音楽ナタリー PowerPush - サザンオールスターズ
「葡萄」を読み解く全曲レビュー&3つの考察
- 09. 東京VICTORY
- 来るべき2020年の東京オリンピックへの高まる期待を歌いながら、3.11以降の日本人へエールを送る2014年9月発表のシングル曲。荘厳な雰囲気が漂うコーラスのイントロから、アコースティックギターと共に歌われるサビ~Aメロ、そしてバンドによる一体感のある演奏へと流れ込んでいくドラマチックな展開に胸が熱くなる。「時が止まったままの / あの日のMy hometown / 二度と戻れぬ故郷」という一節がありながらも、希望、生命、出逢い、愛……というポジティブなキーワードをもって未来を見据えている。
- 10. ワイングラスに消えた恋
- ここで原由子メインボーカルによるナンバーが登場。昭和歌謡のムード感を意識しながらも、古臭さをにじませないアップデートされたアレンジがうまい。女と男の別れの情景を写実的に描いた歌詞も昭和的で、「テーブルに置かれた指輪 / 帰らないあの日あの時」というラインが心に残る。“大衆音楽の粋、ここに極まれり!”というアルバムのキャッチコピーを象徴するような1曲だ。
- 11. 栄光の男
- 桑田佳祐にとっての“栄光の男”とは、読売巨人軍の長嶋茂雄。ジャイアンツが9年連続して日本シリーズを制したV9時代における不動の4番打者だ。V1を達成した昭和40年に9歳だった桑田少年の目には背番号3の華々しい活躍が焼き付いており、今も鮮やかによみがえるのだろう。長嶋をテーマにしつつ、同世代の男たちへの応援歌としたストレートなフォークロックサウンドが胸に突き刺さる。
- 12. 平和の鐘が鳴る
- ここで歌い描かれているのは、関東大震災や太平洋戦争などの出来事。焦土と化した日本と深い悲しみを背負った国民が今一度、未来へ向かって立ち上がったことに敬意を払い、その帰結として現在の自分たちがあるということをピアノとストリングス、ドラムだけのシンプルな旋律と共に桑田が厳かに歌い上げていく。きな臭い時代となった今こそ、この真摯な思いを多くの人に届けたかったのだろう。
- 13. 天国オン・ザ・ビーチ
- 重みのある曲から一転、あっけらかんとした明るいメロディと下ネタオンパレードの歌詞の曲へ流れ込む。でも、この下世話さもサザンの魅力の1つ。「シャボン玉ホリデー」や「ドリフ大爆笑」の笑いのノリを取り込みつつ、昭和アイドル歌謡調に仕立て上げたのも桑田にとっての原風景的な思い出があったからだろうか。下世話なムードを盛り立てていくストリングスとホーンのアレンジはトルネード竜巻でも活躍した曽我淳一。
- 14. 道
- まるでデモ音源のようなラフなタッチが残されたバラード。アコースティックギターをかき鳴らしながら、地声で歌われるような気だるい雰囲気から感情をほとばらせた張りのあるボーカルへの“舞台転換”が行われる瞬間にハッとさせられる。この曲で自らを“歌うたい”と称する桑田が、これまで歩んできた“道”を客観視して歌っているようなエモーショナルなナンバー。アルバムがクライマックスへと向かう中でよきフックとなっている。
- 15. バラ色の人生
- 愛し合うとは互いの心と体をリアルに重ね合わせるもの。そんな根源的な欲求を洗練された疾走感のあるメロディと共に高らかに歌い上げていく。曲の後半に至ると、技術の進歩によってSNSのような間接的なコミュニケーションを取る世代に直接的な触れ合いによる喜びを分けてあげたいとも歌われる。そんな人間臭い昭和の時代と、その臭いが希薄になっていった平成の世のコントラストも浮かび上がらせているようだ。
- 16. 蛍
- 百田尚樹原作の映画「永遠の0」の主題歌だったバラードで、この大作は幕を閉じる。大切な人がこの世を去った哀しみを桑田は切々と歌い上げ、オーケストラの荘重な伴奏がそのかけがえのない思いを増幅させていく。戦後70周年という節目を迎える今年、「夢溢る世の中であれと / 祈り」と掉尾を飾るこの曲が多くの人の胸に深く刻まれるはずだ。
油納将志(ユノウマサシ)
1973年生まれ。大学卒業後に「ミュージック・マガジン」での寄稿を皮切りにライター / 編集としての活動を開始。イギリスのロックやポップミュージックを中心に、洋邦問わず幅広いジャンルの原稿を執筆している。またCS放送の番組でオンエアされる楽曲の選曲やコンピレーションCDの企画なども行っている。
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- ニューアルバム「葡萄」2015年3月31日発売 / タイシタレーベル
- 完全生産限定盤A [CD+グッズ+DVD] / 7020円 / VIZL-1000(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+“おいしい葡萄の旅”Tシャツ+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
- 完全生産限定盤B [CD+グッズ+DVD] / 4860円 / VIZL-1010(CD+オフィシャルブック「葡萄白書」+ボーナスDVD / 特製BOX入り)
CD / アナログ収録曲
- アロエ
- 青春番外地
- はっぴいえんど
- Missing Persons
- ピースとハイライト
- イヤな事だらけの世の中で
- 天井棧敷の怪人
- 彼氏になりたくて
- 東京VICTORY
- ワイングラスに消えた恋
- 栄光の男
- 平和の鐘が鳴る
- 天国オン・ザ・ビーチ
- 道
- バラ色の人生
- 蛍
サザンオールスターズ
1975年に青山学院大学の音楽サークルで結成。現在のメンバーは桑田佳祐(Vo, G)、関口和之(B)、松田弘(Dr)、原由子(Key)、野沢秀行(Per)の5名。1978年6月にシングル「勝手にシンドバッド」でデビューし、独自の音楽性が当時のシーンに衝撃を与える。1979年3月に3rdシングル「いとしのエリー」の大ヒットにより幅広い層に受け入れられ、名実ともに日本を代表するロックバンドの仲間入りを果たす。その後も時代の変化に伴い、さまざまなアプローチで革新的かつ大衆的な楽曲を発表。1992年7月のシングル「涙のキッス」が初のミリオンヒットを達成し、1999年発表の「TSUNAMI」は293万枚の売り上げを記録する。その後デビュー30周年を迎え、バンドは2009年から無期限活動休止期間に突入していたが、2013年6月に活動再開を発表。同年8月に54thシングル「ピースとハイライト」をリリースし、大規模な全国ツアーを開催した。2015年3月、前作「キラーストリート」以来9年半ぶりのオリジナルアルバム「葡萄」をリリース。4月からは全国10都市21公演のツアー「おいしい葡萄の旅」を実施する。