鈴木茂の長尺ギターが1曲目から炸裂
──楽曲はほぼ佐野さんの作詞作曲ですが(「風狂い」のみ詞は松本隆、曲は鈴木茂)、どういう感じでイメージを伝えたんですか?
佐野 まずは僕がギター1本の弾き語りで「こんな感じの曲ですよ」と皆さんに聴いてもらったり、歌詞とコード譜をお送りしたりしました。なので、事前にどういう曲かは伝わってましたね、茂さん以外は(笑)。
──鈴木さんには伝わっていない?
林 それはなぜ?(笑)
佐野 茂さんは、現場主義者なんです。
鈴木茂(G) そうですね。
佐野 茂さんは常に初心で、そのとき出てる音に反応することに集中するんですよね。
鈴木 現場主義ですから(笑)。
佐野 事前に決めてきたリフとかをそのまま弾くことはないとお見受けしましたが。
鈴木 いやいや、そんなことはないんですけどね。いろいろやり方はあるんで。
佐野 それは失礼しました! でも、茂さんはブースでは何も決めずに弾いてるように見えるんですけど、もう次から次へとすごいフレーズが出てくるわけですよ。その集中力たるや!
林 茂のそれってわりと昨日今日で始まったことじゃないからね。
小原 茂、自分で弾いたフレーズ、覚えてる?
鈴木 もちろんですよ。
小原 1回聴き直さないと思い出せない、なんてことはない?
鈴木 まあ、そういうときもあるけどね。今回はうまくいったってことですよ。
小原 すごくギターがよかったんだよ。「風狂い」とか、よかったよね。
林 1曲目の「ADVENTURES」から茂ワールドが炸裂してる。
佐野 そこは、僕が曲を書いているので、ギターソロもちょいと長めにさせていただいて。長年のファンの皆さんが聴きたいと思うものを自分も聴きたいし録音もしたいわけですよ。なので間奏のソロもできるだけ長くする! 皆さんも茂さんの長尺のギターソロが聴きたいんじゃないかと思うので。
勝新太郎を思い起こさせる存在感
林 この4人(SKYEと松任谷)はね、同級生なんですよ。昭和26年(1951年)生まれで、まったくの同い年。こういうのは珍しいんじゃない?
小原 全員うさぎ年。僕と林は中学生のときから一緒にアマチュアバンドをやってたんで、一番長いよね。
林 50年以上。僕の両親はもういないんで、もはや小原が僕とは一番長い仲なんです(笑)。
小原 あの頃聴いてた音楽の趣味からいまだに僕は変わってないよね。
林 まったく成長してない(笑)。
小原 あの頃好きだったものが体に染み付いてて、このアルバムのレコーディングでもそういうものが出てきてた。
佐野 僕は皆さんからすると年齢では4歳下の弟分なんです。だけど、島根県松江市で小学校高学年くらいからThe Animalsとかを聴いてたんで、音楽の話をしても「同じものを聴いてたんだな」って思いました。でも、現場に入って皆さんと音を出すとなると……なんだろうなあ。例えば、映像の世界では僕は萬屋錦之介さんと共演したり、勝新太郎さんと飲みにいかせてもらったり、とんでもなくすごい方々とご一緒させていただく機会もなくはなかったわけです。だから、今回もそういうレジェンドの皆さんとやるんだと思えばいいや、みたいな感じはありましたね(笑)。
林 俺たち、勝新太郎なんだって(笑)。すごいなあ。
佐野 でも、そういう感じですよ。芝居だって僕は下手なんだから音楽も一緒だと思って一生懸命やるしかなかった。自分が聴きたい音を自分の出せる範囲内でしっかりやれば、あとは皆さん僕が何も言わなくてもすごい音で返してくれるので。実際、松任谷さんからキーボードをダビングしたトラックが送られてきたときも「100倍返しだ!」って思いましたから。
林 あれは本当にそうだったね。曲が一気に立体的になったし、カラフルにもなった。
──そこでどういう音が必要かについては、松任谷さんは長年のプロデューサーとしての意識も働くわけですか。
松任谷 演奏にカラーを付ける役割なのかなとも思ったんですよ。バンドで録った音を最初に聴いた感じは(Bob Dylan & The Bandの)「ザ・ベースメント・テープス」みたいでしたね。デモテープとは言わないけれどすごく手作り感があったし、そういう音楽がやりたいのかなと思った。それで、実は譜面も演奏面のリクエストも見ずに、「僕だったらこうする」という感覚で勝手に弾いたんですよ。
レジェンドと呼ばれるゆえん
佐野 そのお話を松任谷さんからあとで聞いて、すごくうれしかったんです。僕も俳優の仕事をやるときにはもちろん台本を読んでセリフも覚えるんですけど、まずはその役がどんな状態にあるのかを体に入れるのが一番大切だと思ってるので。言葉だけ覚えてセリフを言うことが目的になるとなんの話かわからなくなるんですよ。現場に入ったら台本は持たずに、その場で探りながら言葉を選んでいく。松任谷さんも今回、一緒にスタジオでは演奏してないけど、僕が語りかけたことに演奏で返事してくださったんです。
松任谷 結局、あとで譜面やリクエストを見たら、僕が自分で選んだのと同じようなことだった。「よかった」と思いましたね(笑)
林 そういうことだったのか。僕らはそんなこと全然知らずにマンタがダビングした音だけ聴いて、すごいなと思ってた。
佐野 皆さんがレジェンドと呼ばれてるゆえんは、いちいち説明をしなくても「ね、この感じでしょ」というのがちゃんと共有できることだと思います。俳優でも、その感覚は同じなんですよ。そんな皆さんとこうやって音楽が作れたことは、夢のようですよ。皆さんお忙しいので一緒に集まってレコーディングできる時間は限られていたから、飛び飛びのスケジュールで制作に気が付けば半年くらいかけていたんですけど、曲を体に入れる時間としてはそれもよかったのかな。結果的には、ものすごくぜいたくな作り方をしましたね。
小原 でも、ベーシックは1日で録ったんだよ。
佐野 そうでした。「ADVENTURES」のベーシックはテイク1でOKでしたもんね。ただ、皆さんがベーシックを録られたあとに、茂さんがギターをかぶせていく工程はすごかったですね。特に「天の邪鬼」では。
小原 指から血が出たって話ですから(笑)。
林 流血のギター(笑)。
鈴木 指は本当に痛くて。タコが取れてたときにキュンキュン弾いたもんで、血が出ちゃって。1週間くらい置いてまたやりました。めったにないことですけどね。
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“言わずもがな”で音が伝わる世代感
2019年9月26日更新