ナタリー PowerPush - 佐藤聡美

過去の言葉と今の言葉で追う! “謎多き女”しゅがぁの正体

そういう人がいるんだ! カッコいい!

──そもそも声優を志望した動機って?

両親が共働きだったので小さい頃学童保育に通っていたんですけど、そこの先生の娘さんが声優学校の講師をなさっていたらしくて。私が当時大好きで観ていた「怪盗セイント・テール」っていうアニメのヒロイン役の櫻井智さんが教え子だったって話を聞いてものすごい衝撃を受けたんです。小学2、3年生だったこともあって“キャラクターはキャラクター”だと思っていたので。

──「中の人などいない」って感じだったということ?

そうですそうです。“セイント・テールという人”がしゃべっているっていう認識だったので、その向こうに声をあてる人がいることを知って「そういう人がいるんだ! カッコいい!」ってビックリして。小学3年生の頃から「私も声優になる!」って言ってました。ただ、それから学芸会や合唱コンクールの司会を選ぶとき自分から手を挙げるようになったり、高校生のときに放送部に入るようになったりしたら、今度はナレーターになりたくなっちゃって(笑)。高校時代は「旅番組や料理番組のナレーションをやりたいな」って思ってました。

──いつ頃、お芝居に興味を持つように?

高校3年生のとき、担任の先生に「声優っていうのは“声のプロフェッショナル”のことだと思うよ」「だから今からナレーター一本って決め付けずにもっと視野を広くしてみたら?」って言われたのがきっかけですね。それで高校卒業と同時に声優の専門学校に入って、お芝居の勉強をするうちに「あっ、楽しいな」って思うようになって。だから「私も声優になるー」ってミーハーに思うようになってから「声優としてやっていくんだ!」って決意が固まるまでにはけっこう時間がかかった気がします。

お母さんは「結果を出せ」って言ってたしなあ

──それって言い換えるなら、小学3年生=8歳のときから専門学生だった18~20歳頃まで、10年以上「声の仕事をしたい」って思い続けていたってことですよね。なぜ思い続けられたんでしょう?

なんでなんだろう(笑)。それ以外になりたいものが見つからなかったからですかねえ。周りのみんなが年齢を重ねるにつれて、学校の先生になりたいとか、○○っていう会社に勤めたいとか、具体的な将来像を描くようになっていたこともあって、私もいろいろ考えてみたんですけど、どれもピンとこなかったんですよ。「先生になりたいわけでも勤めたい会社があるわけでもないし。やっぱり私は声の仕事をしたいのかなあ」って。あともう1つ、当時仙台に住んでたんですけど、高校3年生のときに母から「声優になるために東京に行きたいんだったら、放送部のコンテスト(NHK杯全国高校放送コンテスト)の県大会で一番になりなさい」「そうじゃないんだったら東京には出しません!」と言われて……。

──「声の仕事に就けたらなあ」ってふんわりと考えてたら、とんでもないハッパをかけられた(笑)。

「なぬっ!?」ってなって(笑)。必死で練習してなんとか県で一番になったんですけど、これで両親も納得してくれると思ったら、母が今度は「専門学校に通っているうちに何か1つでも結果を出せないんだったら帰ってきなさい」と言いだして、また「なぬっ!?」となり(笑)。

──お母さま、ハードルを上げますねえ(笑)。

それで「じゃあがんばるしかない」って決意が固まった感じですね。で、専門学校に入って半年ちょっと過ぎたくらいに「智一・美樹のラジオビッグバン」っていうラジオ番組のアシスタントオーディションの話があったので「学校の友達はみんな受けるって言ってるし、お母さんは『結果を出せ』って言ってたしなあ」って受けたら、合格できたって感じなんです。

“佐藤聡美”を消す作業が楽しくて

──お話を聞いていると、折にふれ、どうにも言語化しにくい、“佐藤聡美力”みたいなものを発揮してますよね。ナレーター志望だったのに先生に「視点をマクロに」と言われれば、芝居の訓練も受ける。そして声優になる。将来像があやふやだったのに、お母さまから「結果を出せ」と言われればコンクールやオーディションに応募する。そして受かる。

確かになんか不思議ですね(笑)。

──とても不思議です(笑)。ガツガツしていたようではないんだけど、誰かの助言にはちゃんと耳を貸せるし、ちゃんとがんばれるし、ちゃんと結果も残せる。なんでちゃんとできるんですかね?

助言をくれたのが尊敬できている人たちだからっていうのが大前提にあるんだと思います。両親は仕事をしながら、私たち子供のこともちゃんと構ってくれていましたから。どんなに忙しくても母がごはんに手を抜いたことはなかったですし、休日にはどこかに遊びに連れて行ってくれたり、長い休みになれば絶対に家族旅行にも出かけていましたし。私自身、いつかは子育てしながら働きたいと思っているんですけど、それも母の影響なんです。理想の母親は母なので。だから「お母さんの言うことだし聞いておこうかなあ」って思えたんだと思います(笑)。

──オチは果てしなくノンキなんだけど(笑)、すごくいい話だと思います。

ありがとうございます(笑)。それに担任の先生もものすごく親身になって相談に乗ってくれる方だったから「なるほどなあ」ってお話を聞けたんだと思います。苦手な先生のアドバイスだったら、思春期特有の反発心が働いて「聞かない!」ってなっていたはずですから(笑)。

──同じく“佐藤聡美力”を発揮した結果の1つに「けいおん!」シリーズの劇中バンド、放課後ティータイム(HTT)のヒットもあると思うんです。「何も私が歌わんでも」の人が、ナショナルチャートをも席巻する楽曲群に参加したわけですから。

あっ、キャラソンはちょっと楽しいんですよ。“佐藤聡美の歌”ではないので。

──HTTであれば、“田井中律の歌”だから。

キャラソンってアニメ作品という前提があってのものなので、私にとってはお芝居の延長線上にあるんです。「律っちゃんだったらこう歌うかな」「私だったらこう歌うんだけど、律は違うよなあ」って“佐藤聡美”を消していく作業がなんか楽しくて(笑)。しかも「けいおん!」の場合、(HTTの前身の)桜高軽音部の頃から(豊崎)愛生ちゃんやみなちゃん(寿美菜子)はスフィアで活動していたし、ぴかしゃ(日笠陽子)は抜群に歌がうまかったですし。そういう中で私に何ができるのかなって考えることもすごく楽しかったんです。

1stミニアルバム「☆」 / 2014年6月18日発売 [CD+DVD] 3024円 / スターチャイルド / KIZC-253~4
1stミニアルバム「☆」 / 2014年6月18日発売 [CD+DVD] 3024円 / スターチャイルド / KIZC-253~4
CD収録曲
  1. ♡’s☆cReaM♪
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  2. さよならギャラクシー
    [作詞・作曲・編曲:安野勇太(HAWAIIAN6)]
  3. Starlight Fortune
    [作詞:eNu / 作・編曲:R・O・N]
  4. 魔法のようなもの
    [作詞・作曲・編曲:安野勇太(HAWAIIAN6)]
  5. sweet! sweet!! sweet!!!
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]
  6. You Know
    [作詞・作曲:宮崎誠 / 編曲:宮田リョウ]
  7. White Canvas
    [作詞・作曲:森勇介(locofrank)/ 編曲:locofrank]
  8. オレンジ days
    [作詞・作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)]

Bonus Track

  • ミライナイト -Studio Live ver.-
    [作詞:moyu / 作曲:KEYTARO / 編曲:Coral Echo、しゅがぁず。]
DVD収録内容
  • 勇者サトミ Lv.1 ~アーティストデビューの章~
  • 「☆」メイキングMV
佐藤聡美(サトウサトミ)

佐藤聡美

宮城県仙台市出身の女性声優、ボーカリスト。2007年に声優デビューを果たし、2008年にはアニメ「地獄少女 三鼎」の御景ゆずき役、2009年からは「けいおん!」シリーズの田井中律役を務め、知名度を全国区のものにする。「けいおん!」シリーズの劇中バンドにして、出演声優陣で結成された放課後ティータイムが歌う楽曲は軒並みビッグヒットを記録し、2010年には埼玉・さいたまスーパーアリーナでのライブ「けいおん!!ライブCome with Me!!」に出演。関連楽曲を歌うだけでなく、劇中の役と同じドラムプレイも披露する。以降も人気アニメの主要キャストを歴任する一方で、2014年2月、シングル「ミライナイト」でアーティストデビュー。そして同6月には安野勇太(HAWAIIAN6)、ピエール中野(凛として時雨)、原昌和(the band apart)、locofrankらが参加する1stミニアルバム「☆」(スター)をリリースした。