自分の声や歌い方のおいしい部分がだんだん見えてきた

──前回のインタビューで、土手など情景が見えるところで曲が生まれるとおっしゃっていましたが、今回も外でアイデアを練ったんですか？

いや、今回はプロデューサーさんのスタジオでピアノのリフを考えるところからスタートしたんです。で、リフができたあとに「こういうメロディを乗せてみよう」「こういうアプローチをしてみよう」ってディスカッションしながら作っていきました。その段階からポップなAORサウンドにしようっていうイメージはあったので、「ここにサックスソロが来たらかっこいいよね」とか「ここのベースはスラップだね」とか具体的な話もしつつ。

──リフから曲を作ることは、今までにもあったんですか？

初めてでした。かなり貴重な経験でしたね。ああ、こういうやり方でも曲はできるんだなあって思いました。レコーディングも含めて、毎回勉強させてもらえることばかりなので楽しいです。

──グルーヴ感のあるバンドサウンドに合わせて、歌声も心地良く響いていますね。

気持ち良く歌えました。デビューシングルの「bird」のときと比べると、レコーディング作業にもちょっとずつ慣れてきて、そんなにテイクを重ねずできるようになってきましたね。「パラレル＝」では、グルーヴィなサウンドにどう乗るかっていうアプローチの仕方もわかるようになってきたし、カッチリ歌わなきゃっていう気持ちではなくとにかく楽しく歌えたので、それが少ないテイクで録れるようになった理由なのかもしれないですね。

──テクニックではなく感情をより優先するように、変化してきたんでしょうか。

そうですね。昔のデモを聴くと歌い方が変わったことに気付くんです。それは、昔は自分の声に自信がなかったけど、自分の声や歌い方のおいしい部分がだんだん見えてきたからだと思います。

──現段階で指田さんのボーカルのおいしいところってどんな部分だと思いますか？

飾って歌わないっていうところだと思います。そこは常に意識してるし、そもそも飾って歌うことがあまり好きではないので。

──曲に身を委ねて、そこから浮かび上がった感情を正直に、素直に歌に乗せるっていうことなんでしょうね。音源を聴いているとそんな気がします。

歌としてというより本を読むみたいな感覚で歌うっていうことは、レコーディングでもライブでもとにかく気にしていることなんです。歌詞を読むような気持ちで歌うことで、感情を素直に出すことができるので。そういう意味では、今作のカップリングに入っている「君とさよなら」は、かなり感情が入ってしまって。3テイク歌録りをしたんですけど、最後は泣いてしまったんですよ。泣いてしまったからボツかなって思ったんですけど、満場一致でそのテイクを使うことになったんです。あとで聴いてみたら自分でもそのテイクが良いなって思えたので、やっぱり感情が出た歌っていうのはすごく良いんでしょうね。

自分で全ての楽器を演奏したいっていう気持ちもある

──では、そんな「君とさよなら」のお話を伺います。これは終わってしまった恋を描いたちょっと悲しい曲ですけど、それを経て先をちゃんと見ているという部分では、悲しいだけではない印象もあって。

この曲は、ひとりぼっちになってしまったけどそこからどうしていくのかっていうのを、聴いてくれる人に問いかけるのがテーマになっています。

──いつごろ生まれた曲ですか？

これは自分の処女作と言ってもいいぐらい初期の曲なんです。高校卒業くらいのタイミングだったと思います。自分の中ではすごく気に入ってる曲だったので、いつか音源化したいなと思って温めてたんですよね。

──「初期は暗い曲ばかり書いていた」と以前おっしゃっていましたが、これはその時期の曲ですか？

その中の1曲です（笑）。でも、もっとドップリ暗い曲がいっぱいあるので、これは比較的光が見える曲ではあるんですけど。ライブではデビューする前から絶対にやっていたし、ライブテイクをCDにしてお客さんに配ったりもしてたので、本当に思い入れが深い曲ですね。この曲はギターで披露したこともあります。

──ギターも弾けるんでしたっけ？

あんまり弾けないんですけど（笑）、曲が持っている素朴な感じにギターが合うかもと思ったので、アコースティックギターを買って弾いてみました。最終的にはピアノに落ち着いたんですけどね。

──曲が求めていれば、ピアノ以外をメインの楽器にしてもいいっていう柔軟さは素敵だと思います。

レコーディングでは自分で全ての楽器を演奏したいっていう気持ちもあります。だからちょっとずつでもピアノ以外の楽器を覚えていきたいです。今後はライブでもピアノをメインにしつつ、たまにエレキギター持ったり、ボーカルだけに専念したり、曲によって多種多様な見せ方をしていけたらいいなって思っています。