Sano ibuki|空想の街で鳴る音楽

世界がさらに広がった感覚

──続く「ファーストトイ」は“初めてもらったおもちゃ”をテーマにした曲だそうですね。ノスタルジーにあふれていて、リスナーもそれぞれの思い出と重ねて聴くような気がします。

そうなってくれたらうれしいです。この曲も物語の主題歌として作ったんですが、ストーリーそのものとはちょっと違った側面を表現していて。よりリスナーに近くて、温かい曲になったと思います。

──アレンジは河野圭さんが担当されています。玉田豊夢さん(Dr)、山口寛雄さん(B)といった凄腕のミュージシャンによるバンドサウンドも素晴らしいですね。

玉田さん、山口さんには前作の「沙旅商(キャラバン)」「いとし仔のワルツ」「梟」にも参加していただいたんですが、もともとは河野さんとの「(ミュージシャンでは)どういう人が好きなの?」という話で始まっているんです。お二人の名前を挙げたら、「じゃあ、聞いてみるよ」と言ってくれて。本当にレコーディングに参加してもらえて、びっくりしました(笑)。山口さん、玉田さんだけではなく、前作のアルバムのときから素晴らしいミュージシャンの方々に加わってもらって、ありがたいですね。アレンジャー、ミュージシャンの皆さんの力によって、世界がさらに広がった感覚があるので。

──山口さん、玉田さんの演奏は、リスナーとしてもずっと聴いてたんですか?

はい。というか、お二人が参加している曲は自然と触れてるんですよね、僕の年代だと。だから自分の曲であっても、ドキッとしたり、ウルッとくることがあって。曲を作るうえで、既視感というか、懐かしさみたいなものも大事にしているんですよ。異質なものよりも、最初からそこに存在していたかのような曲を作りたいので。「ファーストトイ」も、そういう曲になっていたらうれしいです。

Sano ibuki

全部さらけ出されるような曲

──続く「DECOY」はakkinさんがアレンジを手がけています。今作の中でももっともアッパーでアグレッシブな曲だなと。

「DECOY」はおもちゃ箱のイメージですね。怖いおもちゃ箱というか、ゾクゾクするんだけど、開けたくてしょうがないという。“大人になれない子供”を意識していたところもあります。子供のときや多感な時期って、“抜け出したい”“壊したい”と思うようなことにも果敢に挑めると思うんです。それを制御されている世の中だけど、「壊していいんだぜ」という気持ちをこの曲の主人公に託したというか。

──“制御されている”というのは、今の社会の雰囲気から感じることでもある?

今の社会というより、ずっとある感覚ですね。常にフィルターがあるというか、何かに押さえ付けられているなと。それを壊せるのが子供の強さだと思うんですよ。

──物語にも同じような力があるのでは?

そうですね。物語の中ではなんでもできるので。

──そして「記念碑」はアコギの弾き語りによるナンバーです。「返事もないけど 喋り続けて 答えもないけど 問い続けて」というフレーズが印象的でした。

「記念碑」は真っ裸というか、自分が全部さらけ出されるような曲にしたかったんです。歌詞にもかなり自分が出てるとは思いますが、“自分の声”をさらけ出すというか。そのためにワンテイクで録ったんですよ。かなりヒリヒリしているし、自分でも丸裸だなと思いますね。

──Sanoさん自身の思いがまっすぐに伝わってくる曲だと思います。Sano ibukiの音楽の真ん中にあるのは、こういう強い感情なのかもしれないなと。

そうだと思います。物語を伝えたいだけなら、本を書けばいいわけで。それを歌にするというのは、聴いている人の心の中に響く心象を残したいからだし、すべての曲の核には、自分の意志があるので。