音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善
絶えることのない好奇心と曲げない信念
さかいゆう&土岐麻子からのコメントも到着
新しいものを面白いと思える
──取り上げている楽曲もとても興味深いです。One Directionの「Story Of My Life」、フィル・コリンズの「Against All Odds」など幅広い年代の楽曲がセレクトされていますね。
半分が1980年代、半分が最近の曲ですね。老若男女にオーケストラのよさを感じてほしいという気持ちがあったので。
──特にアヴィーチーの「Hey Brother」のカバーは新鮮でした。
ポップスには“実は”という話がたくさんあって、それを伝えられたらさらに楽しいと思うんですよ。アヴィーチーの「Hey Brother」はオリジナルはもちろんデジタルなサウンドなんですが、ダン・ティミンスキーというカントリー&ウエスタンのシンガーを招いていて、曲調も完全にカントリー&ウエスタンなんです。Daft Punkもそうですが、デジタルなサウンドでありながら、1960年代、70年代に活躍したミュージシャンやシンガーを呼んで、その有機的なところとのギャップを取り入れるというのが、今クラブシーンの流行になっています。「Hey Brother」のサウンドなんて、西部劇の頃の音楽ですから。ルーツを掘り下げながらも、回顧主義ではなく、新しい響きの音楽としての表現を目指したり。
──「Hey Brother」の音楽的背景を生かしながらカバーした、と。
そうですね。この曲のアレンジをやってもらった岩城直也くんは22歳なんですよ。つまりアヴィーチーの音楽を聴いている世代ですよね。彼に今の話を全部伝えて、西部劇の音楽も研究してもらって。実際に聴いてもらえば西部劇の音楽がヨーロッパのクラシックの何に由来しているところがあることも体感できるだろうし。それらを含めながら、伝統と最新、普遍性という視点からアレンジしてもらったんですよ。そうは言っても、まずはカッコよくないとダメなんですけどね。「オーケストラってこんなにカッコいいんだ」って若い人に感じてほしいし、年配の方にも音楽として楽しんでもらって「この原曲はクラブで踊ってるような若い人が好きな曲なのか」と知ってほしい。そういう世代間の意識交換が間接的に生まれたらいいなという思いもありましたね。
──Totoの「Africa」のカバーも収録されています。ポップミュージックの歴史に残るスタンダードですが、この曲を選んだのはどうしてですか?
アルバムの柱になる曲が欲しいなと思っていたときに、ラジオか何かでたまたま「Africa」がかかっていて「この曲があった!」って。「Africa」は僕がアフリカ音楽を聴くようになった入り口でもあるし、あのメロディ自体は僕にはクラシック的だから、オーケストレーションのイメージが浮かびやすかったんですよ。あとはさっき言ったアンジェリーク・キジョーの影響ですよね。オーケストラとアフリカのパーカッションの融合もやりたいと思っていたから、それを「Africa」でやってみようと。で、大儀見元にセネガルのパーカッショニストを呼んでもらって、新日本フィルと共演してもらったんです。
──「Africa」という楽曲のルーツを感じられると同時に、佐藤さん自身の音楽的体験も反映されているわけですね。
「cornerstones」は礎石を意味する英単語なんですよ。なので、自分が影響を受けていて、大好きな曲を取り上げるっていうテーマがあって。先達の曲もあれば、当然若いアーティストの作品に影響を受けることもありますよね。僕自身は普段、9割くらいは新しいものを聴いてるんです。今の空気、今の世界の動きの中で歴史を踏まえて生まれてくる才能に興味があるので。アヴィーチーやウィル・アイ・アムなども音楽のさまざまなバックボーンをすごく理解しているし、勉強もしていて、それを自分の楽曲に反映させています。
──ジェイムス・ブレイクなどもルーツ音楽と先鋭的なサウンドを融合させているアーティストの1人ですよね。
そうですね。音楽のことを知らないと、楽曲が深くならないのは当たり前のことなので。音を聴けばわかりますからね、どれだけルーツをわかった上でやってるのかは。それは若いバンドも同じですよ。前に座談会に出てもらったAwesome City Clubなんかは「30年後に出てきた、自分たちに近い考え方のバンド」という印象なので(参照:SING LIKE TALKING「Longing ~雨のRegret~」発売記念 佐藤竹善×atagi×角舘健悟×高橋海 座談会)。新しい音楽を聴かないミュージシャンもいますが、僕は新しいものを面白いと思える人間でよかったなって思います。もちろん古い音楽も好きですけど、新しい発見がなければ聴きませんから。The BeatlesにしてもSteely Danにしても「またこんなことに気付いてしまった」という感動がいまだにありますからね。
1980年代のアーティストは熱くなりすぎない
──「CORNERSTONES 6」には、世界的パティシエの小山進氏とのコラボレーション楽曲「Human」も収録されています。
去年、小山さんが世界大会(インターナショナル チョコレート アワーズ)に出品するにあたって、12分ちょっとの組曲を書いたんです。その曲はクリスマスアルバム「Your Christmas Day III」に収録したんですが、今年も曲を書くことになりまして。今年のチョコレートも4つのコンセプトに沿って作れられているんですが、そこに込められた哲学、若い世代に継承してもらいたいことなどを聞いて、それを楽曲に具現化したのが「Human」です。ちょうどレコーディングが終わる頃に、小山さんは6年連続で世界一になったんですよ。
──ほかのジャンルのクリエイターと接することも、やはり刺激になりますか?
他分野の人の話は面白いんですよね。共感したり「どの分野でも同じなんだな」と励まされることもあるし。小山さんとは同い年ということもあって、共鳴する部分も多くて。似ているところは徹底しちゃうところですかね。僕も小山さんも完璧主義なところがあるから。あとは熱くなりすぎない感じかな。1960、70年代ではなく、僕らは80年代からプロの世界でやってますからね。1980年代ってけっこう冷めている部分があるんです。松本隆さんがかつて「微熱少年」という小説を発表されましたけど、僕らはそれよりもっと冷めてる。その上で作るものに対してはなぜか徹底しちゃうっていうのが、僕らの世代なのかなと思っています。
次のページ » 求められていること、やりたいことの壁を凌駕するべき
- カバーアルバム「My SymphonicVisions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」
- 「My SymphonicVisions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」
- 2016年11月23日発売 / 3240円 / ユニバーサルJ / UPCH-2099
- 下記サイトにて配信中!
- iTunes Store
- レコチョク
収録曲
- Story Of My Life(One Direction)
- This Love(Maroon 5)
- Against All Odds(フィル・コリンズ)
- Hey Brother(アヴィーチー)
- Africa(Toto)
- Will You Still Love Me?(Chicago)
- The A Team(エド・シーラン)
- Come On(ベン・ジェレン)
- Human(佐藤竹善)
- 明日へ[For Kumamoto Version](佐藤竹善)
- カバーベストアルバム「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」
- 「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」
- [CD3枚組] 2016年11月23日発売 / 4212円 / ユニバーサルJ / UPCH-2100~2
DISC1収録曲
- Losing You
- Whatcha' Gonna Do for Me?
- What You Won't Do for Love
- I.O.U. Me
- You Need a Hero
- Desperado
- Between the Sheets(Live)
- Last Train to London
- Eye In the Sky
- Believe In Life feat.西村智彦 & 山弦
- Love's In Need of Love Today with TAKE6
- One of These Nights
- Change the World / Char & 佐藤竹善
- トーキョー・シティ・セレナーデ (Arthur's Theme)
DISC2収録曲
- Golden Lady
- Be You
- Right Here Waiting feat.TOKU
- Let Love Lead Me
- (I Can Recall)Spain
- The Flame In My Soul
- The Wings of Time -Dedicated to Jeffrey Thomas Porcaro
- Minor Setback
- State of Mind
- Message In a Bottle
DISC3収録曲
- Something Sad (Japanese Version)
- 木蘭の涙 withコブクロ
- サヨナラ -Album Version-
- 雪の華
- amanogawa -Album Version-
- 生まれ来る子供たちのために
- 初恋
- はじまりはいつも雨
- Ya Ya (あの時代を忘れない)
- 雨の物語
- 桜坂
- 真夏の果実
- 君住む街へ with根本要
CORNERSTONES Symphonic Concert
- 2016年11月24日(木)東京都 Bunkamuraオーチャードホール
佐藤竹善(サトウチクゼン)
SING LIKE TALKINGのボーカリストとして1988年にデビュー。1993年発売の「ENCOUNTER」、1994年リリースの「togetherness」の2作はオリコンウィークリーチャートで初登場1位を獲得した。佐藤の透明感あふれるハイトーンボイスとエバーグリーンな楽曲は多数の音楽ファンを魅了。さらに佐藤の圧倒的な歌唱力はミュージシャンからも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたり、小田和正や塩谷哲とはユニットを結成するなど、ボーカリストとして幅広く活躍している。1995年に発表したカバーアルバム「CORNERSTONES」から、SING LIKE TALKINGの活動と平行して本格的にソロ活動を開始。2013年よりクリスマスアルバムシリーズ「Your Christmas Day」を3年連続でリリースしている。2015年2月にSING LIKE TALKINGの集大成となるオールタイムセレクションアルバム「Anthology」を発売。同アルバム収録曲を披露するライブツアー「SING LIKE TALKING “The Sonic Boom Tour 2015”」では、全国6都市で計1万人以上を動員した。2015年7月にソロとしては初のオールタイムセレクションアルバム「3 STEPS & MORE」を発表。2016年11月に「CORNERSTONES」シリーズの第6弾となるシンフォニックカバーアルバム「My Symphonic Visions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」、「CORNERSTONES」のベスト盤「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」、初のアーティストブック「シング・ライク・トーキング 佐藤竹善 いつか見た風景 いつか見る風景 ~Keeps Me Runnin'~」を同時発売する。
2016年11月23日更新