Sano ibuki|空想の街で鳴る音楽

この物語はやり切った

──ボーカリストとしての自分に対しては、どのような認識を持ってますか?

相変わらず、自分が歌っているということには違和感がありますね。子供のときに家族や友達に「音痴だ」と言われたせいもあって、ずっと歌ってこなかったんですよ。今も自信を持って歌っているわけではないし、自分でデモを作ってるときも、ボーカルが気になって何回も録り直したりするんですよ。自分の声もそんなに好きではないし……ただ、最初の頃に比べると、少しは許容できるようになってきたかもしれないです。自分の声だから受け入れづらいだけで、これが他人の声だったら気にならないかもなって。あきらめが付いたと言ったほうがいいのかな(笑)。

──「この声でやっていこう」と思えたことは、大きな変化ですよね。アルバム「STORY TELLER」、そして「SYMBOL」を作ったことで、次の展開も見えてきたのでは?

そうですね。この2作を作るために、すごい数のプロットを書いたし、登場人物のプロフィールもまだまだたくさんあって。それを使って作ろうと思えばいくらでもできるんだけど、「STORY TELLER」と「SYMBOL」でこの物語はやり切ったという手応えがあるし、次はまた違った自分を描くことにチャレンジしたいと思っていて。作品ごとにちょっとずつ作り方を変えたり、そのたびに挑戦はしてるんだけど、次作はガラッと変えてみたいんですよね。

──音楽性の幅もさらに広がりそうですね。

そうなると思います。なんと言いますか、Sano ibukiを僕個人のものにしたくないんですよ。今作もそうですけど、アレンジャーやミュージシャンの皆さんにお願いすることで、さらに世界が広がるし、立体的になるので。誰かと一緒に作るというスタイルはSano ibukiのよさだと思うし、大切にしたいんですよね。次の作品に向かうときは、また新しい方ともご一緒したいなと。

──Sano ibukiというプロジェクトになっていく?

それでいいと思ってます。僕自身が物語と曲を作っていれば、Sano ibukiの音楽は貫けるので。

まだまだこんなもんじゃねえぞ

──楽曲以外の部分についてはどうですか? 今回の「SYMBOL」のアートワーク、歌詞カードのデザインもしっかり物語に沿っていますし、そこもSano ibukiの特徴なのかなと。

確かにそうですね。タワーレコード新宿店限定でリリースしたシングル「魔法」も、盤や歌詞カードのデザインにこだわったし、そういうことがやりたくて仕方ないんですよね。CDを手に取ったときのドキドキ感だったり、そこで伝わるものは必ずあると思っているので。ライブも同じですね。曲の中に入っているものを表現して、その世界観を十二分に発揮できるライブってなんだろうと、ずっと考えていて。それも表現者としてやるべきことだと思っているので。大勢の前に立つのは得意じゃないんですけど、やるんだったら徹底的にやりたいんですよね。

──自己顕示欲はないけど、表現者としての純粋な欲求が勝っている状態?

自己顕示欲がまったくないわけじゃないですけどね(笑)。確かにライブは得意じゃないけど、物語の中に入って、登場人物の1人になることで、いい意味で自分をだますこともできると思うんです。それはきっと、楽しいと思える瞬間じゃないかなと。

──期待しています。最後に、今Sanoさんが興味を持っている音楽のジャンルやサウンドを教えてもらえますか?

いろいろ聴くんですけど、最近はジャズに興味がありますね。「Cuphead」というゲームのBGMがジャズっぽいというか、スウィング感のある音楽で。それがすごくカッコよくて、ジャズを聴くようになったんですよ。もともとはスティーヴィー・ワンダー、マイケル・ジャクソンに代表されるブラックミュージックが好きで、そのテイストを自分の楽曲にも織り込んでいたんですが、次はジャズも取り入れてみたいなと。それに限らず、もっと面白いことができると思ってるし、まだまだこんなもんじゃねえぞという気持ちもあるんですよ。「STORY TELLER」「SYMBOL」もいい作品だと思いますけど、もっともっとびっくりさせるから、待ってろよという感じですね。