歌詞の前に手紙を書いた

──では、ニューシングルについてお話を聞きます。タイトル曲「花になれ」はNHK BS時代劇「陽だまりの樹」の主題歌になっていますね。

この曲は原作のマンガをいただいて、それを読んでから書き下ろしました。物語の設定は時代劇なんですけど、いつの時代も変わらない若者が生きていくことに対して葛藤する姿が描かれていたので、現代の僕にとってもすごく共感できる内容で。

──そこで感じたものを楽曲に落とし込んでいったと。

はい。原作から感じ取った“生きる力”に焦点を絞って書こうと思ったんです。僕は昔、心の病で悩んでいたときに山下達郎さんの「蒼氓」という曲で救われたことがあったので、自分も“生きる力”を音楽で表現したいという気持ちがずっとあって。それを今回、タイアップがきっかけで書けたことがうれしかったですね。

──メッセージがものすごくストレートに綴られていますよね。

昨年の震災のことを考えると、「生きてゆけ」というメッセージを発信するのはどうなんだろうって思ったんですけど、自分が聴き手の立場として考えたときに、これぐらい直球の歌があってもいいんじゃないかなと思って。で、今回は歌詞を書く前にまず手紙を書いたんです。

──手紙ですか。対象は？

対象は現代で生きることに悩んでいる人たちです。それは自分でもあるんですけど。そこに向けた気持ちをバーッと書いて、そこから改めて歌詞という形にしていったんですよね。だから手紙の一部が残ってる部分もあります。

──問いかけになっている出だしのフレーズですか？

そうです。手紙のように始まる曲も面白いんじゃないかなと思ったので。今回のように手紙を書いてから詞にする方法を試してみて感じたのは、より伝わる曲を書けるんじゃないかなっていうことで。自分なりの新しいやり方を発見できたので、今後も続けていこうかなと思ってます。

“生きる”という自分のテーマについて今一番ちゃんと書けている曲

──テーマの大きさに比例するように、サウンドも壮大ですね。

はい。ドラマのためにいろんなタイプのものを5曲ぐらい作ったんですけど、テーマ的にこの曲の壮大さがピッタリだったのでこれが選ばれてうれしかったですね。実を言うとサウンドの方向性に関しては制作中にいろんな意見が飛び交ったりもして、結構大変だったんですよ、今回は。

──タイアップという部分で？

そうですね。内心「それはちょっと……」って思うようなこともあって（笑）。でもそういう大変さを歌詞に反映させることもできたんです。負けそうになる自分に対して、負けちゃダメだっていう気持ちを歌詞にぶつけたり。サウンドもいろいろ試していく中で、僕がいいなと思っていた形に仕上がったので最終的にはすごく良かったと思います。ぶっちゃけ胃腸炎になっちゃったんですけど（笑）、タイアップはすごくありがたい話だし、それを通して良い経験ができました。テレビから流れてくるのを観たときはすごく感動できましたしね。主題歌ってやっぱりいいなあって。

──ストリングスやホーンが効果的に使われていますが、今回も芯になっているのはピアノとボーカルですよね。

根底はピアノとボーカルでガッツリ勝負するという部分は1stシングルからブレてないところですね。今回、シングルの初回盤には「花になれ」のピアノコンチェルトバージョン（伴奏がピアノ、ストリングス、ホーンのみのバージョン）が入ってるんですけど、そっちも聴き応えがあると思います。この曲って実はピアノ1本だけでも壮大さが出るタイプなんですよ。ライブでは弾き語りでやって手応えを感じてるので、いずれはピアノだけのバージョンも出してみたいですね。

──シンプルなサウンドでも壮大さが出るというのは何が理由なんでしょうね？

やっぱり声だと思います。“生きる”という自分のテーマについて今一番ちゃんと書けている曲なので、自然と歌い方に広がりが出るんです。この曲を歌うときは自分の中の景色が変わる感覚があるんですよね。だからバラードではあるんだけど、明るく、声も上向きになっていくことによって壮大さが生まれるんじゃないかなと思います。