音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善
絶えることのない好奇心と曲げない信念
さかいゆう&土岐麻子からのコメントも到着
佐藤竹善のカバーシリーズ「CORNERSTONES」の20周年を記念したベストセレクションアルバム「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」が11月23日にリリースされる。「Desperado」「Change the World」「雪の華」「生まれ来る子供たちのために」といった過去5作の中から選りすぐった名カバーやランディ・ニューマン「Losing You」の新録カバーなどを収録した本作は、佐藤竹善という音楽家のルーツ、シンガーとしての豊かな表現力を改めて感じられるアイテムと言えるだろう。
また全曲交響楽団との共演によるシンフォニックカバーアルバム「My Symphonic Visions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」も同日に発売される。One Direction「Story Of My Life」、アヴィーチー「Hey Brother」、Toto「Africa」といった幅広い年代の楽曲をオーケストラと共にカバーした本作の制作は、佐藤自身にとっても大きな刺激となったようだ。これらの発売を記念して音楽ナタリーでは佐藤にインタビューを実施。「CORNERSTONES」シリーズの新作発売にあたり、彼とゆかりの深いさかいゆう、土岐麻子から届いたコメントも掲載する。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 江森康之
カバーを続けて得たもの
──まずは「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」のことから聞かせてください。古今洋邦の名曲を取り上げるカバーシリーズ「CORNERSTONES」は1995年にスタートしました。そもそもカバーをやろうと思った理由はなんだったんですか?
1994年にアル・ジャロウが「Tenderness」というスタジオライブアルバムを出して、グラミー賞を取ったんです。マーカス・ミラー、スティーヴ・ガッドなどが参加していて、演奏しているのはすべてカバーなんですが、それが素晴らしくて。
──自分でもやってみたい、と。
そうですね。ちょうどSING LIKE TALKINGの7枚目のアルバム「togetherness」が出たあとくらいだったんですけど、僕個人としてはいろんな人たちとライブハウスでセッションライブを始めていた頃で。村上“PONTA”秀一さん、斎藤ノヴさんといった大御所から、若手の人、ジャズの人まで、いろんなミュージシャンとやっていたんですが、自分としてもバンドの枠を越えて「もっともっと本格的なボーカリスト、ミュージシャンになっていきたい」という気持ちが強くなっていた時期だったんです。同時に「なんで日本にはカバーを気軽にやれる環境がないんだろう?」という思いもあったんですよね。欧米ではあえて“カバー”なんて言いませんし、ジャズ、クラシックにはカバーという言い方もありませんから。“昔からある楽曲を表現することも、オリジナルを書くことも、そのアーティストの作品である”という概念が成熟しているんですよね。日本にそれがないことを寂しいと感じていたし、だったら自分が始めてみようと。ただ最初は叩かれることも多かったんですよ。「バンドをやっているのに、なぜソロアルバムを出すのか」と言われたり、「どうしてカバーなのか? オリジナルを書けなくなったのか」って雑誌に書かれたりもしたので。僕も当時32歳くらいで若かったから、そうなるとさらに燃えてきて(笑)。
──2000年代になると日本でもカバーブームが起きましたよね。「CORNERSTONES」シリーズは佐藤さん自身の音楽観、その楽曲に対する解釈が伝わってくるところも興味深いです。
そう聞こえるのだとしたら、自分が聴いてきたアーティストの影響でしょうね。スティーヴィー・ワンダーやポール・マッカートニー、Van Halenもそうですけど、自分自身の音楽性をしっかり出したカバー作品を発表していて。そうすることによって、カバーやリメイクというものがただの焼き直しではなくて、より音楽的になると思うんです。だから自分でカバーを発表するときも「なぜ佐藤竹善はこの楽曲をこういうふうに解釈したのか」ということを表現したいと思っていたし、それがカバーの大切な要素なんですよね。
──20年以上に渡って「CORNERSTONES」シリーズを作ってきて、音楽家として得られたものも多かったのでは?
もちろん。素晴らしい名曲を表現することによって、それまで気付かなかった自分の可能性を見つけることもありますから。あとは関わってくれた人たちからの刺激ですよね。海外のミュージシャンも参加してくれたし、ジャズやラテン音楽のエキスパートの人たちと一緒に作業することによって、吸収できたこともたくさんあるので。レコーディング作業のやり方も、人それぞれ違いますからね。いろんな人たちの方法論を学べたことも大きな経験になっていますし、それを毎回味わえているのは幸せですね。
ポップスとオーケストラが接近し始めた
──さらにカバーシリーズ6作目となる「My Symphonic Visions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」もリリースされます。今回は交響楽団との共演ですね。
ここ数年、世界のいろんなところでポップスとオーケストラが接近していて。例えばスティングがロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とやったり、ミーカがモントリオール交響楽団とやったり。それを自分でもやれたらいいなと思っていた矢先に「ひさしぶりに『CORNERSTONES』をやりませんか」という話が上がったので、思い切ってやってみようと。もう1つ自分の中で大きかったのが、アンジェリーク・キジョーがアフリカのパーカショニストとルクセンブルク・フィルハーモニー管弦楽団を共演させた作品「Angelique Kidjo and Orchestre Philharmonique du Luxembourg」なんです。その有機的で新しい融合は素晴らしいと思ったし、クラシックの伝統的なアンサンブルとポップスの融合を自分でもやってみたくて。
──ポップミュージックの時代的な流れともリンクしているんですね。
そうですね。編曲、アンサンブルというのは時代の鏡なので。すべての音楽はムーブメントや流行の中に存在していて、玉石混交の中から、最終的にいいものがスタンダードになっていくわけじゃないですか。例えば1950年代にジャズミュージシャンがオーケストラを取り入れたのもそうだし、ギター1本で表現することもそう。みんなが「誰もやったことないことがやりたい」と思っていて、それが流行ると今度はみんながやり始めて。その繰り返しですよね。
──オーケストラのアレンジ、レコーディングはどのように進めたんですか?
山下康介さん、宮本貴奈さん、宮野幸子さん、岩城直也くんという4人のアレンジャーを選んで、1曲1曲アレンジの方向性をかなり細かく打ち合わせしました。基本的にはミュージカル的な発想ですね。歌メロがあって、そこにクラシック的なアンサンブルを投影していくので。さまざまなビジョンを伝えて、デモ音源を何度かキャッチボールして、それを元にスコアを書いてもらいました。オーケストラという大人数の楽譜を書くわけですから、彼らが一番大変だったと思います。レコーディングは新日本フィルの拠点になっている、すみだトリフォニーホールで行いました。まずオーケストラの前で僕が一緒に歌って、全体的なアンサンブルが見えてきた時点で僕だけ別室に行って。本番は生の演奏を聴き、モニタで指揮者の動きを見ながら歌いました。気になる部分は後で歌い直したので、半分はライブ、半分はスタジオレコーディングという感じですね。
──ぜいたくなレコーディング方法ですよね。
そうですよ。お金もかかるしね(笑)。特にオーケストラは抑揚が大事ですし、一緒に歌うことで、歌との一体感を感じることが必要なんだと思います。今回の企画が決まる前に、玉置浩二さんが中心になった「billboard classics」のコンサート(9月23日に開催された「横浜音祭り2016 billboard classics 玉置浩二プレミアム・シンフォニック・コンサート」)に呼んでもらって、初めてオーケストラと共演したんです。その経験があったから、非常に助かりましたね。同じ曲であってもギター1本で歌うのか、バンドで歌うのか、オーケストラと一緒に歌うのかによって違いますし、実際にやってみて初めてわかることも多いので。
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- カバーアルバム「My SymphonicVisions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」
- 「My SymphonicVisions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」
- 2016年11月23日発売 / 3240円 / ユニバーサルJ / UPCH-2099
- 下記サイトにて配信中!
- iTunes Store
- レコチョク
収録曲
- Story Of My Life(One Direction)
- This Love(Maroon 5)
- Against All Odds(フィル・コリンズ)
- Hey Brother(アヴィーチー)
- Africa(Toto)
- Will You Still Love Me?(Chicago)
- The A Team(エド・シーラン)
- Come On(ベン・ジェレン)
- Human(佐藤竹善)
- 明日へ[For Kumamoto Version](佐藤竹善)
- カバーベストアルバム「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」
- 「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」
- [CD3枚組] 2016年11月23日発売 / 4212円 / ユニバーサルJ / UPCH-2100~2
DISC1収録曲
- Losing You
- Whatcha' Gonna Do for Me?
- What You Won't Do for Love
- I.O.U. Me
- You Need a Hero
- Desperado
- Between the Sheets(Live)
- Last Train to London
- Eye In the Sky
- Believe In Life feat.西村智彦 & 山弦
- Love's In Need of Love Today with TAKE6
- One of These Nights
- Change the World / Char & 佐藤竹善
- トーキョー・シティ・セレナーデ (Arthur's Theme)
DISC2収録曲
- Golden Lady
- Be You
- Right Here Waiting feat.TOKU
- Let Love Lead Me
- (I Can Recall)Spain
- The Flame In My Soul
- The Wings of Time -Dedicated to Jeffrey Thomas Porcaro
- Minor Setback
- State of Mind
- Message In a Bottle
DISC3収録曲
- Something Sad (Japanese Version)
- 木蘭の涙 withコブクロ
- サヨナラ -Album Version-
- 雪の華
- amanogawa -Album Version-
- 生まれ来る子供たちのために
- 初恋
- はじまりはいつも雨
- Ya Ya (あの時代を忘れない)
- 雨の物語
- 桜坂
- 真夏の果実
- 君住む街へ with根本要
CORNERSTONES Symphonic Concert
- 2016年11月24日(木)東京都 Bunkamuraオーチャードホール
佐藤竹善(サトウチクゼン)
SING LIKE TALKINGのボーカリストとして1988年にデビュー。1993年発売の「ENCOUNTER」、1994年リリースの「togetherness」の2作はオリコンウィークリーチャートで初登場1位を獲得した。佐藤の透明感あふれるハイトーンボイスとエバーグリーンな楽曲は多数の音楽ファンを魅了。さらに佐藤の圧倒的な歌唱力はミュージシャンからも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたり、小田和正や塩谷哲とはユニットを結成するなど、ボーカリストとして幅広く活躍している。1995年に発表したカバーアルバム「CORNERSTONES」から、SING LIKE TALKINGの活動と平行して本格的にソロ活動を開始。2013年よりクリスマスアルバムシリーズ「Your Christmas Day」を3年連続でリリースしている。2015年2月にSING LIKE TALKINGの集大成となるオールタイムセレクションアルバム「Anthology」を発売。同アルバム収録曲を披露するライブツアー「SING LIKE TALKING “The Sonic Boom Tour 2015”」では、全国6都市で計1万人以上を動員した。2015年7月にソロとしては初のオールタイムセレクションアルバム「3 STEPS & MORE」を発表。2016年11月に「CORNERSTONES」シリーズの第6弾となるシンフォニックカバーアルバム「My Symphonic Visions ~CORNERSTONES 6~ feat. 新日本フィルハーモニー交響楽団」、「CORNERSTONES」のベスト盤「The Best of Cornerstones 1 to 5 ~The 20th Anniversary~」、初のアーティストブック「シング・ライク・トーキング 佐藤竹善 いつか見た風景 いつか見る風景 ~Keeps Me Runnin'~」を同時発売する。
2016年11月23日更新