ナタリー PowerPush - 指田郁也
渾身の新曲「バラッド」が生まれた背景
指田郁也が1年2カ月ぶりとなる4thシングル「バラッド」をリリースする。TBS系金曜ドラマ「なるようになるさ。」の主題歌としてすでに流れているこの曲は、“愛”のありかについて聴き手に問いかけてくるもの。今回のインタビューでは、前作「花になれ」発表以降の1年のことと、新曲「バラッド」が生まれた背景について彼にじっくり語ってもらった。
取材・文 / 内本順一 撮影 / 福本和洋
「花になれ」以降の1年は……
──今年3月に配信限定の「上り電車」がありましたが、CDでのシングルリリースは「花になれ」以来1年2カ月ぶりですね。振り返ってみて、どんな1年でしたか?
「花になれ」以降の1年は……「花になれ」でした(笑)。何回歌ったんだろうっていう。羽生選手とのコラボレーション(※フィギュアスケートの羽生結弦選手がこの曲をエキシビションで用いたことが大きな話題となった)もありましたので、今まで歌ったことのないような場所でもたくさん歌わせていただきましたし。これまでの曲の中でもっとも多く歌ってます。あの曲を聴きたくてライブに足を運んでくださるという方が増えましたね。
──曲が広まったことで、これまでとは異なる層のお客さんも増えたのでは?
あ、でも、最近観に来てくれるようになった方も、以前から観に来てくれていた人たちとどこか共通した雰囲気を持っているのが面白いですね。もともと僕のライブは1人で観に来てくれる人が多かったんですけど、最近また増えて。
──それはどうなんですか?
じっくり聴き入ってくれる人が多いというのは、やっぱりうれしいです。そのぶん、歌うときの集中力がハンパなく必要ですけど。
──バラードを歌う際の集中力は、指田さん、もともとすごいものがあるなと感じるんですよ。始まりのピアノの一音や歌い出しのひと声だけでその場の空気が変わるというか。
客観的に自分のライブを観ることができないので、どういう状態になっているのかは、わからないんですけどね。ただ曲を書いたときの気持ちで歌っているだけなので。その曲の気持ちにスイッチが入ると、ほかのことは何も浮かんでこなくなるんですよ。
──なるほど。では、そのようにじっくり歌を聴きに来てくれる人を明るく楽しませるということの難しさを感じることはないですか?
あ、それ、以前はありました。でも最近は経験を積んで、お客さんとのコミュニケーションの取り方とか距離の取り方が自分の中でようやくつかめてきたような気もしていて。じっくり聴いてもらうときはじっくり聴いてもらう、楽しめる曲では立ってもらったりして自由に楽しんでもらうというふうに、メリハリが付けられるようになったんじゃないかなと自分では思ってますね。
──そのあたりは、バンド編成でもライブをやるようになったことが大きいんでしょうね。
それはでかいです。正直、1人でずっとやっていただけのときは、「今日来てくれたお客さんの中には何が残っただろう……」とか、不安感みたいものも毎回あって。前はお客さんの表情を観る余裕もなかったんですよね。でもバンドでライブをやるようになって自分自身が楽しむことを覚えてからは、余裕もできてきたし、パフォーマンスの幅も広がった。そうしたら、来てくれた人が笑顔になって帰ってくれているのがわかるようになってきたんですよ。
──それは大きな成果ですね。
はい。本当にそう思います。
──学生時代含め、今まではバンド経験ってなかったですよね?
まったくないです。共通の音楽の趣味をもっている友達がいなかったので。まあ、バンドを支える勇気も度量もなかったですし(笑)。人見知りが激しいので。
──1人での表現が向いていた。
もともと友達も少ないので、結局1人の道を歩いてきたわけなんですけど。でもバンドはいつかやってみたいと思っていたんですよ。いずれそういう日が来るだろうと。で、実際にやるようになったら、やっぱり表現の幅も広がった。去年、duo(渋谷duo MUSIC EXCHANGE)で初めてやったときから、もう楽しくて楽しくて。これは2回目のほうがもっとはっちゃけられるなと思ったんですけど、実際次のときにはやっぱりいいパフォーマンスができたという実感が持てたし。また、バンドでアレンジを変えて歌うことが、弾き語りのときにもいい影響を及ぼすんですよ。陰影の付け方が以前よりもわかるようになった。いいことだらけですね(笑)。
──確かにバンドでのライブは、指田さん自身がとても楽しそうですし、グッと開かれた印象があります。
はい。昔の自分に今の自分を見せたら、ビックリするでしょうね。ピアノの椅子に乗って飛び降りるとか、昔の自分からすると考えられない(笑)。今はそういうバンドでのライブと、弾き語りのライブの両方で、うまくギャップを見せていければいいなと思っているんです。
──じゃあ集約すると、ライブによって表現の幅がグッと広がった1年だったわけですね。
そうですね。ものすごく有意義な1年でした。デビューした頃はこういうふうにしゃべらなきゃとか、ライブはこういうふうにやるもんだとか、周りの人はこういうことを求めてるんじゃないかとか、めっちゃ意識してたんですよ。それがここ数カ月で全部変わった。みんなが求めているのは気の利いたしゃべりとかじゃなくて、そのときそのときの思いをどれだけちゃんと伝えて心を通わせられるかじゃないかって思うにようになって。きれいごとを言うわけじゃないですけど、今の日本の状況を見ていても心と心でつながることが本当に必要だと感じるんですよね。だから、「ミュージシャンだから僕はこうしなくちゃいけない」とか、そういうのはなくしていこうと。もっともっと自分を投げ出した上で聴いてくれる人たちとつながりたい。それが今の自分にとってのテーマです。
- ニューシングル「バラッド」/ 2013年8月7日発売 / Warner Music Japan
- 初回限定盤 [CD+DVD]
- 通常盤 [CD] 1050円 / WPCL-11535
CD収録曲
- バラッド
- ○月×日なぜか海へ向かう。
- バラッド(instrumental)
- ○月×日なぜか海へ向かう。(instrumental)
初回限定盤DVD収録内容
- ラブソング(@shibuya duo MUSIC EXCHANGE(2012/12/21))
- 明日になれば(@shibuya duo MUSIC EXCHANGE(2012/12/21))
- 花になれ(@7th Floor(2013/6/20))
指田郁也(さしだふみや)
1986年東京生まれ。3歳からクラシックピアノを習い、15歳から作曲活動を開始。2010年にワーナーミュージック・ジャパンが主催する「VOICE POWER AUDITION」で、約1万人の応募者の中からグランプリを受賞する。同年10月にシングル「bird / 夕焼け高速道路」でデビュー。同時期に東京・日本武道館で開催された「WARNER MUSIC JAPAN 100年MUSIC FESTIVAL」ではオープニングアクトとして出演し、新人とは思えない堂々としたパフォーマンスを披露した。2013年8月、1年2カ月ぶり通算4枚目のシングル「バラッド」をリリースする。