ナタリー PowerPush - 笹川美和

もうすぐ30代、揺れる世代の恋愛観が共感呼ぶ「都会の灯」

前作「愚かな願い」を古巣・エイベックスからリリースし、メジャー復帰を果たした笹川美和が、新作となる6曲入りミニアルバム「都会の灯(まちのあかり)」を完成させた。都会の情景と切ない恋愛模様が重なるタイトル曲「都会の灯」、美しい叙情性に満ちたボーカルが印象的な「午前4時36分」(WOWOWドラマ「天の方舟」主題歌)などを収録した本作は、20代後半~30代の女性が強く共感するであろう、大人のポップス集に仕上がっている。

柴咲コウへ楽曲提供(アルバム「リリカル*ワンダー」の収録曲「恋守歌」の作曲と演奏を担当)を行い、舞台「+GOLD FISH」で女優業にも挑戦。30歳を目前にしてさらなる充実期を迎えつつある彼女にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

鏡の自分に向かって「あけましておめでとうございます」

──今年の年越しは、新潟の実家で過ごされたとか。

笹川美和

そうなんです。自分の部屋に1人でいたんですけど、鏡に映っている自分に向かって「あけましておめでとうございます」って言って(笑)。お月様が出てて、雪も降っていなくて、すごく穏やかで……。こういうのもいいもんだなって思いましたね。

──日本の正月って本来、静かな気持ちで迎えるものですからね。2013年の目標みたいなことも考えました?

今年は30歳になるので、しっかりした大人になりたいな、と。まずは普通の会社勤めの人と同じように朝きちんと起きれたらいいなと思ってます(笑)。栄養面にも気を付けて、基礎的なことをしっかりやりたいですね。やっぱり体が資本だし、人に迷惑をかけないように……。あと、NHKの「ファミリーヒストリー」という番組にコロッケさんが出ていて、お母さんから教わった「あおいくま」という言葉を心に留めているという話をしていたんですよね。焦らない、怒らない、いばらない、くさらない、迷わない、で「あおいくま」。私もこの言葉を心に置いて過ごそうと思います。小さなことでイライラすることも多いので。

──堅実ですねえ。音楽活動においては?

これは私1人の力では無理なんですが、お休みはなくてもいいので、お仕事を精力的にがんばりたいです。20代を振り返って「がむしゃらにがんばったと言えるものがあるか?」と言われると、ちょっと微妙なんですよね。今年はとにかくがむしゃらにやってみる。それが30歳っていう節目の年であってもいいのかなって。

“街”でもないし、“町”でもない「都会の灯」

──2013年最初のアクションがミニアルバム「都会の灯」のリリースとなるわけですが、前作「愚かな願い」との関連性を含め、何かテーマにしていたことはありますか?

特にテーマみたいなものは考えてなかったんですけど、今回の収録曲はここ1年から1年半くらいの間に書いた曲ばかりなので、今の等身大の自分だったり、20代後半から30代にかけて感じていたことが出てると思います。多分男性も女性もそうだと思うんですけど、だんだんと中間管理職の年代に入ってきたというか(笑)、下の世代と上の世代に挟まれて、自分のあり方を見つめ直す時期なんですよね。私もそういうことができるようになってきて、いろんな葛藤だったり、考えることもあって。今まで以上に赤裸々に自分のことを歌ってる気がしますね。

──30代が近付いたことで歌の内容にも変化が出てきた?

そうですね。しっかり自分を見つめ直すことで、「音楽をやるしかない」って腹をくくったんですよね。悩みつつも前向きになれたというか、「音楽を続けるって決めたんだから、しっかりやろう」と思えるようになったので。今は楽しくなってきてますけどね、少しずつ。

──今回のミニアルバムからも、正面から音楽と向き合っている姿が感じられました。特にタイトル曲の「都会の灯」は、笹川さんの新しい代表曲になっていくんじゃないかな、と。

ありがとうございます。「都会の灯」は曲を書いてるときから「いいかも」って思えたし、完成したときもすごくうれしかったんですよ。私、レコーディングが終わった曲は家で歌わなくなることが多いんですけど、この曲はピアノを弾きながら歌ってみることも結構あって。私と同じように「このままでいいのかな」って思ってる人に聴いてもらって、少しでも前向きになってくれたらうれしいですね。……って、ちょっときれいごとみたいなことも思ってます(笑)。

──(笑)。この曲の主人公は、都会に暮らす30歳前後くらいの女性で、彼氏だかなんだかわからない、微妙な関係の男性がいて……。

そのとおり! 「彼氏だかなんだかわからない男」っていうのが肝なんですよ。

──歌い出しが「今からおいでと言われたら 出かけちゃうでしょ」ですからね。

「都合のいい女っていうのはわかってるんだけど……」ってことですよね。「別れようと思えば、いつでも別れられる。でも、今はこのままでいい」っていう。これが10代後半とか20代前半だったら、なんとかして自分のほうに振り向かせようとがんばると思うんですよ。でも30歳くらいになってくると、「どうせ都合のいい女だから」って諦めつつも「でも……」っていう感じになってくるんじゃないかな、と。そういう人、実はたくさんいると思うんですよね。

──そう思います。めちゃくちゃリアルですよね、この歌は。

私の周りにもいますよ。「やめたほうがいいってわかってるんだけどね」と言いつつ、一番肝心な部分をわかろうとしていないっていう人が。私にも経験がありますからね、過去には(笑)。どうしてこのテーマにしようと思ったかは曖昧なんですけど、書いてるうちに楽しくなってきたんですよね。歌ってることは「都合のいい女」なんだけど、それをいかにオシャレに表現するかということを考えながら。あんまりドロドロにならず、キレイにサラッと聴けるというか。

──なるほど。ちなみに“都会”を舞台にしたのはどうしてなんですか?

「まちのあかりを」というサビのフレーズがフッと出てきて、それを歌詞にするときに「“街”でもないし、“町”でもない。やっぱり“都会”なんだよな」と思って。で、都会と書いて“まち”って読むことにしたんです。「東京の人の無関心がちょうどいい」っていうことがあると思うんですよね。例えば泣いてる女性がいたとしても、東京の人は素通りしてくれるじゃないですか。冷たい都会の温度がちょうどいいというか……。多分新潟だったら、「どうした?」ってすぐに人が話しかけてくると思うので(笑)。

──アナログレコーディングによるノスタルジックなサウンドも、この曲のムードにピッタリですよね。

私が提案したことではないんですけど、すごく良い雰囲気だと思います。バンドの皆さんと一緒に「せーの」で録ったんですが、それも自分に合ってると思うんですよね。“グルーヴが一緒”というのがすごく気持ちいいし、それが自分の特徴や個性にもつながってるんじゃないかなって。問題はレコーディングの機材が故障したときかな(笑)。とにかく部品も少ないし、機材を直せる人も少ないので。

ミニアルバム「都会の灯」/ 2012年1月16日発売 / cutting edge / CTCR-14785 / Amazon.co.jpへ
CD収録曲
  1. 午前4時36分
  2. 都会の灯
  3. プリズム
  4. 晴れてくるだろう
  5. 泣いたって
  6. 今日
笹川美和(ささがわみわ)

1983年2月23日生まれ。新潟県出身のシンガーソングライター。学生時代から地元・新潟を拠点に音楽活動を始める。2003年にエイベックスよりシングル「笑」でメジャーデビューし、シングル9枚とアルバム4枚をリリース。その独創的な世界と歌声が話題を集め、数々のCMやドラマの主題歌に起用される。2007年、インディーズレーベルへ移籍し、ミニアルバム4枚とフルアルバムを1枚リリース。2010年にはFUJI ROCK FESTIVALにも出演。2012年、5年ぶりにエイベックスと再契約して8月にミニアルバム「愚かな願い」を発表する。2013年1月には第2弾ミニアルバム「都会の灯」もリリース。現在も新潟在住で、地元ならではの感性から生み出される音楽性は広く支持を集めている。