ナタリー PowerPush - sasakure.UK
土岐麻子と読み解く「幻実アイソーポス」
ネットシーンから現れたクリエイターsasakure.UKが4月11日に2ndアルバム「幻実アイソーポス」をリリースした。この作品は、世界の寓話や伝説、不思議な現象などをsasakure.UK独自の詩観で綴ったコンセプトアルバム。楽曲ごとのコンセプトに合わせて、ボーカロイドとゲストボーカリストの生声を使い分け、幻想的な音世界が繰り広げられる。
ナタリーでは、この作品を読み解くためにアルバムのリード曲「深海のリトルクライ」のボーカリスト土岐麻子をゲストに迎えて、対談を行った。
取材・文 / ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) 撮影 / 井出眞諭
書き下ろし曲というのがすごくうれしかった
──今回sasakure.UKさんのアルバム「幻実アイソーポス」に収録されている「深海のリトルクライ」という曲に、土岐麻子さんが参加されたんですよね。このコラボレーションは、どのような経緯で実現したんですか?
sasakure.UK 僕が土岐さんの大ファンだったので、ダメもとでお願いしたんです。
土岐麻子 元々は接点がなかったんですけど、今回の作品で声をかけていただきました。
──sasakureさんは、そもそもCymbalsの大ファンだとか。
sasakure.UK はいっ! 緻密にアレンジされているのに、ポップで聴きやすいという部分には、特に大きな影響を受けてます。「アメリカの女王」(※アルバム「Love You」収録)のロックとしてビシビシ伝わってくるアプローチなどは本当にたまらないです!
土岐麻子 恐縮です(笑)。私としては、何より曲が素晴らしかったので、歌わせていただくことにしました。
sasakure.UK この「深海のリトルクライ」は、初めから土岐さんをイメージして書いたんですよ。オファーを受けてもらえるかどうかはさておき(笑)。
土岐麻子 私をイメージして書き下ろしてくれた、というのがすごくうれしかったですね。この作品での共演が縁で、sasakureさんには私が去年12月に出したベストアルバム(「BEST! 2004-2011」)で「Little Prayer」という曲のリミックスをしてもらったんです。
sasakure.UKの世界観は2Dっぽい
──土岐さんが「深海のリトルクライ」を初めて聴いたときの感想を教えてください。
土岐麻子 世界観がとても衝撃的でしたね。うまく言えないんですけど、sasakureさんのトラックは2Dっぽいなと思ったんです。ゲーム音楽っぽいっていうのかな……。
sasakure.UK 言わんとしてること、なんとなくわかります。僕、とにかくファミコンの音が大好きで。「グラディウス」とか「ダライアス」の音楽は本当にカッコいいと思います。でも、一番はすぎやまこういちさんの「ドラゴンクエスト」かな。オーケストラを3和音で表現してるんですよ! チープな音だけど、僕の中ではまるでオーケストラのように響いたんです。あの衝撃はすごかった。その感動があるので、今でもチップチューンというか、8ビットの音をよく使ったりするんです。
土岐麻子 sasakureさんは、和音へのこだわりもすごくありそうなんだけど、単音感も随所にあって、そのバランスが面白いなと思ってたんです。昔のゲーム音楽がルーツだったっていうのを聞いて、すごく納得しちゃいました。
──「深海のリトルクライ」を実際に歌われてみた感想は?
土岐麻子 難しかったですね。私の声は人肌っぽい声だと思っているので、抑揚をつけて歌うと、歌だけ違う次元にいる人みたいになってしまうような気がして。最初はボーカロイドの声のほうが合うんじゃないかと思ったくらい。私もいろいろ試行錯誤して、今回の形に行き着きました。
sasakure.UK おかげさまで、歌入れしていただいたものを聴いたときは「完璧だ!」と思いましたよ(笑)。
歌詞を書き変えた「深海のリトルクライ」
──「深海のリトルクライ」の物語はどうやって生まれたんですか?
sasakure.UK 僕は曲を作るとき、まず物語を創作します。その話に合うように作詞・作曲をしていくんですが、この曲は最初アンデルセンの「人魚姫」をモチーフにした暗い歌でした。
土岐麻子 率直な痛みがクローズアップされた歌詞で、最後は主人公が泡になっちゃうほど、自分の身を犠牲にしてまで突き進むって話だったんです。でも、制作中に東日本大震災があって。あの状況下でそういう歌詞を歌うことには、どこか違和感があって。
sasakure.UK それで僕も歌詞を書き変えたんです。主人公を「人魚姫」に憧れる現代の女の子にして、その子が童話と向き合って揺れ動く気持ちを描きました。主人公の女の子の心情を読み取って聴いてもらえるとうれしいですね。
土岐麻子 最初の歌詞の中に自らの犠牲を全く厭わない前向きな主人公の姿があったので、その原動力にポジティブなパワーがあるはずだと考えたんです。だから、歌詞にもっと希望があってもいいはずだって。そこからsasakureさんが第2稿をあげてくれて、今の歌詞になって。私もすんなり歌に入ることができました。
CD収録曲
- プロローグ・幻実アイソーポス
- ロストエンファウンド feat. 初音ミク
- オオカミ少年独白 feat. Cana(Sotte Bosse)
- タイガーランペイジ feat. 鏡音リン
- 突然、君が浮いた feat. そらこ
- ナキムシピッポ feat. 初音ミク
- コイサイテハナ* feat. mirto
- バタフライ・エフェクト feat. ちょうちょ
- SeventH-HeaveN feat. 初音ミク
- 深海のリトルクライ feat. 土岐麻子
- インタールード・ヒトとキジン
- 否世界ハーモナイゼ feat. 鏡音リン
- ガラクタ姫とアポストロフ feat. 初音ミク
- エーテルの機憶 feat. 巡音ルカ
- 再鋼築フィクション feat. ピリオ
- エピローグ・幻実アイソーポス
- タイガーランペイジ feat. 有形ランペイジ
初回限定盤DVD収録内容
- ロストエンファウンド feat. 初音ミク (Music Video)
- タイガーランペイジ feat. 鏡音リン (Music Video)
- ナキムシピッポ feat. 初音ミク (Music Video)
- コイサイテハナ* feat. mirto (Music Video)
- バタフライ・エフェクト feat. ちょうちょ (Music Video)
- 深海のリトルクライ feat. 土岐麻子 (Music Video)
- ガラクタ姫とアポストロフ feat. 初音ミク (Music Video)
sasakure.UK(ささくれゆーけー)
2007年ごろよりボーカロイドを使った楽曲の投稿をはじめたボカロPであり映像制作やイラストも手掛けるマルチクリエーター。2010年には、1stアルバム「ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?」をリリース。さらに同作収録曲「*ハロー、プラネット。」のビデオクリップを元にしたPSP用ゲームソフト「初音ミク -Project DIVA-」の追加ダウンロードコンテンツ「ミクうた、おかわり」にて自身監修のゲームも発表された。2011年には土岐麻子のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」にリミキサーとして参加。2012年4月に2ndアルバム「幻実アイソーポス」をリリースした。
【土岐麻子ライブ情報】
土岐麻子が約3年半ぶりにLIQUIDROOM ebisuでワンマンライブを開催。4月15日までオフィシャルサイトで先行予約を実施中!
(タイトル未定)
2012年7月8日(日) 東京都 LIQUIDROOM ebisu
OPEN 17:30 / START 18:00
チケット料金:5500円(税込)オールスタンディング ※ドリンク別
一般発売日:5月12日(土)
土岐麻子(ときあさこ)
1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートする。洗練されたジャズエッセンスと土岐麻子流シティポップが天衣無縫に融け合う音楽性はミュージシャンからの支持も厚い。2011年12月に初のオールタイムベストアルバム「BEST! 2004-2011」をリリースしている。2012年7月8日、約3年ぶりとなる東京・LIQUIDROOM ebisuでのワンマンライブを行う。