曲が進化していくのがこの仕事の醍醐味
──今年4月には東京・WWWで結成2周年ライブ「2nd anniversary LIVE『在る』」が開催されました(参照:サンダルテレフォン結成2周年ライブ「在る」、新衣装でグループ史上最速ナンバー「碧い鏡」お披露目)。1つのパッケージとしてすごく完成されたステージで、かなりの盛り上がりでしたが、ちば兄弟から見たメンバーの成長度合いはどうですか?
ちば 僕は彼女たちのライブにDJとして参加することもあって、近くで4人のことを見る機会が多いんですけど、パフォーマンスを重ねるにつれ曲が進化していくのは面白いですね。この仕事の醍醐味だと思います。自分で曲を発表する場合は曲が完成したらそこで終わりみたいなところがあって、そのあと曲が育っていくという経験はないんですよ。
──曲の完成やリリースがゴールだと。
ちば はい。でもこのグループではそうではなくて。初期の曲はもちろん、「SYSTEMATIC」(2021年1月発表の楽曲)で特に成長を感じましたね。昨年秋の1stワンマンが「ありきたりで、特別な女の子が、大人になる前に」というタイトルで(参照:サンダルテレフォン、大人になっていく姿を見せた1stワンマン)、次の曲からマイナー調の大人っぽい曲にチャレンジしたいなとプロデューサーさんと話していたんです。テンポもがっつり落として、歌詞の世界観も大人っぽくしちゃおうと。それで1stワンマンに合わせて作ったのが「SYSTEMATIC」なんです。それまで明るくかわいい歌詞が多かった中、レコーディングでも「ハの字眉でセクシーに歌って」とか言い続けて。メンバーは「えっ!」と思ったでしょうけど(笑)、その後ライブを重ねていくうちに新たな一面が見えてきて、本人たちもアーティストぶるようなパフォーマンスの入り方になっていくのが面白かったですね。
──メンバーも自分たちの成長、変化を実感してるんですか?
藤井 以前はライブ中はとにかく笑顔でいることを意識していたんですけど、「SYSTEMATIC」では笑ってるだけではダメだなと思って、表情を含めてのパフォーマンスについて考えるようになりました。「SYSTEMATIC」をきっかけに変わることが多かったと思います。
西脇 最初は「SYSTEMATIC」を歌うときにどんな顔をしていいか、パフォーマンスの仕方が全然わからなかったです。私は「笑顔がいいね」と言われることが多いからいつも笑ってたし、それが自分の取り柄だと思ってたので、笑顔をやめたら自分には何もなくなっちゃうんじゃないかと不安で。でも、メンバーを見て技術を盗んでいくうちに自分の成長を実感するようになりました。「SYSTEMATIC」はやりがいを感じる曲ですね。
naotyu- 僕としては曲のミックスに携わっている中で成長を感じることが多いです。こちらも毎回録り方を試行錯誤しているので、お互いに成長させてもらってますね。
今パフォーマンスしていて一番好きな曲
──6月8日には両A面作品「碧い鏡 / It's Show Time!」が新たにリリースされました。表題曲の1つ「碧い鏡」はけんいちさんが手がけた楽曲ですが、この曲はグループ史上最速のBPMですね。
ちば よそからしたら「そんなに速くねーよ」と思うかもしれませんが(笑)、サンダルテレフォンとしては今のところ一番速いテンポになってます。
──この曲は結成2周年ライブで初披露されましたが、そのタイミングで「SYSTEMATIC」に続く新たな一面を見せたいという目論見もあったんでしょうか?
ちば そうですね。このタイミングでこういう曲に取り組んだら新しい目線で見てもらえるかな、ということを普段からプロデューサーさんと考えています。自分の担当曲に関しては1曲ごとにメンバーに対しての課題を設定していることが多いですね。「碧い鏡」はテンポが今までと違うこと、歌詞の表現が抽象的なことが新しい点です。
西脇 最初に聴いたときはそんなに速いと感じなくて、サンダルテレフォン史上最速ナンバーと知ってびっくりしたんですけど、直感的に「この曲いいな」と思いました。たくさんの人に同じように感じてもらえる曲だと確信しています。
夏芽 「SYSTEMATIC」が恋愛の曲だったのに対し、「碧い鏡」は考えさせられるような大人な内容の曲で。私は声質的にこういう大人っぽい曲にあまり向いてなくて、もっと元気に声を張る曲のほうが歌いやすいので、レコーディングではかなり苦戦しました。
──声質的な意味では、逆に落ち着いたクールな声の持ち主である小町さんは歌いやすんじゃないですか?
小町 そうですね……この曲は「自分ってなんなんだろう」みたいな、ちょっと暗い歌じゃないですか。私も普段そう思うことがあるんです(笑)。「碧い鏡」はちばさんの曲の中で一番好きで、ダンスナンバーなのでパフォーマンスしていても楽しいです。
藤井 「SYSTEMATIC」で磨いたスキルを生かせる曲だと思います。私も今パフォーマンスしていて一番好きな曲です。
オーダーメイドで曲を作るやりがい
ちば 「SYSTEMATIC」あたりから歌割りの初期案もこちらから出すようになったんですよ。このメロディやフレーズはこのメンバーが合うなとか、けっこう決め打ちで案を出して、そこから調整していって。「碧い鏡」に関してはイントロをはじめとする英語のコーラスを、声が重なると気持ちいい西脇さんと藤井さんに担当してもらって、逆に小町さんと夏芽さんは苦しそうな歌詞が似合う声質だと思っていたので、作詞中からそこが曲とうまく噛み合うといいなと考えていました。この曲は作詞にかなり時間がかかりましたが、本人たちも悩ましい内容の歌詞が似合う時期なのかなと。毎回、「今こんな心情を歌ったら感情移入してくれるかな」と考えてますね。
──メンバーとの関係を築いてきて、それぞれの特性がわかってきたからこそできることですよね。
ちば オーダーメイドというか、特に「碧い鏡」はサンダルテレフォンに合うといいなと思って書いた曲ですね。それもあって作詞に難航したんですけど。
naotyu- 普段の仕事の中で、ここまでじっくりオーダーメイドで曲を作るのって難しいんですよ。そういう意味ではプレッシャーもありますが、やりがいもあって楽しいですね。
──メンバーのスキルが伸びるほど、作家側もいろんなことができるようになりますよね。
ちば さっきの課題の話に戻ると、キーのレンジを1つ広げてみたり、ラップとか早口のパートを入れてみたり、毎回今までと違う要素を足しているので、ライブを重ねるほどにそれが体になじんでくると思うんです。1年後、2年後にはもっと歌の表現力が高くなっていてほしいなと思いながら、グループに向けて曲を書けるのは面白いですね。それは単発の仕事ではできないことで、長く関わらせてもってるからこそだと思います。
──メンバー側としても、その課題を無理難題だと感じているわけではなく、今の自分にちょうどいい壁が用意されているという感覚なんでしょうか?
夏芽 どんどん難しくなってるなとは感じてるんですけど、私たちががんばればクリアできる課題なので、「これは絶対に無理だな」と思ったことはないですね。
次のページ »
ちょっとワルになった気持ちで