ナタリー PowerPush - 佐藤聡美

過去の言葉と今の言葉で追う! “謎多き女”しゅがぁの正体

この状態、ものすごく珍しいぞ

──“佐藤聡美”を消すことが楽しかった佐藤さんが、その“佐藤聡美”名義でデビューしようと思ったのはなぜなんでしょう? しかも過去の発言を追うとデビューの話は何回かあったんですよね。

HTTとして歌ったりドラムを叩いたりしているときから、お話はいただいていたんですけど「何も私が歌わんでも」だったので(笑)。お断りしていたし、ここ数年は「『けいおん!』のメインキャストでCDデビューしていない最後の1人」みたいな言い方をされることもあって。本音を言ってしまうと「なんか面倒くさいなー」って気持ちもありました(笑)。

──あはははは(笑)。であればなおのこと謎なんですけど、なぜこのタイミングでデビューを?

2年くらい前からキャラソンを歌うための勉強の一環、自分の中に歌の引き出しを作るために、J-POPから海外のものまで、いろんなCDを聴いたりライブ映像を観たりするようにしていて。アイドルから、シンガーソングライターから、パンクな人たちまで、いろんな方の楽曲やパフォーマンスに触れていたら「私だったらこういうふうに歌うかなあ」って、普段なら絶対考えないようなことを考えている自分がいたことに気付いたんです。それで「あっ、なんかこの状態、ものすごく珍しいぞ」って楽しくなっちゃって(笑)。

──そういう心境になっていたところに打診があった?

そうですね。もともとアニメのお仕事で頻繁にご一緒させていただいていたレーベルですし、スタッフの方の中には知り合い、それも大好きなスタッフさんがたくさんいらっしゃるので、グッドタイミング!って感じでした。

えっ!? 西海岸?

──あと、これがボーカリスト佐藤聡美最大の謎なんですけど、好きなアーティストにサカナクションやandrop、back number、それから中島みゆきさんを挙げてますよね。

はい。

──それを踏まえた上で今回のミニアルバム「☆」を聴くと……。

ビックリしますよね(笑)。

──はい。スゲー明るくてかわいい、ガールズパンクアルバムですから。「sweet! sweet!! sweet!!!」なんて、夜中に甘いもんが食いたくなってコンビニまでチャリンコを立ち漕ぎしたってことしか歌ってないし(笑)。

ふふふふふ(笑)。

──聴いていてすごく気持ちよかったんですけど、なんでこういうサウンドに?

デビュー前、レコーディングディレクターさんから「どんな音楽を聴きますか?」って聞かれたとき「言葉で説明するのは大変だなあ」と思って、今おっしゃっていただいたようなアーティストさんの曲を7、8曲伝えたら「あっ、佐藤さんはバンドサウンドがお好きなんですね」っていう話になったんです。それでバンドサウンドをフィーチャーすることになったんですけど、好きな曲を伝えた頃から「そういうアーティストさんみたいな曲に私の声質はうまく乗らないだろうなあ」とも思っていて。

──だからデビュー曲「ミライナイト」も「☆」の音とは肌合いが違うもののキラキラしたポップチューンになった?

そうですね。さわやかで前向きな曲になったなって思ってます。で、今度「ミニアルバムはどうしましょう」って話になったら、ディレクターさんが「西海岸みたいな感じでいきたい!」って言い出して。私自身は「えっ!? 西海岸?」って感じだったんですけど(笑)。

──でもこのアルバム、ホントにL.A.感がハンパないですよ。しかもGEEKSのエンドウ.さんが参加していたりとデビュー当時から派手だった制作陣には、HAWAIIAN6の安野勇太さんに、凛として時雨のピエール中野さんに、the band apartの原昌和さんに、locofrankまで加わって(参照:佐藤聡美1stにHAWAIIAN6安野、locofrank森ら豪華面々)。

「音楽をやるなら“声優が音楽をやっている”というのではなくて、いちアーティストとして本格的にやりたいです」とは言っていたんですけど、本当に本格的な方々に参加していただけて。声優の仕事だけしていたらきっとお会いすることのなかった方々とご一緒できるのは本当にうれしいですね。

これはひきこもりの歌です!

──実際どの曲もこの布陣ならではの1曲になってますしね。

それも本当にうれしくて。あと、自分としては歌うのが初めてに近い構成の楽曲が多かったので、HAWAIIAN6の安野さんたちに直接ディレクションをしていただいてるんですけど、そういった面でもとても勉強になりました。

──確かに「魔法のようなもの」にせよ「さよならギャラクシー」にせよ、安野さんプロデュースの2曲ってメロディラインは比較的ストレートなんだけど、アレンジはちょっとビックリしますよね。安野さんのギターも、原さんのベースも、中野さんのドラムもバカテクな上に明らかにストレンジだし(笑)。

だから最初の頃は歌うのが本当に難しくて(笑)。で、すごい曲を作る方だなあと思ってHAWAIIAN6のことを検索してみたら、安野さんのお写真が出てきたんですけど、ちょっと強面な方じゃないですか。それで「……しまった」となり……。

──「難しいとか言ってたら、このヒゲの長い人に怒られる!」(笑)。

と思ってたんですけど(笑)、「魔法のようなもの」のディレクションをしてくださったときの安野さんがものすごくいい方で。私は歌うとき、その曲の流れるシチュエーションみたいなものを思い浮かべるようにしてるんですけど、「魔法のようなもの」は部屋の中に閉じこもっていた人が自らの足で外に出るイメージ。ホントにちっちゃな冒険物語やRPGのテーマソングみたいだなあって思ってたんです。で、そのイメージのすり合わせをしたら、安野さんが開口一番言ったのが「これはひきこもりの歌です!」。それと「少年ジャンプみたいに歌ってください!」。イメージが一緒だったので「バンザーイ!」ってなっちゃって(笑)。あと歌を録るときって「ここはもっと力強く」とかフレーズごとにアドバイスをいただくことが多いんですけど……。

──安野さんのアドバイスは「ひきこもり」と「ジャンプ」(笑)。

楽曲全体のイメージを膨らませられる単語を投げかけてくれる方に初めてお会いしたのですごく新鮮でしたし、その言葉をもらったことで曲のシチュエーションが鮮明になりました。

1stミニアルバム「☆」 / 2014年6月18日発売 [CD+DVD] 3024円 / スターチャイルド / KIZC-253~4
1stミニアルバム「☆」 / 2014年6月18日発売 [CD+DVD] 3024円 / スターチャイルド / KIZC-253~4
CD収録曲
  1. ♡’s☆cReaM♪
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  2. さよならギャラクシー
    [作詞・作曲・編曲:安野勇太(HAWAIIAN6)]
  3. Starlight Fortune
    [作詞:eNu / 作・編曲:R・O・N]
  4. 魔法のようなもの
    [作詞・作曲・編曲:安野勇太(HAWAIIAN6)]
  5. sweet! sweet!! sweet!!!
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  6. You Know
    [作詞・作曲:宮崎誠 / 編曲:宮田リョウ]
  7. White Canvas
    [作詞・作曲:森勇介(locofrank)/ 編曲:locofrank]
  8. オレンジ days
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]

Bonus Track

  • ミライナイト -Studio Live ver.-
    [作詞:moyu / 作曲:KEYTARO / 編曲:Coral Echo、しゅがぁず。]
DVD収録内容
  • 勇者サトミ Lv.1 ~アーティストデビューの章~
  • 「☆」メイキングMV
佐藤聡美(サトウサトミ)

佐藤聡美

宮城県仙台市出身の女性声優、ボーカリスト。2007年に声優デビューを果たし、2008年にはアニメ「地獄少女 三鼎」の御景ゆずき役、2009年からは「けいおん!」シリーズの田井中律役を務め、知名度を全国区のものにする。「けいおん!」シリーズの劇中バンドにして、出演声優陣で結成された放課後ティータイムが歌う楽曲は軒並みビッグヒットを記録し、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでのライブ「けいおん!!ライブCome with Me!!」に出演。関連楽曲を歌うだけでなく、劇中の役と同じドラムプレイも披露する。以降も人気アニメの主要キャストを歴任する一方で、2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビュー。そして同6月には安野勇太(HAWAIIAN6)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)、locofrankらが参加する1stミニアルバム「☆」(スター)をリリースした。