!」に出演。以降も人気アニメの主要キャストを歴任する一方で、2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビューし、同年6月には安野勇太(HAWAIIAN6)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)、locofrankらが参加する1stミニアルバム「☆」(スター)をリリースした。また2014年10月にはアニメ「失われた未来を求めて」のオープニングテーマ「Le jour」を、2015年2月にはデビュー1周年を記念して配信限定シングル「stella message」を発表。そして同年6月に楠瀬タクヤ(Sabao、ex. Hysteric Blue)、SHAKALABBITSの提供曲などを収録した初のフルアルバム「Fanfare」を発売した。