恋をして人間くさくなった私
──個人的にはカップリングの「Destruction」が、「Love Buds」以上に気に入っていまして。
お! めっちゃうれしいです。
──イントロに「Love Buds」のフレーズをジャズっぽくアレンジしたピアノが入っていて、飲み物を嚥下する音がしたあと、開演ブザーの音が鳴って凶悪なトラップ調の曲が始まる。面白い演出だなと思ったんですが、この曲はもかさんが自らアレンジされたんですよね。
そうなんです。でも、なんでこんなふうになったのか……(しばらく考えて)わかんないです(笑)。突然思い浮かんだんですよ。それでお母さんにちょっと聴いてもらったら「めっちゃええじゃん!」という反応だったので採用しました。せっかくCDになるんだったら、1曲目とつながってるほうが面白いかなと思って。
──なるほど。「Love Buds」と続けて聴くと、同じ出来事を違う角度から描いているようにも聞こえますが、こちらの曲では猛烈に攻撃的なスタンスですよね。
ホント、めっちゃ怒ってますよね(笑)。
──さっき、ご自分の気持ちを曲にすることが多いとおっしゃっていましたが、もかさん自身がこんなに怒ることがあったんですか?
はい。本当にこの通りのことを思ったんです(笑)。私が「もう絶対に無理」と思ってしまうことを、ずっと続けようとする人がいて。本当の意味での優しさを感じることもあったけど、どうしても私にはその人が優しいふりをしているというか、自分のエゴでいい人ぶっているように感じられる瞬間が多くて、それがイヤだったんです。
──もかさんの楽曲の中で一番怒りを顕にしている曲なのかなと。
これまでは怒りを曲にすることが苦手だったんですけど、これもすっごくすんなり書けたから、本当に心から怒っていたんでしょうね。ちなみにサウンド的には、ベースがカッコいいところが気に入っています。
──そのベースの上で細かく刻まれるハットも素敵ですよね。あと「こわいよ Mean guy だから嫌なの 伝えても伝わらない 終わりにしようよ」という歌詞もかなり印象的です。
ふふふ。私のマネージャーさんもその部分が特に気に入っているみたいです(笑)。
──サグい世界から一転、3曲目の「いちごちゃん」はすごくキュートなナンバーですね。ESME MORIさんのボサノバっぽいアレンジが効いています。
ボサノバっぽいリズムは、私の手癖みたいな感じですね。ESMEさんとは「ひまわり」(シングル「melt bitter」収録曲)でご一緒して以来で。あの曲は花王「ニュービーズ」のWeb CMソングとして制作していたんですが、今回はそのとき以上に密にやりとりさせてもらったし、いろいろな可能性を一緒に模索してくれて、曲を作るのが楽しかったです。
──この曲はどんなことに着想を得たんですか?
もともと「Lukewarm」という曲を書くまでは、家族以外の誰かのことを心から好きと思ったことがなかったんですが、この曲を作るきっかけになった人と知り合ったことで、すごく自分が変わったという実感があって。「Lukewarm」に「恋をすると人間になっちゃうって」という歌詞がありますけど、本当に人間くさくなったというか。で、そうなる前の自分みたいな人をイメージして作ったのが「いちごちゃん」なんです。
──なるほど。「Lukewarm」の前日譚ですね。恋を知る前の女の子が主人公という。
趣味はいっぱいあるけど、心がまだ未熟というか。学校で友達と一緒にいるのも好きだけど、1人の時間もめっちゃ大事だったり、でも1人でいると突然不安になったり。自分の世界を大切にして、自分を自分で守っているような子ですね。私の中で、苺のケーキを食べるときに苺をくれるのは、自分のことを大切に思ってくれてる人というイメージがあるんです。例えば親とか(笑)。それぐらい自分が大切に思える人が、いつか現れるのかな?という気持ちを書きました。
──UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤だけに収録される「幸せのバトン」は、「いちごちゃん」の主人公が大人になったような曲ですね。
これは「Wican」というブランド(ユニバーサルミュージックが2020年に立ち上げたファミリープラットフォーム)のために書き下ろした、家族をテーマにした曲なんです。歌詞の「リビングで流れてるテレビ見ながら 並んで歯磨きした」という部分は小さい頃の私の実体験なんですけど、そういうめっちゃ普通なのになんとなく忘れられない時間って、将来自分に子供ができたら、またその次の世代にもつながっていくのかなって。もしそうだとしたらそれは幸せのバトンだなと思って、「昔読んでもらった あの絵本を本屋で見つけたの 懐かしくて嬉しい 次は私が読み聞かせる番だね」というフレーズも書きました。
──この限定盤には「Love Buds」の弾き語りバージョンも収められますし、全体としてとても聴き応えのある新鮮なシングルだと思います。楽曲ごとにサウンド面も大きく変わって新鮮ですし。
そう言っていただけてうれしいです。自分の中では、いつも同じような作品にならないようにと意識しているので。まあ、結果的に同じような感じになってしまうこともあるかもしれないんですけどね、同じ人間が作っているから(笑)。
誰が読んでもわかる言葉で
──今回のシングル収録曲もそうですが、改めてもかさんの曲は感情のリアリティを高解像度で描いているところが特徴だと思います。紋切り型のラブソングではない、繊細な気持ちの機微が表現されているというか。
なるほど……自分ではそんなに意識していないんですけど、もともと私自身が恋愛をすると悩みがちというか、いろいろ考え込んでしまうから、自然とそうなっているのかもしれないです(笑)。ほかの方の曲を聴いていると、私にはちょっと難しいと感じることも多くて。
──難しいというのは?
その人が本当に言いたいことはなんなのか、何が起こってるのか、私の理解力がなさすぎてわからないんです。自分は理解する力が低いほうだと思うんですけど(笑)、そんな自分にもわかる言葉というか、なるべく誰が読んでもわかるような言葉で書きたいと思っています。説明書とかも、簡単な言い方をしてくれればわかるのに、難しく書いてあるから「全然わからない!」となってしまう。でも自分の言葉に言い換えれば当然理解できるから、それを無意識でやっているのかもしれないですね。
──恋愛に限らず、もかさんは普段から物事についてたくさん考えるタイプですよね。
そうかもしれないです。ただ、さっき話したみたいに最後の答えは、最初の段階で直感的に決めていることが多いですね。でも、それを変えたいような変えたくないような、優柔不断な自分もいて。いつも右往左往しながら何も決められない日々を過ごしてる人です(笑)。
──YouTubeで公開されているこれまでのMVを観ると、歌詞やメロディ、声をそれぞれ絶賛しているファンのコメントを見かけます。ご自分としてはどこを褒められるのがうれしいですか?
うーん、やっぱり歌詞とメロディかな。声は昔からこうで、歌い方も自然と今の形に行き着いた感じなんで、もうどうしようもないんですけど(笑)。歌詞やメロディは、自分の中で試行錯誤したり努力したり、こだわって作っているから。
──どの曲かは忘れましたが、コメント欄に書き込まれていた「無理やりひねり出している感じがしない自然なメロディ」という評には僕も同感でした。
あるときにヘビ使いがヘビを出すように、メロディをヒュルヒュルヒュルーっと1本線を出すみたいに作っていく感覚を手に入れたんです。今回だと「いちごちゃん」なんかはそうやってスルスル作れた曲ですね。「Love Buds」みたいに悩みながら考えて完成させたメロディもあるけど、自分でもすごく気に入っているので、誰かにそれを好きと言ってもらえるのはうれしいなあ。
──最後に、もかさんはこれから新しい環境で活動していくわけですが、今一番楽しみにしていることを教えてください。
東京での生活ですね。今までは岡山にしか住んだことがなかったので、違う場所に長く住むとどんなことを感じるのかとか、どんな人と知り合うのかワクワクしています。それに、その経験から今まで作ったことのない曲が絶対できると思うから、そういう変化も楽しみです。
──ちなみに行ってみたい場所はありますか?
これは東京じゃなくて神奈川なんですけど、向ヶ丘遊園のあたりです! 友達が近くに住んでいて、ずっと前から行きたいなと思っていたんです。それに名前もなんだか楽しそう(笑)。大事な友達なので、向ヶ丘遊園で一緒に遊べる日をすごく楽しみにしています。
写真・文 / さとうもか
1.「Best Jazz 100」
中学1年生くらいのときからずっと聴いている、私の人生を変えたといっても過言ではないCDです。ジャズの名盤がカテゴリ別に100曲入っていて、本当にジャズの教科書のようなアルバムです。この中で一番好きな曲は、ダイナ・ショアの歌う「April in Paris」です。
2.SWIMMER
今の自分の好みの軸を作ってくれたであろうブランドです。わりと昔から今と同じような系統のものが好きだったのですが、小学生の頃、私がスイマーに出会ってなければ、きっと私の今のファッションや色の趣味はガラッと変わっていただろうなと思うほどに、影響を受けました。
3.YUIさん
私が歌手を目指し始めたきっかけのアーティストです。小学生の頃、イオンで母の買い物を待ってるときに、映画館の前でとある映画の予告が流れていて、その映画の主題歌がYUIさんの「Tomorrow's way」という曲で、初めて音楽を聴いてドキドキした思い出があります。
4.カメのぬいぐるみ
私の守り神の亀です。高校の時に親友がプレゼントしてくれてからずっと大切にしてるキーホルダーで、前はギターケースにつけて、一緒にいろんな県を旅しました。今は古くなってきたので、ギターケースから外してベッドの横に置いてます。