ナタリー PowerPush - 五月女五月

俺たちは“人”か“人間”か!? 苦悩と本能の塊「地獄変」で衝撃デビュー

フレットに「G」とか「C」とかマジックで書いて

──そういう考え方をするようになったのは、バンドを始めてから?

最近ですね。4人でバンドをやってるんですけど、僕が見つけた共通点がそれだったんですよ。音楽の趣味もバラバラっていうか、元々音楽大好きって感じじゃないんで。ギター(土橋依寿々)はギターが好きみたいですけど、ベースもドラムも楽器が好きじゃないって言ってて。僕も歌うのは好きじゃないし、人前とかも嫌いなほうなんで。

──だけど精神的にはつながっている、と。3人でやってたときは、どうやって曲を作ってたんですか? コピーから始めるって感じでもないですよね?

コピーとかしたことないです。できる技術がないので。最初にスタジオに入ったとき、アンプのつなげ方もわかんなかったんですよ。コードも1個もわかんないから、とりあえず音を鳴らして。そこから始まった感じですね。

──ただ音を鳴らしてるだけ?

はい。昔のこととか、あんまり覚えてないんですけど。僕とベースとドラムが初めて集まった次の日に、とりあえずスタジオに入ったんですよ。名前もちゃんと覚えてない感じで、もちろん敬語で話していて。その日、大晦日だったんですよね。スタジオの人たちも忘年会だったらしくて、階段で酒瓶が割れてて。「バンドってこうなんだね。怖いね」って話をしてたのは覚えてますね。で、とりあえず全裸になって音を出しまくって。

──なんで全裸なんですか?

いや、ベースに「全裸にならないとわからない」って言われて。シラフですけどね、僕らは。外ではどんちゃん騒ぎでしたけど。

──コピーをやってないってことは、いきなりオリジナル曲を作ったということですよね? その状態から、どうやって曲を作ったんですか?

えーと、僕が基本的に曲を作るんですけど、最初にコードを3つくらい覚えて。GとCとDとかなんですけど、これだけあればいけるなって。もちろんベースもコードなんて知らないし、音感もないから、フレットに「G」とか「C」とかマジックで書いてましたね。で、「Gを弾くから、そっちもGを弾いて」っていう感じで。3つのコードだけで、4曲くらい作ったのかな。結成3カ月くらいで、もうライブやってましたからね。

──ライブの知識なんかもないですよね?

もちろん何もわかんないです。ベースがアンプにつなげたんだけど、全然音が出ないんですよ。うろたえてたら、ライブハウスの人が「それ、ギターアンプだよ」って。僕も全然わかんないから、全部やってもらって、音を出るようにしてもらって。初ライブはどうだったのかなあ? いつの間にか終わってた感じですかね。

1%でも「ダサいかも」って思ったらやれない

──そのとき演奏した曲はデビューアルバム「地獄変」に入ってるんですか?

いや、全然。当時のは「アホ、バカ、カス、シネ」って叫んでるだけの曲とかなんで。むしろ、それがいちばんの曲だったんですよ。そのときは「めちゃくちゃカッコいい」って思ってたんだけど、今当時のライブ映像を観ると、ものすごくダサい。それはずっと同じだと思うんですよね。今のライブもめちゃくちゃカッコいいと思うけど、おそらく3カ月後にはめちゃくちゃダサいって感じるはずなので。すごく成長してるんと思うんですよ。

──あの、結成当初のライブの反応って、どんな感じなんですか? 

今でも同じですね、反応は。「ああ、そう」みたいな感じで終わり。あ、でも最近はようやく、知らない人もライブに来てくれたりするから、それはすごくうれしいんですけど。最初の頃はもう……「なんで気付かないんだろうね」とか、そんな話ばかりしてました。

──こんなにカッコいいのに、って?

そうそう。そういう自信がなくなったら、おしまいだと思うんですよ。全員が100%カッコいいと思ってることが大事で、誰かが1%でも「ダサいかも」って思ったら、もうやれないので。

──なるほど。その後、ギタリストの土橋依寿々さんが加入するわけですが、4人になったことでどんな変化がありましたか?

僕がギターあんまり弾けないから、幅は広がったと思いますね。横幅も。デブな女の子なんで。

──デブって。怒られますよ。

いや、ホントにデブなんですよ。でも、最近ギターいいなって思えるようになりましたね。最初は「めちゃくちゃ上手だな」って思ってたんですよ。でも、「案外うまくない。下手だな」って気付いて、それがすごくいいなって。まあ、うまいとか下手とか、よくわからないんですけどね。とにかく変わったギターを弾くので。

──技術は関係ないんですよね、五月女五月には。

「うまいとか下手って、なんだろう?」っていう話もするんですよ。何でうまいバンドはカッコよくないのか、とか。今でもあんまりわかんないんだけど、完成されてるからじゃないかな? っていう。今は自分たちも、最低限のことはやろうって思ってますけどね。例えば「ワン、ツー、スリー、フォー」の「ワン」のところはジャーンって揃えよう、とか。そういえばドラムも上手くなるのがイヤだって言ってますね。うまくなるっていうのが「冷静に、マニュアルどおりに叩く」っていうことであれば、そういうふうにはなりたくないって。まあ、下手クソですけどね。練習でもスティックを落としまくってるし。

デビューミニアルバム「地獄変」/ 2011年12月6日発売 / 1680円(税込)/ LD&K Records / 230-LDKCD

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収録曲
  1. 愛と正義
  2. 苛立ちとタスク
  3. ささきさん
  4. 美徳
  5. 落とし穴
  6. けむり
  7. 地獄変
五月女五月(さおとめさつき)

2010年9月に関田諒(Vo, G)と与那城哉斗(B)が出会い、同年12月31日に柳田遊寿(Dr)を加えてバンドを結成。その後、土橋依寿々(G)が加入し現在の4人編成となる。東京都内を中心にライブ活動を行っていたところ、LD&K Recordsスタッフの目に止まり、結成からわずか1年足らずで1stアルバム「地獄変」をリリース。